第6話 母獣、加害者の正体を推理する3
母親は話し続ける。
容疑者である狩人の考えを。
「彼はね、1つ目の犯行からの追求を逃れたことで、学んでしまった。
『本当の狼に村が襲われている間は、自分は告発されず安全』だとね。
となれば、本物の狼がそうそう都合よく人を襲ってくれないのであれば、自分の息子が飼っている、アフリカから輸入した肉食獣に襲わせることを考えるでしょう。
自分の犯行も偽装できるし、良いことだらけよ。
そのままだとバレるから、毛皮に多少の装飾をして」
父親、なるほどという顔になった。
ジェヴォーダンでは、その後も事件は続いている。
3件目は14歳の少女が、そして4件目は家畜の番をしていた少年が襲われ、喰われている。
この事件には目撃者がいて、1件目の獣にそっくりで狼ではなかったと証言されたらしい。
あたりまえだ。
そう見えるように飾り付けられた肉食獣なのだろうからだ。
そして、喰われた人間が増えるほど、狩人は安全になった。
さすがに、人肉食までは疑われなかったから、1件目の疑いはご破算だ。そして、なんらかの加害する生き物が、確実にこの地方を徘徊しているという話になった。
「で、どうする? どうなる?
そもそも、そんな酷いことを実行できるのはなぜだ?
そんな、自分の欲を満たすためだけに、何人も殺せるものなのか?」
父親も、矢継ぎ早に疑問を投げかけながらも、顔は笑顔だ。
話を理解できない娘が、無邪気に笑っているからだ。父親の深刻な心配など、気がつきもせずに。
「まず、どうするかって、息子の飼っている肉食獣が問題ね。
狩人の銃と、その息子を同時に無力化できないと、報復される。犯行自体が、その手段があるって、公言されてるのと同じ。
あとね、神父の言ったことが、そのままだとしたら……」
「そのままだとしたら?」
オウム返しに父親は聞く。
「動機にはね、新教徒とカトリックの争いが重なってる。だから、さらに捕まらないでしょうね。
人っていうのは恐ろしい。
宗派が違う相手は、殺していいと思っている。そして、それを公然と形にできるんですからね」
手のひらを開いたり閉じたりして、娘に遊んでやりながら母親は言う。
父親、呆然と口を虚しく開閉した。
自分がその点に気が付かなかったこと。そして人間として、その推論に反論しようとして、果たし得なかったのだ。
「……そう言えば、神父、襲われた全員の葬儀に関わったって言っていたな。教区を跨いでも、立て続けの事件で手が足らなくなって協力しあったから、結局は状況を知ることになった、と。
つまり、被害者は全員カトリックだったってことか……」
「ええ、そういうこと。
あの神父も悪い人じゃないけど、新教徒が犠牲になっていたとすれば、『神の教えに忠実ではないからだ』とか、余計なことを言っていたはずよ。
それがなかったってことは、そういうことなんでしょうね」
父親は、喉の奥で唸っていた。
次話、母獣、加害者の正体を推理する4
ですー。




