第15話 ヴァンパイアの作戦会議
けっこういい勢いで瑠奈にぼろぼろにされて、それでもようやく、瑠奈の家のソファに再び身を沈めた。避けて転がりまわるだけでも、あちこちが痛いし、服も汚れるよ。
ともかく、2回目の御宅訪問ということになる。
瑠奈の祖母であるお姉さまには、連れがいた。こちらは、金髪碧眼の高身長の男。フリッツ・クロイツって名乗ったけど、本名かどうかはわからない。
こちらも、かっちりとスーツを着こなしている。
でもって、この人は日本語がわからなかった。
お姉さまはドイツ語が話せたし、瑠奈もそこそこ話せるようなので、交互に翻訳して、コミュニケーションは取れたよ。
僕と瑠奈の案、笙香の身体の内臓の一つだけをヴァンパイア化するということについて、フリッツは理論的には可能だっていう判断だった。
ドイツ中央にあるカッセルという街の外科医が表の顔だっていうから、僕たちのアイデアにお墨付きがついたようなものだ。
とはいえ、フリッツはたくさんの条件を出してきた。
現代医学は進んでいる。
きちんとした診断をして、切除不能な腫瘍で、笙香のQOLをも考慮して、初めて僕たちの案の出番があるかもと。
無闇矢鱈の人体実験じゃ、治療じゃないってさ。
そう言われちゃうと、ちょっと、ぐうの音も出なかったよ。
ただ、フリッツは当然現代医学にはない、薔薇十字団の知見による療法も知り尽くしていた。
そして、未だに現代医学の方が及ばない点もあると。
団員たちが、ほぼ全員100歳を超えるまで生きているのは、現代医学では奇跡なんだって。
ただ、そのための方法が普遍的でない化学なので、医学に移せないんだそうだ。つまり、団員Aの作った薬と団員Bが作った薬、全く同じ化学的工程を経ていても、常にAの作る薬だけが劇的に効いて、Bの薬は全くダメってことがあるんだって。
こうなると、なにが効いているのかがわからないという致命的な話になっちゃうそうなんだ。
で、それでも僕たちの意を汲んでくれて、金曜日に笙香にお泊まりで来てもらえば、と。笙香が自分の病気を知らないまま生きていけるなら、それに越したことはないっていうのが瑠奈と僕の考えだったけど、フリッツはその意を可能な限り汲んでくれるそうだ。
それに、僕たちの正体を明かしたくないって条件については、全面的に賛同してくれた。
で、笙香が寝たら、薔薇十字団と関わりのある病院で腫瘍マーカー検査から始まって、CT検査、MRI検査、磁気共鳴胆管膵管造影検査(MRCP)、超音波内視鏡検査(EUS)、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)、陽電子放出断層撮影法(PET)とできる範囲でちゃっちゃと済ませて、明け方には結論を出そう、と。
で……。
僕たちの案が上手く行けば、一番良い結果になることが予想される。でも、生物の体ってのは理論通りに行くときばかりではないので、きちんとした検証を続けていく必要があるんだって。
なんせ人体実験になっちゃうけど、笙香の身体で技術を確立するしかないのは仕方ないことなんだ……。
次話、質問するヴァンパイア
に続きます。




