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アイス・ドロップの氷の罠  作者: おーみら
困ったことに風邪薬がない
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その日の夜のこと。

本を片手に読書中のノアに声をかける。


「明日は朝からカナガラ渓谷に行くから一緒に来てね」

「あんなところにクレメンソールがあるんですか?」

「うん。私も一度行ったことあるんだけど、けっこう群生してるよ」

「意外ですね。岩と川しかないのだと思ってました」

「岩陰にひっそりと生えてるよ」



この家に来てから彼は私の手伝いをしてくれている。

彼は物覚えも要領も良い。このままだといずれ自分で草花屋を開くと言い出すかもしれないが、それはそれでいいなーと思っている。

真面目だし、見た目も良いし、もう少し愛想があれば申し分ないだろう。



「ところでシィナ。今日来たお客人、あれは何処の者ですか?」

「あの人は東の領地・デバクァイ領の調剤師さんだよ」

「へぇ。ではあの方が薬の調合を?」

「うん。たまーにうちに来ては薬草買ってたんだけど、こんな大きな依頼は初めて」

「そうですか」


顎に手を置き、眉間に皺を寄せている。


「どうしたの?」

「いえ。東の領地ならここよりも、クレメンソールが咲きそうだな、と」



おおー。さすがノア。よく勉強してる。

そうなのだ。気候としては、ここより暖かな風が吹く東の領地はクレメンソールが生えやすい。たぶん、クレメンソールも挿し芽をして増やしているんじゃないかな。しかしそれでも、量が足りないんだろう。



「よく勉強してるね。ノアは良い草花屋になりそう」

「俺はそんなつもりありませんよ」

「そうなの?もったいない」


もったいないユーレイでちゃうぞと脅かしてやれば、ふんっと鼻で笑われた。



***



クレメンソールの群生は渓谷の川から離れた場所にある。湿った空気が苦手なこの草はひっそりと岩陰に隠れて生えるのだ。


「これは使えますか?」

「うん。葉っぱ赤くないからだいじょーぶ。ノア、見つけるの上手いね」

「貴女が教えてくれたからでしょう」


ぷいっと顔を逸らして、もくもくと探してくれる。このノアという男、どうにも好意というものを受け取るのが苦手らしい。褒めたのだから素直に喜べばいいのに。


私も岩陰をそっと覗く。ああ、良かった。綺麗に生えている。


もしかしたら案外スムーズに依頼をこなせるかもしれないと、ホッと息をついた。

こちらはこちらで問題ないのだが、問題はおまけの方である。


ノアにはまだ話していないのだが、ちょっとばかし…….その、危険なね?魔獣とね、会わなきゃいけないと思っているのだ。



おまけで私が欲しがっているのは魔術石。しかも、ノットベイと言うフカフカな魔獣が持ってる魔術石。あれがあると、植物の成長速度が増す。ここら一帯のクレメンソールを手早く増やせないかと思った次第だ。


依頼が終わればデバクァイ領にこの魔術石をあげても良い。そう考えているのだが、言うとまたノアが鬼の形相になりそうなのでギリギリまで黙っておく。



「今日はこのくらいにしておこう」

「やはり大体三十個が限界ですね……」

「うん。でもまあこのくらいなら、充分だよ。ああ、そうだノア。あっちにノットベイの巣があるから一緒に来て欲しいんだけど」

「なにさらっと恐ろしいこと言ってんですか」

「え、えぇ?そうかなー?」

「おまけとは、まさかノットベイのことですか?なにを考えてるんです?」

「えーと。つまり」



かくかくしかじか。私の思いを説明してあげた。やっぱり鬼の形相になった。



「やっぱりはじめからそのつもりで依頼を受けたのですね。どうして……そう」



お小言を受けながらちらりとノアの顔を見る。怒ってるけど怒ってない。呆れてる顔だ。



「お願いノア」

「……俺が貴女の頼みを断れると思ってやってますか」

「ううん」

「はぁ、いいですよ。ただし、一個俺のお願いも聞いてもらいますからね」


ノアがお願いごと。珍しい。何か欲しいものでもあるのだろうか。言ってくれれば今月はお店の稼ぎ良かったし特別賞与出したのに。



「いいよ。欲しいもの買ってあげる」

「言質取りましたからね」


そう言ってノアが口の端をあげた。

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