第14話 動かないヴァンパイア
「荒川がここのところ焦っていた理由、それはアンタがヨシフミの存在に気がついたからでしょ?」
瑠奈が聞き、男が頷く。
「私が、ヨシフミと仲良くなれば、アンタの今までの人生の努力はすべて意味を持たない。
だから焦って、荒川にむちゃをさせたんだよね」
「話が早くて助かる」
男の返答は短い。
でも、ここまでの会話でわかる。
こいつがXで間違いない。
「アンタの子を産むとして、アンタはどんな代償を用意しているの?」
えっ、瑠奈、なにを聞いているんだ?
「すべてを。
俺の持つすべてを」
「私にとっては、なんのメリットもないね、それ」
瑠奈、ケンモホロロだなぁ。
安心したよ。
「それに、子供ができて、その子をどうするつもりなん?」
瑠奈、重ねて聞く。
「強い子として、大切に育てる。
人類を強くしたいんだ」
異種交配で?
それって、無理がないかな?
時間だって、何十世代も必要になるよね?
「嘘だね」
またもや瑠奈、ばっさり斬り捨てる。やっぱりそうかー。
「本当に子供が欲しいとしても、自分の代わりの誰かに私を口説かせるなんて方法、論外すぎ。
アンタさぁ、正直に言いなよ。
嘘ついたのはわかるんだよ。
嘘つきのにおいってのは、嗅ぎなれているんだからね」
えっ、嘘つきのにおいって、本当にあるの!?
さすが、狼に近い生き物だなっ。
「しかたない。
じゃ、本当のことを言おう」
言おうの、「う」と同時だった。
男がピストルぐらいの大きさのボウガンを抜き、瑠奈に矢を撃ったのは。
瑠奈、予想外の行動に出た。
飛んできた矢を、口で咥え止めたんだ。
人間の姿でいても、手より口が先に出る辺り、やっぱりジェヴォーダンの獣なんだろうねぇ。本領発揮だ。
そして、それをそのまま首を振って投げ返す。
二指真◯把かよっ。
矢の飛んだ先は、当然のように男の身体。
男は紫外線ライトを振って、矢を打ち払った。
突然、僕の全身にかかっていた、光の圧が消えた。
矢を叩き落とした時に、紫外線ライトが割れたんだ。
これで怖いものはもうない。
一気に攻勢に出ようとして……。
瑠奈、そのままくたくたって、床に崩れ落ちてしまった。
それを見た僕、思わずそのまま固まってしまう。
なにが起きているのか、さっぱりわからない。
ただ、よく見ると、瑠奈の口元に薄いガラスの破片が光っている。
矢に仕込まれた、なんらかの毒薬を飲まされたのか、吸わされたのかもしれない。
瑠奈を助けに出ようとして、僕は思いとどまった。
というのは、男が瑠奈を即時に殺すつもりでない限り、解毒剤を使うだろうからだ。
逆に、殺すつもりで放っておくのであれば、瑠奈は助からない。いきなり倒れるって、それだけの強く即効性のある薬だということだから、病院に運んでいる間に死んでしまうだろう。
ついでに、放っておいて回復する薬であれば、それはそれで男の態度でわかる。
つまり、僕が出ていかないほうが、瑠奈の助かる可能性は高くなるんだ。
ただ、僕、それを冷静に判断できたわけじゃない。
奥歯を噛み締め、全身の焦りと震えを抑え込んで、そう決断したんだ。
次話、特殊な嗜好を聞かされるヴァンパイア
に続きます。




