第14話 ヴァンパイアと体育館裏
試験結果が帰ってきて、多少の居眠りをしてもある程度は笑って許してもらえる立場を手に入れて。
一ヶ月後には、体育祭がやってくる。
僕、当然のようにクラス対抗リレーの選手に選ばれた。
しかも、部対抗リレーの選手にもだ。
部対抗は、正直どうにもならない。
たぶん、アンカーの僕が走り出すより前に、陸上部はゴールしているだろうからだ。化学部の面々に、走り足を期待するのが間違っている。
それに、化学部と剣道部は、最初から不利な条件が付けられている。
化学部は白衣で、剣道部は防具をつけて裸足で走るからね。サッカー部やバスケ部の、やたらと走りやすそうなユニフォームが羨ましいよ。
でも、クラス対抗はそこまでの差はないはずだ。
だから、がんばる。
だけど、個人的に僕はいろいろ調べた。
本気になりすぎて、世界新みたいなペースを叩き出しちまうと、片山先生どころか学校全体がまたうるさくなるからね。リレーで1位、でもそこそこの速さでしかないって感じにしないといけないんだ。
体育祭は保護者も来るし、ビデオカメラもたくさん回る。
自衛はしなきゃだ。
体育祭当日、僕は、SPF50+でPA++++の日焼け止めをがっつり塗りたくって、家を出た。
今日は給食もないから、母さんの作った弁当をぶら下げている。
近頃、ようやく味がないものを食べるのに慣れてきたよ。
もうね、体育祭では無双することはわかりきっている。
うちの親は共働きだからね、体育祭を見に来ることもない。いつから足が速くなったんだ、なんて聞かれなくて済む。
問題はなにもない。
そう、なにもないはずだったんだ。
午前の最後の部対抗リレーを軽く流して、お弁当という時に……。
瑠奈の姿が見えないことに、僕は気がついた。
笙香もいなければ、一緒にどこかにいるってことだから安心できるんだけど、ね。
笙香は、でかい口開けて、お弁当に入っていた唐揚げらしきものを頬張っている。
くっ、友達甲斐のないヤツめ。
お弁当を食べる時は、みんな教室にいる。だから僕は、教室から出て、階段の踊り場まで移動して、自分の身体を霧にした。
これもヴァンパイアの能力の一つだ。
本来ならば、僕はヴァンパイアなんだから、人間に対してこんな立ち入った心配をするべきじゃないのかもしれない。
でも、瑠奈のことだし、つい、動き出してしまったんだ。
霧になると、僕の身体は果てしなく薄まり、でも広大な広がりを持つ。
だから、体育館裏で瑠奈がなにかを強い口調で言っているのを、あっけなく発見した。
僕は、その近くの物陰で身体を実体に戻した。
そして、瑠奈に近づこうとして……。
「ちょ、待てよっ。
俺から声を掛けられて、喜ばない女なんかいないんだぜ。
付き合ってやっていいって言っているんだから、喜べよ」
……あーあ、この言い草は荒川だな。
すごく、らしい感じだ。
「私、アンタ、嫌い。
嘘つきじゃん」
おお、さすがは瑠奈。
荒川相手でも、言うことは言うねぇ。
次話、身体を霧にできるヴァンパイア
なのですー。




