表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マリーは10回婚約破棄される  作者: 隘路(兄)
第一部 王国編
1/60

第1話 ローズマリー、婚約破棄される

「ローズマリー=マリーゴールド、お前との婚約を破棄する!」


 玉座の間に呼ばれたわたしは王子から怒鳴りつけられた。

 重臣達や、騎士団、魔導師団も驚いてわたしに注目する。


「そ、そんな……!

 理由は? 理由は何なのですか?」


 コート王国のゼイゴス王子との婚約が決まり、わたしが公爵家から王宮に引っ越して、かれこれ1年。

 公爵家にてお父様により、王妃にふさわしい見識と礼儀作法を猛特訓させられた。

 それどころか、政治経済の知識まで叩き込まれた。


 王宮に入ってからも、さらに厳しい礼儀作法を教育された。

 人間関係にも気を配り、侍女達や騎士団にも優しく接するよう努め、愚痴や要望にも耳を傾けた。


 公爵家にも王家にも、万が一にでも泥を塗る事があってはならない。

 わたしはその想いで鍛練に励んで来た。

 しかし、


「わたしの力量が至らなかったでしょうか。

 それとも、わたしが何か無礼を働きましたか?」


 恐る恐る尋ねるわたし。


「当たり前だ!」


 ゼイゴス王子は大声を張り上げた。


「お前は再三、余の政治に口を出して来た。

 国を意のままにしようとするお前の行為は、もはや看過ごす事はできん!」


 国王陛下は半年前から、大病を煩われ、休養なされている。

 疫病と魔王出現が重なり、心労がかさんだ故だ。


 疫病の調査と救援。

 勇者の剣を抜ける者の捜索。

 しなければならない事が山積していた。

 しかし、殿下は国王の代行を行わず、街に繰り出して遊んでばかり。


 仕方がないのでわたしが疫病の調査、研究の指示を出し、実家の公爵家に物資の供給の話をつけた。

 その甲斐あってか、疫病の件は下火になってきた。


 しかし王子はあろう事か、遊ぶ金欲しさに国庫にまで手を出そうとする始末だ。

 ついに先日は強めに咎めてしまった。


 もちろん、わたしに国を意のままに操る意図などない。

 国のため、王家のため、ひいてはいずれ国を治める事になる王子のためであった。


 しかし、ゼイゴス王子にその想いは通じていなかったようだ。


「ローズマリーよ。分かったら、今すぐ余の前から消えるがよい」


 玉座の間での、公衆の面前での王子の言葉にわたしは、悲しみと屈辱で顔が真っ赤になった。


 その様子を見て、侍女の一人が口元を抑えた。

 その目は笑っているようだった。

 彼女の名前はラーリン。

 童顔で愛らしい娘で、元は酒場で働いていたと言う。


 しかし一瞬、そのラーリンと王子が目配せするのが見えた。


 これが婚約破棄の本当の理由か。

 この娘と結婚したいから、わたしと別れたいのだ。

 二人が付き合っている噂は、わたしの耳にも入っていた。

 婚礼前の事であまり強気に出るのもどうかと思い、触れずにおいたのだ。

 しかし、まさか婚約を覆すなんて。


「お考え直し下さい。

 国王陛下がお目覚めになられたら、きっとお怒りになります」


 国王陛下は、王子の暴挙をきっと咎められる。

 この結婚はわたし達二人だけの話ではないのだ。


 王国の南方に位置する、肥沃な公爵領からの持参金と、今後の貢ぎ物に国王は大いに期待している。


 また、わたしの父、マリーゴールド公爵も権力を欲している。

 王子との結婚も公爵が中心になって押し進めたものだ。


 国王も公爵も、そんな計算が狂うとなれば黙ってはいないだろう。


「ええい、しつこいぞ!

 処罰しない余の寛大さが分からないかっ!」


「マリーゴールド公爵も認めない事でしょう」


「ローズマリー!

 貴様は余に脅しをかけるつもりか?!」


「そ……そんな……」


 何を言っても通用しないようだ。

 心配をして言っているのに、脅しなんて。


「残念です、殿下」


 失望のあまり、涙がにじんでくる。

 わたしはやむを得ず、玉座の間を退出した。


 逃げるように廊下を駆けるわたし。

 涙がぽろぽろ落ちてくるのをもはや止められない。


「ロ、ローズマリー様!」


 そのわたしを呼び止めたのはマナー講師のシボーン先生だった。


「お守りできず、本当に申し訳ありません!

 わたくしはローズマリー様以上に王妃にふさわしい方はいないと申し上げたのです」


 泣きながら何度も頭を下げる先生。


「ゼイゴス王子は以前街に繰り出すのを国王に咎められました。

 国王が病になったのをいい事にタガが外れてしまったのです」


 あの厳格な先生が目を真っ赤にして、ぺこぺこしている。

 何だかこっちが申し訳ない。


 先生は何とか王子を説得しようとしてくれたらしい。


「ローズマリー様は最高の王妃になられます! なのに……!


 こんな事、なんて理不尽な……!」


「その気持ちだけで十分ですわ」


 袖口でシボーン先生の涙を拭くわたし。

 ハグをして頭を撫でてからシボーン先生と別れた。


「ローズマリー様!」


 その後わたしに話しかけてきたのは、

 白い口髭をたくわえた老騎士、マーク騎士団長だった。


「これでお別れなど残念でなりませぬ」


「騎士団長、あなたにもお世話になりたした」


 深々と頭を下げたわたし。

 最近は魔王の件で騎士団長と話をする機会も多かった。

 必要なものを尋ね、予算を大臣達に組ませていた。


「ローズマリー様あっての騎士団。

 ローズマリー様こそ最高の王妃。


 婚約破棄などと!

 全くあの王子は許せませぬ!」


「魔王の脅威も迫っています。

 どうか殿下とこの王国を守って下さいね」


 今後の事は心配だが、わたしにできる事はもうないのだ。

 わたしは騎士団長と別れた。


 階段を降り、自室に向かうわたし。


「まずい! まずい!」


 その隣を駆け抜ける一人の青年。


 確か宮廷魔術師のシャラーナだ。

 童顔でまだ若いはずだが、国王がその才能を見出したようで、かなり優秀らしい。

 そう言えば玉座の間にもいたはず。


「沸騰し過ぎた!」


   叫んで入って行ったのは彼の研究所。

 わたしの婚約破棄に気を取られて、魔法訳作りを失敗したようだ。

 いつもなら雑巾でも持って掃除に駆けつけたところだが、今は何かしてあげられる精神状態ではなかった。

「出て行け」と言われたばかりだし。


 わたしは荷物をまとめて実家である公爵領に戻る事になった。


 荷物と言ってもそう多くはない。

 クローゼットには豪華なドレスがたくさん入っていたが、持ち帰るつもりはなかった。

 わたしの趣味で買ったものではないし、売るなり捨てるなり、好きにすればいい。


 わたしは失意の中、そそくさと馬車に乗り込み、王都を離れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ