表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイス・ドロップの氷の罠  作者: おーみら
困ったことに風邪薬がない
3/9

3


「ノットベイは魔獣なので魔術が弱点ですよ」


唐突にノアが口を開いた。


「あれは昔からいる魔獣です。毛はフカフカなので、俺の知り合いがよく皮を剥ぎたがってました」

「皮を剥ぐ……痛そう」

「はい。ですがあの毛皮、外套にはもってこいなんです」

「でも私が欲しいのは皮じゃなくて魔術石だから」

「分かってますよ。背中の皮をちょっと剥ぐくらいですね」



やっぱり皮は剥ぐのか。

魔術石はノットベイの背中にある。フカフカの背中に埋もれるようにしてあるのだ。取っても奴らの命が奪われるわけではないが、奴らにしてみたら痛いし嫌だろう。だが申し訳ないがいただこうと思ってます。はい。



「でも私、魔術は使えないから、この痺れ草でどうにか」

「大丈夫ですよ」


珍しく、目元が優しそうに細まる。


「俺がやりますから」

「俺がやります……って。魔術使えるの?」

「心得てますよ。ほら魔女のしもべだったわけですし」

「え!?」



待て待て待て。私はそんなの初耳だぞ。

呪いだって聞いてたから、私はてっきり、うっかり捕まったものだとばかり……。

じゃあ、ノアは何で魔女のしもべなのにあんな所で氷漬けになっていたの?



「貴方……本当に、魔女の呪いにかかっていたの?」

「はい。かかっていましたよ。でも氷の魔女が俺の主だったのも間違いないです」

「だからって」

「俺にやらせて下さい。久しぶりに魔術、使えるか確認したいんです」



そう言われたら頷くしかないじゃないか。私が頷くとノアはありがとうございますと言って、私に自分の身につけていた外套を頭からかぶせる。



「ぶはっ」

「寒くなりますからね。着てて下さい」



ノットベイの巣は枯れ枝が山のように積まれている。そこに何匹かのノットベイがいて、目印となる。

『ここが縄張りだ、近づくな』と言っているのであろう。


目の前に枯れ枝の山が広がる。

ひぃ、ふぅ、みぃ。よ……。



「四匹かぁ……」

「ええ。では行ってきます」



そう言ってノアが一歩踏み出すと、ノットベイがこちらを振り向く。私は木の陰に隠れているがノアは丸見えだ。案の定、奴らはノアに警戒心を高めている。と、同時に頬を冷たい風が撫ぜた。


冷気が吹く。周囲の温度が一気に下がった気がした。ノアの足元が白くなっていく。あれは……。


「霜が張っているんだ……」


ノアが手をノットベイに手を差し出すと、みるみるうちに奴らが凍っていく。鳴き声が聞こえ、その鳴いている口さえも氷が塞いでいく。背中のフカフカの部分だけを残して、ノットベイの体が凍ってしまった。



「これが、氷の魔術」

「シィナ。こちらに来てください」


そう言われて彼らに近付く。おお……ノットベイをこんなに近くで見たの初めてだ。


「皮を剥がなくても簡単に取れましたよ」

「ほおぉ」

「案外背中に埋まっている魔術石はぽろぽろ取れるみたいですね。こいつらの垢みたいなものでしょう」

「垢……」

「くまなく探したら、もしかしたらどこかに落ちてるかもしれませんね」

「でもこんなに大きいのは見た事ない。やっぱり直接採取して正解だったね」

「はい。ではこれはシィナに渡しておきます」



お礼を言って受け取る。魔術石……本物だ。これでクレメンソールの成長が促せる。


ちらりとノアを見上げると涼しい顔をしていた。こんなに寒いのに大丈夫だろうか。私は被された外套を脱ごうとすると、それをノアの手で止められる。


「そのまま着てて下さい」

「でも寒いでしょ?」

「そんなには。人より寒さは強いんですよ。氷の魔術を使う者は、そうなってるんです」

「そうなの?」

「はい。なので貴女が着てて下さい」



そう言われたので大人しく外套を着ておくことにした。

その後、離れた場所からノアがノットベイの氷を溶かしていた。魔術で出来た氷は自由意志で溶かすことが出来るらしい。


そして私はクレメンソールの生える土地に、魔術石を埋め込んだ。これが一番よく効くのだ。石から流れる力が大地に流れ、根に伝わり花や草に伝わる。ここの土地はクレメンソールだけではなく、やがて豊かな土地となるだろう。



「このような魔術石の使い方、初めて知りました」

「ノアは昔の人?なんだっけ?昔は魔術石って武器ばかりに使われていたみたいだからね」

「……はい」

「魔術石を見つけるとたまーにこうするの。土壌も良くなるしね」

「良いことです」


そう言ったノアの顔が優しく、柔らかい表情をしていたので私も嬉しくなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ