番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・7 ~散策開始……したのは良いですが、何でか変なのに絡まれました?~
少し間が空いてしまい済みません。
そして、まだ終われません……。
番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・7 ~散策開始……したのは良いですが、何でか変なのに絡まれました?~
さて、警備隊舎の応接室にて何故か冒険者の登録をする流れになって、無事身分証はゲット。そしてそのまま冒険者ギルドのギルド長スティアナさんからギルドのシステムの説明を受けた訳ですが。
まぁよくあるファンタジーな設定で、ランクは特級がS+とS-、上級がA+とA-中級のB+とB-、下級のC、初級でD、その下が見習いのEFGに分かれる。
中級以上の+-は上位になればなるほど同じランク内でも実力差が生じるので、その区分らしい。
ランクアップはギルドで発注されるクエストを熟して必要ポイントを溜めるか、発注外でも盗賊・強盗や暴漢の捕縛でもポイントは溜まる。クエストごとにポイントが決まっていて、Dまでは採取系のクエストのみでなれるが、C以上にランクアップするには討伐系のクエスト達成が必要になる。
基本的に受けられるのは1つ上のランクまで。特殊なクエストを除き通常に発注されているクエストは期限はない、一回に受けられる上限もない。失敗した時の罰則も特にはないが、ギルドからの信用と言う目に見えないものには影響は有るらしい。
これは余談だが、PTを組むのにも冒険者登録が必要で組めるランクは同様。つまり6人PTを組むのに既にDとEランクが居た場合、ここにFやCランクは入れない。
自分も本来ならGランクの筈だが、例の暴漢の捕縛で一気にランクアップしたらしくEランクからのスタートだ。対人含め、討伐や捕縛は危険度も増す分ポイントも高いのだとか。
後は違反行為をした場合はその内容にもよるが、最悪の場合は冒険者登録の抹消。2度と冒険者にはなれなくなるらしい。
違反の内容は一般的な犯罪行為、盗みや詐欺、後は犯罪者外に対する暴行や殺人等々。線引きの難しい内容もありそうだが、冒険者同士の喧嘩程度なら大丈夫だとか。
一通りの説明も受け、新しく出されたお茶とお菓子も堪能させて頂いて一息ついた所で、ふと思い出した。
「そう言えば、スティアナさんに声を掛けに行って頂いた男性はどうしたんですか?」
「あぁ……、アイツなら他の隊員に捕まって連れてかれたよ」
え? 隊員が隊員に捕まるの?
「と言っても、ここに居る方々とは違ってサボタージュしてたらしいですからね、通常業務に戻されただけです」
なるほど。キルディエさんたちはシフトの変更などで時間は確保していたらしいけど、あの男性はその場の思い付きでの行動だったらしいからね。カミシナさんもその辺はしっかりしてそうだし。
だからと言ってこれ以上の滞在はご迷惑だよね? 何だかんだと長居してしまったが、何やら外の慌ただしさも増して、自分から切り出さずともその内に誰かが呼びに来そうな雰囲気でもある。
「そうですか。では自分もそろそろお暇を、色々と有難うございました」
「うむ、もう少し、と言いたいところだがこれ以上は難しいか」
「何か困ったことがありましたら、遠慮せずに。と言ってもクラヒ君は早々に頼ってはくれなさそう、ですけど」
「ねー? 困ってなくても、顔を見せに来てくれたら嬉しいけど。それも、遠慮しちゃいそうだよね」
え? だって、早々に困ったことに遭うなんてないだろうし、まして困っても無いのに来ても邪魔になりそうだし。社交辞令、だよね?
「ふっ、一般人が警備隊に頼る事なんて、起きないのが最良だろう? 冒険者ギルドは依頼の受注の関係で、いつでも会えるだろうがな」
「はい。先ほども言いましたが、名指しで構いませんので、冒険者ギルドに立ち寄った際にはお声掛け下さい」
……だから、ギルドマスターやマスターの補佐を名指しなんてしないよ?
「はんっ、クラヒ君から来ないなら、こっちが訪ねれば良いだけの話。滞在している宿も知っているしな。良ければまた一緒に食事をしよう」
「え? 戻ってくるのが遅いと思ったら、ボスたち、クラヒ君とご飯食べてたんですか!? ずるいです!」
あれ? 何か話が暇から離れて……。
「コホン、クラヒさんが困ってますよ? 惜しいのは確かですが、こちらも業務が押して来ていますので」
「あぁ、済まない。表は人が多い通りだから裏口に案内しよう」
おぉ、カミシナさんの言葉で方向が修正されたよ。
「いえ、こちらこそ、最後まで気を遣わせてしまって済みません。皆さんも時間を頂きありがとうございました」
「ううん、先のボスの言葉じゃないけど、また一緒にお茶とかしよう? こっちは全然迷惑じゃないからね?」
「はい、楽しみにしてまね。スティアナさんもタルトロットさんも、冒険者ギルドに行った際には改めてお願いします。では失礼しますね」
先導してくれるキルディエさんに続いて応接室から外へ。来た道の階段を降りて、先程とは逆の隊舎の奥へと入って行く。
キルディエさんが先導だからか、単に見慣れない来訪者だからか、それなりに視線は集めていたが、敢えて寄ってくる人は居ないまま裏口と思しき場所まで来れた。
「今度変な輩に絡まれそうになったら、何が何でも逃げなさい。冒険者としての矜持もあるだろうが、何かあってからでは遅いからな」
「はい、気を付けます。では、ありがとうございました」
キルディエさんと別れて踏み出した先は、表とは打って変わった静かな通りだった。そのまま地図を頼りに足を進める。
今までの時間は本来のゲームとしての在り方からはズレていそうではあるけど、有意義な時間だったんだと思う。狙って知り合える人たちではなさそうだしね。
◇ ◇ ◇
さて、警備隊舎を後にして自分は今、北の商業区へと向かっている。
冒険者御用達の武器に防具は勿論、一般の街の方も使う薬や食品、果ては調理器具や庭の手入れに使うような剪定用のハサミなど、多岐に渡る商店が軒を連ね、大通りを外れても何かしらの店があり、武器や防具の手入れをして貰える鍛冶屋、そしてプレイヤーでも使える貸し出しの鍛冶場や調薬場なんかもある場所だ。
懐が温かくなったこともあって、ついいろいろな店に目が行ってしまう。
防具に関しては、今の自分のレベル以上に上等なものなのは想像がつくので、新調するのなら初期装備の短剣辺りだろうか。いや、ここは思い切って、新しい武器のスキルに手を伸ばしてみても良いかも? おー、あっちには調薬の道具もあるし、そちらも捨て難い。
いくら懐にゆとりがあっても、全てを一遍に揃えるのは無理だから、何を優先するべきか、悩むところでもあるよね。
そんな色々な店に目移りする自分の前に、不意に立ちはだかる人影に足を止めた。否、止めざるを得なかった。
「あのっ」
人が多いとはいえ意図しなければこうはならない訳で、予想通り、その人物から声を掛けられたが、何か声を掛けらるような事があったか?
初期装備にプラスで新しそうなマントのプレイヤーらしい妖精族の女性、外見年齢だけでなく雰囲気からも結構若そう。心機一転もあり、リアルの知人は勿論、他のMMOで知り合った人にも自分がこのゲームを始めることは誰にも伝えていないので、知り合いという線はないはず。
「えっと? 何でしょう?」
「行き成り済みません、プレイヤーさんですよね?」
「まぁ、そうですね」
「そのマントって何処で手に入れました? 私もさっきそこの防具店でこのマント新調したんですけど……そんなのは置いてなかったなって気になって」
そう言われても、買ったのは自分ではないしなぁ。
「あー……訳あって知り合った人に用意して頂いた物なので、何処で手に入る物なのかはちょっと……」
「何それ、遠回しに教えたくないって、言ってます?」
言葉の通りなんだけど……。仮に知っていても、同じモノがあるとは限らないし、何より見ず知らずの相手に教える義理はないよね? ……これは面倒な人に捕まった。
「どう取って貰っても結構です。話がそれだけなら、自分はもう失礼しますね」
「ちょ、待って。なら、お金は出します。だからその装備、譲ってください!」
うっわー、何言いだすのこの子。色々大丈夫かな?
「先ほど言ったように、これは好意の頂き物なので譲れません。幾ら出されても無理です。って事で失――」
「お願いします! それすっごい気に入ったんです。だからどんな条件でもいいから譲ってください!」
ってか、行き成り人の服を掴むなんてどれだけ必死なんだろう、放して欲しいんだけど。それに、この子の声量でさっきから視線が集まって……このままだと警備隊にお世話になるパターンか?
「ですから、何を言われても――」
「こんなに頼んでるし、お金は出すって言ってるんだからいいじゃないですか! どうせ貰い物なんでしょ!?」
どういう考え方をしたらそうなるのか。何にしろ自分とは相容れないのは分かったが、これは本気で解放されなさそう? さて、どうするべきか。
「何黙ってんの!? さっさと――」
「なぁ、そこのあんた、見苦しいんだが?」
周囲に人が集まりだしていたのは感じていたが、遠巻きにされていたのも分かっていたので、まさか声を掛けてくれる人が居るとは。見れば深緑の髪をオールバックにした魔人族の男性プレイヤーらしき人が、人の輪から抜けて近づいて来る。
「いきなり、何よ?」
「どう見たってただの集りで、その人に迷惑でしかないだろう? 十二分にGMに通報できるレベルの苦情ものだぜ?」
「な!? 通報って……、あんたには関係ないでしょ!」
「はぁ、そんなこと言ったらあんたが一方的に捲し立ててるだけで、その人も関係したくなんてないだろうよ? きっぱり断られてる時点で、引くべきだろうが」
「断られてなんて――」
「言ってただろ? 『譲れません。幾ら出されても無理です』って、コレが断りでないなら、あんたは何なら断りだと?」
「――っ、覚えておきなさい! 絶対に――」
「あぁ、あんたの顔はしっかり覚えたさ。次に何かするんならそっちが覚悟するんだな」
「~~~~~!」
『覚えておきなさい』なんて、あんな捨て台詞使うのが本当に居るんだ……って関心してたらこちらの魔人族さんの切り返しに言葉も失って逃げて行った。うん、途中から自分はただの空気だったと思う。もう少し早くあの子が手を放してくれてたらこっそりフェードアウト出来てたかも? いや、助けに入ってくれた人を放ってなんて、しないけどね。
「ご迷惑を掛けたみたいで申し訳ないです、本当に助かりました、有難うございます」
「いや、迷惑って程でもないさ、ただ、災難だったな。ゲームだからってああやって羽目を外すのもいるらしいから、気を付けた方がいい。じゃぁな」
そう言って去っていく魔人族の人。恩ぎせがましくなく、恰好イイな。自分も人の輪を抜けて目的の北の方向へ。
マントの効果に隠蔽とかもあったから、顔はバレてはないと思うけど、これからは装備でバレるのかな? 目立つつもりはこれっぽちも無かったけど、儘ならなものなんだな。