五話 誕生日
水崎さんと接触した日から半年が経ち、私は高校二年生になった。
そして今日は、実は私の誕生日だったりする。七月七日、七夕の日。私の十七歳の誕生日祝いは、家族でささやかに行われる――はずだった。
だが、放課後に福見に夏祭りに誘われ、急遽誕生日会を中止して夏祭りに出かけることになった。お父さんは笑顔で送り出してくれたし、お母さんは夏祭りの着物を着付けてくれた。……まあ甘党の妹はケーキが食べられなくなったことを嘆いてはいたけれど。
◇◇◇◇◇
「福見、お待たせ」
「大丈夫大丈夫、それより家、反対されなかったのか?」
「うん、皆笑顔で送り出してくれた――」
私はそこまで言って、文字通り固まった。福見の隣に予想外の人物――水崎風花ちゃんが立っていたからである。水崎さんに、視線も固定されている。
「ふ、ふふふふふ福見、そそそその隣にいる人は誰かなぁー?」
「ん?水崎のこと?なんか南のこと言ったら、行くって」
そう言った福見の頬がわずかに赤い。思いがけぬことで水崎さんに会うことが出来たので、嬉しいのだろう。
「ふ―――――――――――――――――――ん、そっかぁ―――――」
悋気を起こした恋人のような台詞を言ってしまった私だが、仕方がない。今更だけれど、今私、水崎さんにとても嫉妬している。
……楽しみにしてたのに。着物まで着てノリノリだった私がバカみたい。今日は、二人で楽しく、たとえ友達としてでも、福見と誕生日を過ごせると、そう思っていたのに。
十七歳の誕生日の夜は私のそんな不機嫌な気持ちから始まった。
◇◇◇◇◇
「南さん、さすがです!」
「このくらいは余裕だから」
水崎さんの言葉にどこか平坦な声で答える私。その横では、福見が悔しそうに地団駄を踏んでいた。
屋台で射的をしようと提案されて、福見と私の勝負になって、水崎さんの欲しいものを獲ろうという話になって、私が福見に勝って、そして今に至る。実はこういう勝負はもう五回目だったり。
「くっそぉ!なんであの熊落ちないんだよ!?」
福見が狙ったのは茶色い熊のぬいぐるみだ。なかなか可愛い。大物を狙おうとして、まんまと店の思うつぼにはまってしまったようだ。私は小物を片っ端から獲っていった。数で勝負したので、私の圧倒的勝利である。
「あ、花火、始まるって。南、行くぞ」
せめて今日はと、水崎さんよりも、私を優先してくれる福見に、不覚にもときめいてしまう。
恋のキューピッド役なのに、福見にとっては私はただの友達なのに。
「わかった」
そう言う私の声は意識せずとも少し暗くて、元気がなかった。
花火を綺麗に見ることができる場所に着くと、福見は私の方を振り向いて無邪気に笑った。
「南」
「何?」
「誕生日おめでと」
「おめでとうございます、南さん」
不意打ちも不意打ちだ。
さっきまで不機嫌だったはずなのに、腹を立てていたはずなのに、たったそれだけの言葉で心が嘘みたいに晴れていく。私の誕生日を祝ってくれる福見の言葉に、もっと福見のことが好きになっていくのを実感していた。
福見と同じように、私とほとんど関係がないのに純粋無垢な笑顔で祝ってくれた水崎さんに、私は何かが吹っ切れたような気がした。
……もちろん、今も少し水崎さんのことが苦手だけど、肝心のところはもうなんか、いろいろ吹っ切れたんだよね。
「ありがと。……もうなんか、いろいろ吹っ切れた」
「ん?なんて?」
「いや、私、今までバカバカしいことしてたなって」
そう言った言葉は、きっと福見にも水崎さんにも届いていない。
けれど、私の心の中に、すっと染み込んでいった。
夜空に輝いている星は、さっきまでとは違いとても綺麗に私の心に映ったような気がした。
読んで下さりありがとうございます。思いのほか早く更新して、私もびっくりです。
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