第14話 獣の孤独
ヨシフミ、今までの話で、なんか聞いておきたいことある?
えっ、進路指導の三者面談?
上手くごまかしているよ。
片親しかいない設定だし、加えてその片親は救急医療に携わっている設定だからね。
三者面談は、救急に患者が来たって、ドタキャンするの。
で、娘の私と入れ替えに、母の私がはあはあ言いながら、「娘はまだいますか? 三者面談、間に合いますか?」って、二者面談に持ち込んだりしてる。
可笑しいよね。
これでメイクとかうまくすると、けっこう騙せるんだよ。
声も変えるし。
まぁ、変装を覚えると、小柄な中学生のままでなくても済むよ。
ただ、毛むくじゃらの大男は無理があるかも。限度ってものがあるからね。
さっきも言ったけど、大きく変えるためには、代償が必要なんだよ。私は、その代償を払って、2つの姿を持っている。
まぁ、高い代償なので、今のヨシフミにはお勧めしない。
でも、義務教育の受け直しって、時代に乗り遅れなくて済んで、悪くないよ。
内容が同じようでいて、けっこう変わっているから、簡単には済まないし。
昔はね、この辺りの地域じゃ、小学校の理科や社会で養蚕について詳しく教えていたんだよ。今はもう、ほとんど無くなっちゃったんだよね。
それ、本当に淋しい。
富岡製糸場での教え子も、みんな死んじゃったなぁ。
本当にみんな、いい子たちだったのに……。
長く生きるってのは、辛いことだよね。
……そうだね。
ヨシフミの言うとおり、欲を言えば、義務教育が英語でなくてフランス語なら、もっと楽なんだけどね。もっとも、言い回しとか変わりすぎちゃって、私の言葉はちょっと古めかし過ぎるかもだけど。
ヨシフミ、あんた、優しいね。
今の、話題を逸そうとしたでしょ?
え、ヨシフミ、話を戻すけどって、なに?
ああ、君は自力でヴァンパイアになった人だもんね、そりゃ知っているよね。
そう、ヨシフミの言うとおりだよ。
C.R.C.は、クリスチャン・ローゼンクロイツ。
母のローゼって名前は、彼が付けてくれたんだ。薔薇のようにきれいな娘だってね。
彼の作った組織は、薔薇十字団。
見る?
これが団員の証。
なに? 「Mの書」を読みたい?
それは、また今度ね。
って、ヨシフミ、アンタ、どこからヴァンパイアになるための知識を手に入れたのよ?
その知識の裏を洗えば、どこかの結社にたどり着けるでしょ? 「Mの書」だって、読めているはずじゃん。
もっとも、それ以前の問題として、「Mの書」の日本語版はないけど。
えっ……。
複数の結社から漏れ伝えてくるものを、信頼性評価をしてパッチワークにつなぎ合わせた?
それを元に自分を材料に実験を重ねて、自力でヴァンパイアに?
よくやれたわー、ヨシフミ。
ちょっと尊敬するよ。
とにかくさ、私は、こんな経験をしてきました。
私の直接の同類は、C.R.C.の作った母の産んだ兄弟しかいないけど、彼の流れをくむ魔術結社はたくさんある。
そこでもきっと、私の同類が作られたことがあると、私、信じているの。
まだ、誰にも会えてないけれど。
あ、そうだね、イギリスにエイリアン・ビッグ・キャットを探しに行くのもいいかも。
あ、猫の改造人間?
だ、誰が狼の改造人間じゃ?
改造素体が違うって失礼ねっ、ヨシフミ。
薔薇十字団を悪の秘密結社みたいに言うなっ。
ヨシフミっ、笑うなーっ!
ねぇ、ヨシフミ。
本当にヨシフミは、こんな存在である、私が好きなの? そして、一緒に生きていけると思うの?
私から見たら、中学の先生だって、ガキ以外の何物でもない。
だから、100年、様子を見ようかって話、マジなんだよ。
でさ、長く生きていると、取り繕うのとか、みんな面倒くさくなってくる。
だから、もじもじしているヨシフミに、「アンタ、お義理で頑張ってくれなくていいから」なんて言っちゃうのよ。
ああ、そう。
ヨシフミはせっかちなんだね。
じゃあ、あんまり時間もないけど、もう一晩だけ考えなよ。
人でいたときと、今のヴァンパイアのときで、思いに変化はまったくないのか?
そこからまた、判断できることもあるよ。
えっ、私自身の思い?
ヨシフミのこと、嫌いじゃないよ。
好ましくもある。
けどね、今はまだ、「自分にはヨシフミしかいない」ってほど、好きとも言い難いかな。
きっと、母ほど一途じゃないんだ、私。
……わかったよ。
じゃ明日学校で、もう一度ヨシフミの思いを聞くよ。
……それはともかく、さ。
自分のこと、初めて人に話したよ。
話す相手が、ヨシフミで良かった。
ありがと。
あははっ、ペットボトルのことじゃないよ。
ヨシフミ。
次話、新章に入ります。
ヴァンパイアのお付き合い未満
第1話 僕はもう、ヴァンパイアになってる!
に続きますーー。




