ハーツ校へヨウコソ!
3月 東京都横浜市 ハーツ高等学校にて。
見上げるほど大きくそびえる厳重そうな門の前に、四人の若者が集まっていた。
その中の一人は大地である。もちろん、別の三人とは初対面だった。
「ねぇあんた、一番早く来てたけど、何でここの門開いてないのよ。フツー新入生は歓迎されるべきじゃない?」
四人の中でひときわ目立つ濃いピンクのツインテールをした女子が、隣に立った仏頂面の男に話しかけた。
「……あ? 知るかよ、さっそく試されてるか何かじゃねぇの」
男はジロっと睨んで、ぶっきらぼうに返した。
「はぁ……? 何あんた! 初対面なのに無愛想ね!
あんたみたいなヤツがハーツ校に入学できるとは思えないわ」
「……っるせぇな、チビ」
男はため息まじりにボソッと呟き、そっぽを向いた。
「なっ、だ……誰がチビだってぇ!!?」
ピンク髪の女は顔を真っ赤にして、声を張り上げた。
その火花が散りそうなやりとりを、大地はキョロキョロと交互に見ていた。
そしてその後ろからぬっ……と顔を出した人物が小さな声で話した。
「……っあ、あのぉ…………。
……9時からだから、まだ開いてないんじゃないかと思いま……」
「『あぁっ!!??』」
「すみません!!!!」
ぼそっと呟いたボサボサ髪の男に、揉めていた二人がギロッと睨み、火の粉が飛んできそうで、瞬時に謝罪し、また大地の後ろに隠れた。
「えっ?」
(びっくりした……気配に全然気づかなかった……)
「お前、いつからオレの後ろにいたんだ?」
「へっ?! ぼく? ……すっすみませぇん‼︎
……隠れるのにちょうど良くて……」
ただ聞いただけなのに、ボサボサ髪の男は1メートルくらい後ずさり、慌てた様子でペコペコと頭を下げた。
「いや、全然良いんだけどさ……びっくりして」
「すみませぇん……勝手に隠れて……」
下を向き申し訳なさそうにする彼に、大地はいささか困ったように笑ってから、近づいた。
「そんなペコペコしないでよ、同じ歳なんだし」
ボサボサ髪の男は反射的にまた退きそうにしたが、大地から敵意は感じなかったため立ち止まって「はいぃ……」と小声で頷いた。
「お前、名前は?」
「……あ、亜蒙刀心です……」
「オレは樫木大地、よろしく」
大地が手を前に差し出すと、刀心は一瞬固まったものの、おずおずと自分も手を差し出した。
握手を交わしてから、大地はまだ言い合っている二人の方につま先を向けた。
「……なぁ、お前ら喧嘩しないで仲良くしろよ。同い年だろ全員。
こいつの言う通り、まだ時間なってないし」
大地が平然とした様子でそう話しかけると、二人はまたしても同時にギンッ‼︎と睨んだ。刀心は大地の後ろに隠れる。
「……何、あんた。偉そーに。
別に喧嘩なんかそんな子供じみたことしてないわよ」
ピンク髪の女は、ふんと軽く鼻笑いであしらった。
「…………コイツが勝手に突っかかってきただけだろ」
無愛想な男は、よそを見てそう呟いた。
「……まぁ、まずは名前教えてくれよ」
初対面にして呆れそうになった大地だが、苦笑いをしてそう言った。
するとピンク髪の女は、腕を組んだままだが、大地達のほうを向いて口を開いた。
「……桃井」
彼女はそう短く名乗った。
フルネームは桃井いのり。濃いピンクの長い髪のツインテールに桃色の目をしており、低身長だが厚底のブーツをはきそれでいて……150cmといったところだろうか。小柄だが、強気な雰囲気は一目で感じ取れた。
そしてもう一人の方はというと、そっぽを向いて黙ったまま、名乗る様子はなかった。
「あんたねぇ……!」
大地がツッコむ前にいのりが割り込んだ。
「無愛想にもほどが……」
「馴れ合うつもりはねぇ」
「はぁ? 何が馴れ合うつもりはねぇ、よ! カッコつけて」
いのりがその態度にカチンときて、男の言い方を真似てケチつけた。
だが、男は言葉を返すことはなく黙ったまま門のほうを向いた。
「……む……ムシぃ? あんた今無視した? ねぇ、おいコラ!」
湧いてくる怒りに、いのりの口角がピクピクと動いた。
「…………るせーな。俺は自己紹介とかぬりぃことするほどヒマじゃねぇんだよ。
さっさとここに入って、さっさと合格して、ハーツになんだよ」