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非日常に振り回される、在り来たりな日々の冒険譚 番外編  作者: SUNA
番外1 在りし日々の冒険譚
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番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・5 ~初日にして警備隊舎にお呼ばれですが、何か?~

 番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・5 ~初日にして警備隊舎にお呼ばれですが、何か?~


 警備隊のお二人を待つ間だけのつもりが、何故か一緒に食事をすることになって、更に受付でお世話になったマヒリエさんとコック長と呼ばれている男性に囲まれての食事になった訳だけど。


 Bセットの今日の日替わりは、魚はフライで肉はステーキか、今度頼むのならBセットもいいかななんて少しだけ現実逃避をしてみたり。


 因みに、自分の最後に取ったパンの木の実は想像していた木の実(クルミ)とは違ったけど、触感も楽しいしどんな木の実なのか気になった。パン生地自体も仄甘く、何もつけ無くても十分美味しいけど、ベリー系かな、ジャムを付けても美味しい。なかなか焼きたてのパンを現実で食べることは少ないから、これからのこっちの食事が楽しみかも。その反面現実の食事を疎かにしそうで怖くもあるけど。


「……コック長の隣なのは気に入らんが、そっちの方が良かったか? いや、コック長が退けば済んだ話だな」


「同意です、失敗しましたね。まぁ、もう食べ終わる様子ですが」


 それって、気に入らないコック長の隣よりも、さらに自分の隣の方が嫌ってことかな? 微妙に傷つくんですが……うん、聞かなかったことにしよう。


 自分を挟んで会話する両隣は既に食べ終えていた様子で、視線が気にならない訳ではなかったが待たせるのも悪いし、なるべく気にしないように食事の手を進めて行き、何とか他のも食べ終わり最後のパンの一欠片を口に入れ、味わう。次はもう少し落ち着いて食べられるように、ちゃんと時間を作ろう。


「食後のサービスドリンクです、珈琲ですが良かったですか?」


 ……もう何が起きても驚かない。いつの間にか移動していたらしいマヒリエさんが、自分咀嚼し終わった絶妙なタイミングで後ろからカップを3つテーブルに置いてくれたんだけどね? ここに居る人は皆超人って思っておこう。


「有難うございます、珈琲は好きなので大丈夫です」


 代わりに空いた皿を下げてくれたマヒリエさんにお礼を言って、カップに口を付ける。変な癖のないスッキリとした後味と鼻に抜けるアロマ。『D.V.R』の珈琲豆を知らないから予想の域をこえないけど、このバランスはブレンドかな? ストレートにしては癖が無さすぎる気はする。自分はもう少し焙煎の深い物かボディの強い物の方が好きなんだけど、万人受けするのはこっちなのかな。


「珈琲、本当にお好きなんですね?」


 再びコック長の隣に座ったマヒリエさんからそんな事を言われてしまったが、何か顔に出てたかな。気にしないようにしていた両隣と正面からの視線も感じて、少し俯く。VR恐るべし、今の自分はきっと赤面しているんじゃないかって自覚できるくらいに顔が熱い。


「まぁ、毎日飲むくらいには、ですけど……」


 珈琲も中毒性があるって聞くし飲む人だと1日で何杯も飲むらしいけど、自分は朝に。他はその時の気分だからな、無ければ困るって程でもないが、有ったのは純粋に嬉しい。別に紅茶も日本茶も中国茶も飲むし、酒は嗜む程度だけど飲むしね。


「それより、お待たせして済みませんでした」


 珈琲も飲み終わり、改めて謝罪を。思ったより時間が掛かった気がするのは、自分だけの所為ではないと思えるが、待たせたことに変わりはない。


「気にするな。ちゃんと食事の時間が取れたことを考えれば、逆に良かった方だな。中々に新鮮なものもあった」


「ですね。これからの事を考えても、忙しくなる一方でしょうが……食事の大切さは身に沁みます、中々に良い時間でした」


 あー、忙しくなる原因の一端は自分ですか? 単純にプレイヤー全てを指していそうだが、行き成り街に人が増えれば当然と言えば当然の事だけれども、初日にやらかした自分的には耳が痛いな。


 それでも、少しでも寛ぐ時間になったのなら、建前でも嬉しいかも。


「コック長? ご馳走様でした、美味しかったです。代金はここでお支払いしていいんですか?」


 あれ、驚いた顔をされたけど何か違ったのかな? 


「ルイナン」


 るいなん? そう一言だけコック長に言われたけど支払う場所、ではないよね? 今度は他の3人が驚いてる様子なんだけど、何だろう。


「俺の名前だ。名乗らず失礼をしたな。そこの警備隊のが言ったように、ここのコック長をしているが今度からは名前で呼んでくれ。支払いはここで構わない、受け取るよ」


 お名前でしたか。取りあえず差し出された手に丁度で乗せる。


「やっぱり槍か天変地異……」


「いいや、季節外れの大雪か……」


 警備隊のお2人は何かを言っているが、何が珍しかったのかは自分ではさっぱりだ。


「クラヒ様、次回からこちらの伝票をお渡ししますので、お支払いはあちらのカウンターで札と一緒にお見せください。コック長も、次からはちゃんとしてくださいね」


 支払にちゃんと伝票があったのか、ルイナンさんは惚けたように視線を逸らしているが、知らなかったってことは無いよな。


「分かりました。マヒリエさんもありがとうございます」


「いいえ、お役に立てたのなら良かったです。この後もう出られますか? でしたら鍵はお預かりしますが」


 元々そのつもりでいたので、頷いて鍵を預ける。


「はい、お願いします。その後はまた街の散策に出ようと思っていますので、いつ戻るかは未定ですが」


 ルイナンさんを除くお三方から微妙な視線を頂いているのですが、何か変な事を言ったかな?


「散策は……まぁいい。ヒルビズ、会計を済ませこい。クラヒ君も出ようか」


 ……何がいいのかは少し不安ですが、行くことに否は無いので頷いて後について立ち上がる。


「では、行ってきます」


「はい、いってらっしゃいませ」


 マヒリエさんとルイナンさんに見送られて、食事処の外へと出た。


  ◇ ◇ ◇


 キルディエさんとヒルビズさんに連れられて警備隊隊舎へ向かう道中、何故自分は、こんな単純なことを考えなかったんだろう、と後悔している時点で遅いのだが、今現在の心境は過去の自分を思い切り罵倒した気分だった。


 警備隊の隊舎は中央付近にあるらしく……そう、あの人人人とプレイヤーがごった返していた中央付近に近づくにつれ当然プレイヤーが増えて、刺さる視線も比例。


 どう見ても一般人には見えない住人なお二人と、外套で顔を隠しているがどう見ても釣り合わない自分、好奇の視線は増える一方で、時折聞こえる声も「何かのイベント?」「あれって、警備隊の制服だよな? 何かやらかしたのか?」「でも連行っていうか……護衛? 犯罪者って雰囲気じゃなくない?」等、目立ちまくりも良い所!


 何故に隊舎の場所を聞いてそこで合流にしなかったのか、一緒に出歩いたらこうなるのは予想できたのに!


「疲れたか?」


「まぁ、この不躾な視線ですからね」


 視線で酔いそうな自分の足取りが重くなったのを見兼ねて、サイドから掛けられた声に軽く頷くに留める。心配してくれるのは嬉しいが、少しでも早くこの場を抜けてしまいたい。


「大丈夫です、行きましょう」


「そうか? まぁ確かに、こんな場所は早々に抜けるに限るが、……道を空けさせておくべきだったか」


 ……何言ってるの? 現状自然と割れる人垣を、視線以外の苦も無く進めてますよ? 逆にこれだけの人がいて、自然と道が空くってどんな現象だよ、って聞きたいし、それで目立ってるのもあるんだけど? さらに人手が入っての要人が通るっぽくなったら、それこそ悪目立ちなんじゃ?


「気分が悪くなったら素直に言いなさい、君ぐらいなら余裕で横抱きに抱えてあげられるからな」


 得意げに言われた言葉に、要らないダメージを受けた気が。この観衆で横抱き……何の羞恥プレイ? これ以上晒し者になれと?


「ボス、今は変なことを言って居ないで、早々に抜けましょう」


 ナイスです、ヒルビズさん! そしてキルディエさんは残念そうにしないでほしいよ。


「変とは失敬だな、まぁいい。ほらもう少しだ、隊舎が見えて来たぞ?」


 おお! ようやくこの苦痛の時間が終わるんですね! 


 見ればキルディエさんたちと同じ()()()制服に身を包んだ守衛の方が立つ建物が。建物自体は景観を損なわない為か特別な外観ではなく、入り口付近のみ多少の装飾はされてはいるが、守衛が立っていなければ気づけないかもしれない。


「お疲れ様です」


「うむ、ご苦労」


 こちらに気づいた守衛の方が敬礼で迎えれば、キルディエさんは頷いてその脇を通り抜け自分も軽く目礼をして後に続いた。


 建物に入ってすぐには待合席と受付の様なカウンター、右側とカウンターの左脇の奥に扉が。何にせよ視線が無くなって、助かった。


 キルディエさんは迷わずカウンター脇の扉に向かって進んで――。


 バーン!


「クラヒくーん、待って――ふぐっ!」


 その扉が大きな音と共に開かれ、変態……基、リギナさんがすんごい勢いで迫って来ました。


 当然自分の前に立っていたキルディエさんが何かを投げつけて吹き飛ばしましたが、咄嗟にヒルビズさんも自分の前に出てくれてたのが凄いです。


「誰だ! この変態の縄を解いたヤツは!」


「残念ながら誰って聞かれれば、リギナ本人か? つい今までは大人しく拘束されたままだったんだがな? 何をどう察知したのか、一瞬で自分で抜けて行ったな」


 へぇ、縄抜けですか。選択によってはそんなスキルも取れたりするのかな。リギナさんの出てきた扉から現れた亜麻色ストレートな髪を後ろで一つに纏めた物腰の柔らかそうな男性が答えてくれたけど、例に漏れず美形ですね? こちらも警備隊の制服だが微妙にデザインが違うから、部署や班によってデザインがあるっぽい。


「っち、余計なことを覚えて。仕方ないな、ミルディ」


「アイ・ボス! 眠らせて適当な部屋に転がして厳重に鍵と脱出防止の結界を張っておきます! 済んだらお茶持っていきますので、クラヒ君は寛いでてね~」


 呼ばれて現れたミルディさんが、一瞬でリギナさんをロープで拘束して引きずっていきました。


「大丈夫ですか?」


 いきなりの展開に呆けてしまった自分を心配したのだろう、ヒルビズさんに声を掛けられ頷いておく。


「済みません、ちょっとびっくりして。大丈夫です」


「そうではないんですが……、気づいてないのですか?」


 ? 何か変だったか? 


「キリー、そこでは他のが通れない。聴取室はどれも今は使用中だから、第一応接に案内してあげなさい」


 先程の男性がキルディエさんに向かって指示を出すって事は上の役職に就いているのか、キルディエさんは一瞬考える素振りだったが、そのまま頷いた。 


「そう、だな。済まないこっちだ」


 キルディエさんの先導で元々のリギナさんが出てきた扉を潜り廊下を進む、途中で曲がって階段を上りすぐ左手に合った扉を開けた。


 応接と言われただけあって、ローテーブルを挟んで対面で置かれたソファーと後は壁に掛けられた絵画など、派手ではないが、高級そうな雰囲気の部屋だ。


「クラヒ君は座って楽にしてくれ。そして呼んでいないが、何故いる?」


 うん、当然のようにヒルビズさんの後ろから着いて来ていた男性。


「ん? こんな面白……基、楽しそうな事に関わらないのは無いだろ?」


 言い直したけど、変わって無くない? 何にしろ自分に関わったからって楽しい事なんてないと思うけど最初の印象から少し変わって、優しそうだけど、何処か軽そう。


「クラヒ君、()()は居ない存在としてくれて構いませんよ。では余り時間を取っても申し訳ないので、話を進めましょうか」


 キルディエさんとヒルビズさんは向かいのソファーに座って、ヒルビズさんに切り出された。話を進めるには勿論否は無いので頷いておくが、居ないにしては存在感あり過ぎで……それに何で自分の横に座るんだろう、横からの視線が痛いです。


「聞いた話を纏めたものです、通ったルートに誤りはないですか?」


 地図が添付された紙を渡されるが、うん、見た所間違は無いかな。


「……猿? ってアレか?」


「居ない人は黙っていてください。誤りが無ければ大丈夫です。で、こちらが暴漢捕縛褒賞の金貨30枚ですね。ちゃんと正規の金額ですので受け取ってくださいね」


 イマイチ上下関係が分からないんだけど、男性の言うアレって何だろう? そして、最初の所持金が行き成り30倍か、念押しで正規だと言われた以上受け取るしかないんだけど。


「お待たせしました、お茶とお菓子です!」


 褒賞金を受け取ったタイミングで、行き成り現れたミルディさんにはもう驚きません。


 持っているトレーにはカップとポットとシュガーポットとミルクかな? それに菓子が盛られた皿。カップの数は4個だけど、何となく予想は付くが……誰の分が無い計算なんだろうね。


「ありがとうございます」


 目の前に差し出されたカップを取り、一口。種類までは分からないが、紅茶だね。ストレートでもそれほど渋みもなく飲みやすい。菓子はクッキーのような焼き菓子で、紅茶によく合います。


 ミルディさんは向かいのソファーのキルディエさんの右隣に腰を落ち着けお茶を飲んでいるが、カップに入った砂糖の数は目の錯覚でなければ5杯? 甘党なのかさらに何枚か菓子を頬張ってます。


 カップは向かいの3人+自分と、予想通りな計算でしたか。


 他の方は完全に居ないものと扱っている様子で、隣の男性も慣れたものなのか、こちらもカップが無い事を気にした様子もないのはいいのだけど、視線が無くならないのが大変気になりますが、自分の顔はそんなに変なのかな?


 褒賞金も受け取ったのだけど帰れるのはいつになるんだろう、特に予定は決めていないがお暇を切り出したらダメなのかな、なんて思ったりしても仕方無いよね。

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