第16話 ヴァンパイアとリレー
いよいよ、ピストルが鳴る。
やっぱり、一組、速い。さすが陸上部だと思うのは、走るだけじゃなくてバトンの受け渡しが上手い。そこでの時間ロスがないんだよね。きっと陸上部の指導で、その辺りをクラスのみんなで練習してきているんだ。
男女交互に走って、35人。
最初の団子状態から、一気に一組が抜ける。
一応、荒川、がんばってくれた。
二組がそれで脱落。ついでに、焦りからバトンを落っことして、周回遅れみたいな状況になった。
で、一組と三組の一騎打ちなんだけど、僕たちの三組、どうやっても一組に追いつけない。
ただ、女子が頑張ってくれて、じりじりと差を詰めてくれた。
男子だけだったら、絶対勝てなかったと思うよ。
特に、瑠奈、よくわからないけど、なんか速い。
小柄だから手足の長さ的には絶対不利なはずなんだけど、ツインテールを後ろに流しながら走る姿は、ヨークシャーテリアの全力疾走みたい。そこだけ録画が早回しになっている感じ。
こんなこと言ったのが聞こえたら、瑠奈は絶対怒るだろうけど。
あと5人で僕だ。
祈るような気持ちで、走るクラスメートを見守る。誰も、バトン、落とすなよー。
声援も飛ばす。
僕たちと同じように、一組の連中も熱狂状態。
そんな中で、男子が引き離され、女子が詰め返し、それが繰り返される。
さあ、行くぞ。
バトン受け渡しのエリアの、一番手前側で待つ。
少しでも僕が走る距離を長く取るためだ。
桜井が死にそうな顔で、バトンを差し出しながら走ってくる。
一組のアンカーが、バトンを受け取るために走り出した。
僕は、セオリーに反するけど、走り出さずに桜井を待つ。
僕、1つチートを使う。ってか、そもそももともと、足の速さだけでもチートなんだけどさ。
途方もない脚力を、バトンを受け取ったあとのダッシュ力に使うんだ。
一組のバトンがアンカーに渡った。
陸上部のエース。
確かに速い。あっという間に20m近く先だ。
そこで桜井のバトンが僕の指に触れた。
そのまま僕、バトンを握って進路方向に倒れる。
そしてバランスを崩すぎりぎりのところで、一気に地を蹴って、倒れる力まで前進の力に変えた。
そして、右足の親指で地を蹴り、一気に加速……、できなかった。
靴が……、靴が耐えられなかったんだ。
あまりの力の集中に、めりめりと靴底が剥がれる。
溜め込んだ力が空回りする。
人間用の靴はダメだなぁ。
でも、それでも、僕の身体は前に進み始めていた。
2歩目、まだ左足の靴は無事。
ぐんっ。
加速が波に乗る。
でも、次の右足は……。
足の親指で、地を掴み、さらに加速。
3回目の着地で右足の靴下が破れ、足の親指の皮膚が、砂に削り取られる。
ヴァンパイアの超回復力が、即座に足の指の皮膚を作る。
加速が完全に波に乗った。
でも、左右のバランスが悪くて、とても走りにくい。
左足の靴を、一気に蹴飛ばすように脱ぎ捨てた。
それで、ようやく、一組のアンカーの背中を捉えた。
残り10m。
僕は、一気にゴールに駆け込んでいた。
逆転勝利とはいえ、その差は数センチじゃないかってくらいの体感。
クラスの熱気は最高潮に達し、そりゃあもう、大騒ぎだった。
そして、荒川のことを覚えているヤツなんか、もう誰もいなかった。
肩を叩かれ、背中を叩かれ、もみくちゃにされる中で、僕は初めてヴァンパイアになってよかったって実感を得た。
もっとも、足の痛みにひたすら耐えながらだけど。
次話、ヴァンパイアの「でもでもだって病」
なのです。




