第2話 気まずいヴァンパイア
とりあえず、瑠奈の家と部屋の中にあるものに圧倒されて、僕、とてもじゃないけど「瑠奈」なんて呼べないよ。どうしても、「さん」が付いちゃう。
「これ……」
「ああっ、栗のお菓子だー。
大好きなんだよね。ありがとう」
ああ良かった。
瑠奈が肉の塊しか食べなかったら、どうしようかって思っていたんだよね、実は。
「お茶入れるね。
あ、ローズティーの方がいいかな?」
「ローズティー、嬉しいです。
ありがとうございます」
「硬いなぁ、表情が。
どうしたん、いつもの勢いは?」
「いや、緊張して……」
「8時から来たがったくせに」
「いや、まぁ、その……」
「彼女の部屋」って言葉からは、四畳半から六畳の広さで、机と椅子、本棚とベッド、パステル調のカーテンと小さな可愛いものたくさん、そういうものを想像しないかな?
それが、20畳もあるような落ち着いた部屋で、博物館にあるような歴史がありそうなものに囲まれて、重厚なソファに座っている。
僕が、借りてきた猫みたいなおとなしくなっちゃうのは仕方ないだろっ。
「ちょっと待ってて」
そう言い残して瑠奈、たぶん、ローズティーを淹れに行ってくれた。
うーん、落ち着かない。
でもさ……。
考えてみたら、僕の部屋だってだけど、200年後はどうなっているだろう?
今大切にしている本とか、200年後も形を残していてくれているだろうか?
賭けてもいいけど、フィギュアの塗装は絶対保たないよね。
となると、この部屋と同じようなものになっていってしまうんだろうなぁ。
たくさんの賞状みたいのもあって、A.O.C.ってなんだろうね。フランス語は読めないよ。
でも、よくよく見ると、養蚕とブドウに関係するものが多いってのはわかってきた。そうかー、これこそ、歴史だねぇ。
瑠奈が戻ってきた。
ローズティーの香りって、僕の今の感覚だと食べ物に近い。とてもまっとうな香りに感じる。
基本的にものを食べないヴァンパイアにとって、無味無臭になっちゃっているお料理やドリンクも多いから、ありがたいよ。
瑠奈は味覚を失ってないんだろうな。「栗まろげ」を大好きってさ。
これは、とても羨ましいよ。
で……。
ローズティーを「ごちそうさま」したあと、僕、話せることがなくなっちゃった。
話したいことはたくさん、それこそたくさんあったはずなのに、口から出てこない。
なんか、瑠奈も話しにくそう……。
「ヴァンパイアってさ……」
「A.O.C.ってなに……」
同時に話し出しちゃって、さらに気まずくなる。
「ヨシフミから」
って言われて、「そこの賞状のA.O.C.ってなに?」って聞いたら、瑠奈のフランスの会社のワインの認証なんだって。
でも、まぁ、よくわからない。
「じゃあ、瑠奈さんの方から……」
「ヴァンパイアってさ、ああ、ヨシフミみたいな真祖のヴァンパイアが噛んでヴァンパイアにした人って、元の人間に戻せるの?」
えっ、なに、その質問……。
次話、ヴァンパイアに打ち明かされた話
に続きます。
彼女んちで気まずいってのは、割りと聞きますよねー。話すに話せなくなっちゃって。




