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王立祭の日が近付いてきた。
出店で売り出すのは、石鹸とハーブティーの茶葉といつもお店で出してる薬草を少し。それから、ブーケである。
ブーケは悩んだんだけど王立祭だしなー。花と草の王国ならやっぱりあった方が良いよねーと思って商品として出すことにした。
だが花があまり摘めなかったので、ブーケは四つだけ。
花が枯れないように、ノアに魔術で凍らせてもらった。
「転移魔術ですか」
「うん。辻馬車より主流だけど、ちょっと値が張るからあんまり使わないんだ」
でも首都は遠いからね。往復使わせてもらう。
うちからミラレの町まで徒歩で向かい、そこから転移する。ノアは転移は初めてだから私の話に、ほぅ、だとか、へぇ、だとか興味津々のようだ。
「ノアの時代にはなかったの?」
「はい。転移魔術はまだ研究段階で……成功例はありませんでした」
「そうなんだ。あっという間だから、驚くよきっと」
「そうですね。楽しみです」
そうして、ミラレ町に入り、赤い屋根の建物を目指す。あそこが転移魔術所だ。
特別な用がないと近寄らないのだが、あそこには数人、魔術を扱える者がいる。その人達が私達を首都まで転移してくれるのだ。
そもそも、魔術というものを扱うには素質と努力とセンスが必要だと言われる。それ故に、魔術師というものは重宝される。
ちらりとノアの横顔を見た。
ノアも、彼が望めば魔術師として働くことが出来る。適正が氷のようだから、狩猟でも護衛でもいくらでも応用が効きそうだ。いずれ、魔術師として働くことを望むのだろうか。
そうなればうちを出て行くだろうな、と思うと少し寂しい気もした。だいぶノアがうちに慣れてきた証拠である。
「シィナ?」
私の様子に不審がってノアが私の顔を覗き込む。
「なんでもないよ。さ、早く行こ!」
転移魔術所で申込書に記入し、順番が来て魔術師にその用紙を渡す。行き先を見たら、あら、と言われた。あら?
「王立祭に行くのかしら?いいわねぇ……恋人と王立祭なんて」
「こ!?」
「そういう間柄ではありません」
そうなの?と魔術師のおねえさんが言う。
思わぬワードに心臓が跳ねてしまった。いや本当……ノアとそういう事にはならんだろう。この顔で女性なんて選び放題だろうに。わざわざ私を選ばんだろう。
「じゃあ二人で銀貨二十枚ね」
「はい」
「それでは首都・ロストレザンまで行ってらっしゃい」
魔術師が力を流し込むと足元の魔術文字が光出す。そうしてふわふわした光の中、気付けば辺りの景色が変わっていた。