表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイス・ドロップの氷の罠  作者: おーみら
困ったことに風邪薬がない
4/9

4


そうしてこの一ヶ月、刈り取りを繰り返した結果、見事目標の二百五十個に達成したのである。しかしこれ以上は採取出来なかったので、必要とあれば長期間納品するとデバクァイの調剤師に申し出た。が。


「お気持ち、ありがたく頂戴します。ですが充分です」

「そうなのですか?」

「はい。思った以上に挿し芽……草の増殖に成功いたしまして。ご依頼した分でどうにか間に合わせられるかと」

「あら……それは良かった。病の方も問題なく?」

「まだ流行ってはいますが、だいぶ対処法が整ってきましたので。今回は本当にありがとうございます」

「お役に立てたなら良かったです。しかし、魔術石は本当にいらないのですか?」

「ええ。それは貴重な材料。魔術石の活用方法を教えていただけただけで充分です」



なんと謙虚な。それなら余った分は、私の私物にすることにする。いやなに……ちょっと欲しかったからちょうど良かった。なんて、ノアに言ったらまた睨まれそうだ。



「シィナ殿。もし、デバクァイ領に来ることがありましたらぜひお声かけ下さい。貴女ならいつでも大歓迎です」

「ありがとうございます。いずれ伺わせてもらいます」

「ええ。それとこちらが今回の謝礼です」


どさりと皮袋に入った貨幣を渡される。おぉ……重い。ちらりと中を見てみると、金貨が何枚か混じっていた。


「少し……多いような」

「気持ちですよ。商売は何事も信頼が命です。貴女は信頼に値する仕事をした。これはその表れです」


ほっほっ、と。

独特な笑いをしながら、彼は立ち上がった。私とノアは彼にぺこりと頭を下げて店の玄関まで見送る。

彼も軽く会釈をして帰路についた。


これで大きな依頼は終了した。

しばらくはのんびりと店内業務だけに集中したいなーなんて思っていたら、コトリ、とカウンターにティーカップが置かれた。



「ありがとうノア」

「お疲れのようですね。大丈夫ですか?」

「うん。緊張の糸が切れた……みたいな?ノアもお疲れ様」

「ありがとうございます。ところでシィナ。俺との約束……覚えてますか?」



約束?と首を傾げる。そして、ああそうだと思い出した。そうだ。


「お願いごとだっけ。なにか」


あるの?と続けようとしたら、ノアが間髪入れずに答えてきた。


「シィナの時間を下さい」

「……え?」

「ああ、すみません。抽象的過ぎました。えー……貴女に保護してもらってから二ヶ月ちょっと経ちます。そろそろ邪魔にならぬよう、出ていかなくてはと思ってました」


ですが、と続ける。


「もう少し、貴女と共にいたいと思って……」



そう言いながら、自分の顔が熱くなるのを感じる。うわぁ……イケメン、口説き文句みたい。私はノアをうちに住まわせると決めてから出て行って欲しいと思った事はない。むしろ、私の助手的な立場でよく働いてくれている。とても頼もしい存在だ。



「私は構わないし、むしろ大歓迎だけど。ノアはいいの?うちで」

「はい。シィナと共にいると、知らないことが沢山あるので。良い勉強になります」

「そ、そうかな……えへへ。じゃあ、ノアの気が済むまで一緒にいよう」



そう言うとノアは視線を少し下げて、彷徨わせてから私と目を合わせた。

その表情はこの出会った時間の中で一番の穏やかな表情だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ