第2話 ヴァンパイアの朝
例によって、味のしない朝食を掻き込んで、味がしないにせよ母さんの作るものを食べられるのはあと何回だろうなんて考え出したところで手が止まって、テーブルを叩かれて「早く食べなさい」と言われて、いけないいけない、そういうの考えるの後回しにしておこうなんて考えて、ごちそうさまと学校に向けて歩き出した。
あー、もう疲れた。
こう考えなきゃいけないことが多いと、いろいろと生活の日常行動にも支障を来たすよね。
ともかく、部屋に日光を入れられちゃったから、SPF50+でPA++++の日焼け止めを塗ったけど、顔とかやたらとぴりぴりする。後塗りじゃだめだなぁ。あたりまえだけど、日焼け止めは薬ですらないからね。
早く学校について、教室という日陰に入ろう。
うん、瑠奈は、まだ来ていない。
笙香もいないから、一緒に登校して来るのかも知れない。
とりあえず、僕、荒川の顔を窺う。
なんか、つくづく平和な顔してんな、こいつ。
妙にムカつくな、おい。
こっちは昨夜、こいつの家で危ない目にあったってのに、十分に寝足りた顔しやがって。
ま、コイツが無事に学校に来た、それだけで朗報だ。
きっとコイツ、マインドコントロールからは開放されたんじゃないかな。
桜井が、心配そうに僕の顔を窺う。
「ヨシフミ、目の周りにクマができてる。
お前、夜、なにやってるんだ?」
「ゲームと勉強。
いや、違う。中間テストも近いし、勉強とゲーム」
「『ゲームと勉強』って方が、かっこいいかもな。
『勉強とゲーム』だと、なんか嘘くさい」
「僕は真面目なんだよ、こう見えて」
「そういうとこだぞ、ヨシフミ。
真面目なら、授業中に熟睡しねーよ」
って、桜井に反論できねー。
「ひょっとして、隠れてバイトでもしているのか?」
と小声で聞いてきたのは、学級委員の本郷。
そか、コイツんちは、母1人子1人だけの母子家庭だったな。それに、優等生タイプじゃないけど、気遣いができることで学級委員になったタイプだ。そんな気も回すよね。
当然バイトは校則で禁止だから、気を使って小声になってくれたんだろう。
「いや、そんなことはないよ。
お金は欲しいけど、そこまで困っているわけじゃない」
「なんか、夏休み終わってから、ずっと切羽詰まっている感じがするからさ。
なんかあったら協力するから、ヨシフミ、独りで抱え込むなよ」
「ありがと、聡太」
そうお礼を言ったよ。
って、無敵の体力のヴァンパイアが、本来、目の下にクマなんて作るわけがない。
そうか、なんか、そんなに僕、切羽詰まって追い込まれているようにも見えているのかな。
これを言われたのが今朝っていうのも、案外みんな鋭い。
やっぱり、瑠奈の話に結構動揺しているんだろうね、僕。
「おはよう」
瑠奈と笙香が、教室に入って来た。
僕、なんかわからないけど、深く深く安心した。
もしかしたら、瑠奈はもう二度と学校に来ないかも、なんて、心のどこかで思っていたんだ。
二度と会えないかもってね。
瑠奈、僕の方をちらっと見ると、そのまま視線を外した。
あまりにそれが自然な態度で、そしていつもどおりで、「凄いな」なんて思っちゃった。
うん、赤毛の白人の姿の瑠奈、綺麗で可愛かった。
でも、今の太いツインテールに結んだ日本人の姿も可愛い。
薄いそばかすも可愛いけど、左目に泣きぼくろがあるたぬき顔もやっぱり可愛い。
1粒で2度美味しいってやつだよなー。
元ネタが、なにを美味しいって言っているのかは知らないけれど。
次話、ヴァンパイアの中間テストと文化祭




