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感情コライド  作者: 花園タケ
第一章
6/8

キテンの出来事 3

「ありがとうございました、鶯先生。

 ……あ……か、樫木くんも……。じゃあ、失礼します」

 話が結ぶと、水野は挨拶をした。

 彼はやっぱり人見知りそうに身を縮こめて、下向きの目線のまま部屋を出た。

 大地もつられて便乗しようと「じゃあ俺も」と立ち上がるが、すぐに呼び止められた。

「待って、君には話すことがまだあるんだ」

 鶯は穏やかな声とは裏腹に、真剣な目で言い止めた。__やはりさっきの事で怒られるだろうか。

 大地はそう感じて、一瞬だけ出来事が頭に過ぎった。

 ここに呼び出されたのは他でもない、ルームメイトに怪我を負わせたのだから。

「……別に怒ったりしないよ。起きたことなんだから」

 だが、鶯は手を前に組んでふっと微笑んだ。

 大地はまるで心を読まれたかのようで、オレンジ色の目を丸くした。

「先生は心が読めるの?」

 鶯が部屋に入って来た時にケアラー、と言っていたが、大地は知らない単語で曖昧にしか覚えていなく、疑問を口にした。

「まさか。さすがに心までは読めないよ〜。

 ……感情はある程度わかるけどね」

 

 ケアラー。施設ではそう呼ばれるが、詳しくはセラピストである。

 セラピストは人の感情に寄り添い、状況に合わせて会話や呼吸術で治療し、感情の波を安定させることができる。

 また、身体の一部に能力があるセラピストは、傷や怪我なども修復できる能力を持っている者も居る。鶯は現在は前者である。

 

 大地は、意味深だけれど矛盾しているようなことを言われ、大地は首を傾げた。

 すると鶯は「って、そんなことより」と話を切り替えた。

「君が水野さんを庇った時、何か変な違和感はなかった?」

「違和感?」

「そう、けん太くん今は休んでるんだけど、手当てをした時に軽い火傷みたいなあとがあってね。

 彼も『殴られた時、熱かった、少しヒリヒリする』って言ってたんだ。

 大地くんは触った時どうだった? 熱かった?」

 不思議なことを聞かれ、おぼろげに思い出そうと大地は右手をグーパーとさせた。

 その時は感情が昂り殴ってしまったため、あまり覚えていないが、確かにぎゅっと握り拳をした時から熱があった気がした。

「……熱かったかも……」

「手を見せてくれる?」

 大地が曖昧に答えると、鶯はよこせと言わんばかりに手を前に出した。

 間もなくつられて大地も手を前に出した。

「……先生は手相も見れんの?」

「いやいや……そうじゃなくってね……。って、さっきもあったよねこの流れ」

 また似たような質問を冗談まじりにされ、鶯は咄嗟にツッコんだ。

 鶯から見たら、大地は今この状況に興味を示している感情があった。でありながら、真剣な目には探究心も感じ取れた。

(よかった、自分の行いから逃げるんじゃなくて、向き合ってくれる子で)

 それはそうと鶯は大地の手を取り、手のひらを見るのではなく、拳を作らせて手の甲の方を物色した。

「うーん……痕もなく、きれいだね」

 鶯は一目見ると何事もなかったように手を離したが「でも、やっぱり」と真剣な面持ちで大地を見つめた。

「君から、特別な……何か……こう、不思議な力を感じるんだ」

「……力?」

 大地は握り拳と鶯の目を交互に見た。

「そう、決定的なものはないんだけど、力の使い方によっては、きっと君はこれから強くなれる。

 それで、たくさんの人を助けられる」

「助けられる」

 大地はその言葉を聞いて反芻し、顔つきを変えた。

 ……大地は過去に助けられなかった人がいて、現在も守らなければいけない人もいた。

「じゃあ、兄ちゃんが……」

 思わずボソリとそう呟いた後で大地は、なんでもないと言わんばかりに口をつぐんだ。

 だがそんな様子を見た鶯は、柔らかい表情に戻っていた。

(そうか、君にはお兄さんがいるんだね)

「……君はここにいたい?」

 面と向かって聞かれた大地はしばらく黙ってから、胸の内を明かしていった。


「オレは、魔物奇襲事件の時にはぐれた兄ちゃんを探してる。

 もしかしたら悪いヤツに連れていかれたかもしれない。

 ほんとは今すぐにでも探し出して助けたいんだ」

(__もう、あの時みたい何もできないまま失うのは嫌だ)

 切望する大地の様子を見た鶯は、うんと頷き、決心した。

「……そうか、君のところにも被害があったんだね……。

 うん、君は__ハーツ高校に行くといいよ」

「はー、つ?」

 聞いたことのあるようなないような名前に、大地は反芻しながら考えた。

(ハーツって……どっか外国の学校か? オレ、英語喋れないし、勉強できないぞ?)

 アホ面になってアホなことを考えていそうな大地に、鶯は咳払いをした。

「えっと、まずハーツのことは知ってるかな?」

「あんまり」

(えっ、ハーツって中学で教えられてなかったかな……)

 鶯は思わぬカラッとした返しに、面食らいそうになるが、再度咳払いをして落ち着かせた。

「そ、そっか。じゃあ、聞いたことはあるって感じかな?」

「存在は知ってる」

 大地はコクリと首を縦に振って言った。

「まぁ……、そうだよね。

 ハーツは世間にはあまり公的に知らされてないからね」

(それでも、ハーツに憧れる子はけっこういるんだけどなぁ……。

 まぁいっか! 一応説明はしておこう)

「ハーツっていうのはね、要約して言えば、ある一定の感情を能力にして扱える人のことで、警察では行き届かないような事件とか被害を助けたりしてる。

 メディアとか一般の目のあると事ではあまり活動しないから、世間では憧れだったり、中には、架空だと思ってる人もいたりしてるんだ」

「へぇ……すげえ、それって、本当の話?」

 鶯はガクッとこける。


「ほ、本当だよ……。だから今話してるじゃないか。

 それに、君もその時現に力が出たでしょ?」

「あぁ……」

 大地は手のひらをみやり呟いた。

 だが、咄嗟に思い出したことが浮かんで、口を開いた。

「あっ、でも先生、オレもう行く高校決まってるけど。

 ……てか、もうすぐ入学式が……」

 大地は施設に近い地方にある高校に通うつもりだったため、いきなり進路を変えるなんてできるのだろうかと疑問に思った。

「あぁ、問題ないよ! そこら辺は僕がどうにかするから。

 今日時間あるし、推薦で申請しておくよ。

 ハーツ校には僕の知人がいてね、きっと一発で合格だと思うよ! 人手不足だし」


 兄を探しているとは言ったが、話がどんどん進められていくスピードの早さに、大地は目をしばたたかせた。

「そ、そうなんだ……じゃあ、試験とかもナイってこと?」

「大丈夫、ないよ!」

 鶯はそうハッキリ言った後で「あー……」と何か思い出したように顎に手を当てた。

「そういえばハーツ高は最初に“能力チェック”があったっけな……。

 まあ、なんとかなるさ! 君は強そうだし、ウチの喧嘩番長けん太くんにワンパンで勝ったしね」

 と、ガッツポーズまで加えてにっこり笑った。

 鶯の朗らかな見た目にそぐわず、所々適当で強引な様に、大地は置いていかれそうにもなるが「……そ、そっスね!」と同じく笑ってみせてごまかすのであった。

 

 話がひと段落終わると、鶯は「話してくれてありがとう、じゃ、ハーツ高から連絡あったらすぐ教えるねー!」と立ち上がり部屋を出て行った。

 去り際に「あ、ちゃんと謝るんだよ?」と顔を覗かせ言い残し、扉を閉めたのであった。

 ……何だか疲れた大地は、ソファに深く腰掛けた。

「ふぅー……」

 わずか二日目にしてアクシデントが起こり、それからとはいうものの、色々な情報がありすぎたのだろう。

 

 そして、あくる日には鶯が大地の自室にやってきて「ハーツ高校、仮入学だって、おめでとう! さっそく明日から見学!」と早すぎる報告され、あれこれ準備する間もなく……(準備といっても何を準備すればいいかわからないが)、大地は、ハーツ高校に向かうことになったのであった__。

  

 

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