夜明けと別れ
僕も結構酔ってきた頃。
僕はテーブルに両手を組む様な形で乗せて、そこに蹲っていた。顔を上げ時計を見ると、気付けばもう6時頃だった。
「もう直ぐ夜明けだね〜」
何気無くそう彼女に囁いた。
「そう...ね...ホント.........」
何処か悲しげに彼女は答えた。彼女も結構酔っていた。僕は顔を上げて彼女の顔を見る。
右腕をテーブルに付いて掌に顔を乗せた状態で、その顔からは涙がダラダラと零れ落ちていた。
「なーんで、泣いてるの...?」
呂律が回っていないような口調で彼女に聞いた。
「貴方は貴方のまま.........生きて行ってほしい...のよ.........」
軽く僕は笑いながら答える。
「俺は〜俺のままだよ〜」
彼女を見つめながら少しの間沈黙が続いた。
「チェックで」
彼女は急にマスターにそう言うと、鞄から財布を取り出そうとした。
僕はチェックの意味をその頃知らなかったが、その場の雰囲気と彼女の財布を取り出す動作から、会計の事だと悟った。
僕はいち早く財布から2万を取り出し会計を済ませて、大泣きしだす彼女を連れて外へ駆け出す。
「どうしたん?」
「私って本当に馬鹿なの.........もっとお話しないといけない事が沢山あるのに.........」
「心配する事ないよ!また会って俺に話せば良いじゃん!ね!」
首を左右に振る彼女。
「どれだけ苦しくても。真っ直ぐ貴方らしく生きて行ってほしいの。今の私が言ってる言葉の意味なんて貴方に分からないと思う!」
彼女の強めの口調に、僕もつい少し強めの口調で答えてしまった。
「訳わかんないよ!俺に何を言いたいの?」と。
彼女は携帯を見た後に急に駆け出し、道の十メートル程先で左の方へと曲がった。
眠気と酔いと少々の苛立ちからか、僕は彼女の事を追わなかった。
見た目は本当に良かったけど、よく分からない女性だった。この一夜、付き合っただけ馬鹿だったのかなと僕は思ってしまった。
気持ちを落ち着かせる為か、携帯のSNSを開いて呟く「眠っ。」
彼女の走って行った道の方へと僕は進んだ。
帰りの駅の改札がそっちの方が近かったから。