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マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第一部 王国編
10/71

第10話 婚約破棄からの魔王登場

 ハーピー達を追って最上階に辿り着いたわたし達。


 禍々しい紋様の刻まれた大きな扉が、開け放たれている。


「魔王様〜!」


 ハーピー達の飛んで行った先には玉座があり、そこには黒いフード付きのマントを纏った男が座っていた。

 マントの間から見える灰色の腕は筋骨隆々だ。

 武器のようなものは携えていない。

 フードの中の表情は伺い知れないが、ハーピー達が泣きついて来ても微動だにしない。


「勇者です! あなたをやっつけに来ました!」


 玉座を指差し、叫ぶわたし。


「てめえが勇者だと?」


 顔を上げる魔王。やはり灰色の肌だ。

 まだ若く見える。わたし達とそれほど年齢は変わらないのではないか。


「とても歴戦の手練には見えねえ」


 怪訝な表情の魔王。

 それを言われるとその通りなんだけど。


「あいつじゃないってー!

 あの剣が普通にヤバいんだってー!」

「微妙にヤバいんだってー!」

「逆にヤバいんだってー!」


「ほう」


 魔王の視線がわたしの隣で浮いているユウちゃんに向いた。


「剣を魔法で動かすのか。

 に、してもてめえからは魔力を感じられねえ」


 ユウちゃんはひとりでに動くので、わたしが魔力で操っている訳ではない。

 わたしに魔法の才能はない。

 魔法への適性は、子供の頃に調べられたので、それは間違いない。

 わたしに魔力など感じる訳がない。


「まあいい。

 勇者が来たのなら戦うのみだ」


 魔王はフードを脱ぐと立ち上がり、拳と手のひらを合わせた。

 乾いた音が響く。

 口角を釣り上げ、不敵に笑う。

 武器を使う訳ではないようだ。


「何でそんなに楽しそうなの?」


 怒ってるかと思ってた。


「オレは魔界中にその名を轟かせた。

 次は人間界で力を示す。


 勇者との戦い、楽しみにしていたぞ」


 そんな楽しみのために侵略活動されてもこっちにとっては迷惑でしかない。


「おれはザン。 魔王ザンだ」


「……ローズマリー=マリーゴールドよ」


 勇者と名乗るのは何だか気が引けたる。


「ユウちゃん!」


 わたしが呼ぶと、ユウちゃんはわたしと魔王の間に入った。


「しかし空飛ぶ剣など勇者らしくないな」


 それはそう。

 でも、わたしは剣術なんて習った事がないのだからしょうがない。


「いくぞ!」


 拳を繰り出す魔王。

 対してユウちゃんは下段から斬り上げる。

 素手と金属のぶつかり合い。


 しかし、こっちはただの金属ではない。

 伝説の勇者の剣なのだ。

 ここまでの戦いでも刃こぼれ一つもしていない。

 材質や仕組みは知らないけど、とにかく神がかったすごい剣なのだ。


 素手で殴りかかるなんて無謀な事。

 そう思った。


 しかし、


「うらあっ!」


 ユウちゃんは床に叩きつけられ、転がっていた。


「ユウちゃん!」


 今まで魔物達を難なく倒して来たユウちゃんが押し負けた。

 それも徒手空拳に。


「腰が入ってねえな」


 片腕を振り上げ勝ち誇る魔王ザン。

 その片腕の拳はよく見ると金色に光輝いている。


「魔法?」


 この輝きがユウちゃんと渡り合える理由だろうか。


「魔法じゃねえ。闘気だ。


 オレは魔法の類は苦手でな。

 この闘気で魔界で勝ち上がって来た。


 闘気を纏ったオレに剣など効かん!」


 魔法ではないようだ。

 魔王の拳は闘気とか言うエネルギーを纏っていて、それでユウちゃんに打ち勝った様だった。


「お前も本気を出せ」


「本気って言っても……」


 わたしに向かって言ってくるけど、どうする事もできない。


「わたしが何かしてる訳じゃないし……」


「そんなはずはねえ。

 その剣はお前の意思で動いているはずだ」


 ユウちゃんをわたしが動かしている?

 そんなのあり得ない。


「その剣の攻撃は腰が入ってねえし、狙いも甘い。

 お前が本気を出してねえからだ」


 ここまではあっさり魔物をやっつけてくれたユウちゃんだけど、魔王相手では分が悪いみたい。

 でも、わたしのやる気の問題なの?


「おらあっ!」


 魔王のパンチで遠くに飛ばされるユウちゃん。


「勇者との戦いなら楽しめるだろうと思っていたが、期待外れだったな。


 だったら……」


 わたしにゆっくりと近づいて来る魔王。


「弱い者いじめをするのは趣味じゃねえ。

 すぐ楽にしてやるぜ」


 全身に闘気を纏って近づいて来る魔王の威圧感に、わたしは思わず後退りしてしまう。


「マリー様!

 下がって下さい。ここはわたしが!」


 シャラーナがわたしの前に立つけど、彼にどうにかできる相手には思えない。

 何か、何か方法は……。


「ああ?」


 ザンの歩みが止まる。

 それは目の前にユウちゃんが飛んできたからだった。


「てめえはオレには敵わねえ。

 どいてろ」


 それでも切っ先を前に突き出して立ちはだかるユウちゃん。


「だったら望み通り、へし折ってやるぜ」


 魔王がそう言うと、片手に闘気が集中する。


「不甲斐ねえ主人を恨むんだなあ」


 ああ、本当に不甲斐ない。

 こんなところまでのこのこやって来て、ユウちゃんに任せっきりで。


 魔王の拳がかつてない程の輝きを放っている。

 勇者の剣と言えど折られてしまうかも知れない。


 そして、その拳がユウちゃん目掛けて飛んで来る。

 全身から放っていた闘気を片手に集中する事で、刃物を打ち返す程の闘気を作り出している。


 ん、集中している……?


「逃げて! ユウちゃん!」


 わたしは片手を突き出して、手首を捻った。

 どうしてそうしたのかは、分からない。

 とにかく必死だった。


 果たしてユウちゃんは、わたしの意思の通りの軌跡を描いて動いた。


 魔王の拳をギリギリ回避し、そのまま、その二の腕に突き刺さった。


「何だとおっ!?」


 腕から紫色の血液があふれる。

 魔王の顔が驚きと苦痛で歪む。


「魔王様あっ!」


 ハーピー姉妹達の悲鳴が聞こえる。


「マリー様、これは?!

 マリー様が勇者の剣を操ったのですか?」


 わたしは自分でも目の前で起こった出来事が信じられず、片手を突き出したまま、固まっていた。


 わたしの意思でユウちゃんが動いた。


 

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