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非日常に振り回される、在り来たりな日々の冒険譚 番外編  作者: SUNA
番外1 在りし日々の冒険譚
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番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・4 ~色々と想像を超えてきますが、仕様ですか?~

 番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・4 ~色々と想像を超えてきますが、仕様ですか?~


 唯の観光のつもりが、暴漢に襲われ、何とか謎の猿のお陰で事なきを得たが、破られたシャツをどうしようか困っていた所で街の警備隊にお世話になって、継続して警備隊の方に宿まで送ってもらっている道中、既に日も暮れた事もあり、それ程人通りはないが全くすれ違わない訳でもないので、その方たちが態々振り返るのが怖いんですけど? 1班班長さんとその側近さんは実は有名人だったりしたのかな?


 ちらりと横を見れば、美形揃いの『D.V.R(この世界)』でも際立って美人さんなのは確かだけど、最初の印象がなぁ。


「どうした? 私の顔に何かついているか?」


「いえ、すれ違う皆さんが振り返っていた様に感じたので、何でかな、と」


「ふふ、正直に私の顔に見惚れたと言えば――」


「ボス、それはないです。嫌悪感はさなそうですが、何処か残念なものを見る目でしたので、ボスに襲われた時の事でも思い出していたんじゃないですか?」


 うわ、顔に出てたのかほぼ完ぺきに読まれちゃったよ、それにしても一気に空気が重くなったんだけど。


「……ヒルビズ、貴様も減給が望みだったのか?」


「ははは、何を仰います。自分の行いの結果でしょうに、切り返しが幼稚ですよ。それと住人の反応は……半分は確かにボスにありますがもう半分はクラヒ君だと思うけど?」


 こんな雰囲気のキルディエさんに軽口を返せるなんて、やっぱり付き合いの長さなのかな? にしても、振り返る原因の半分が自分? 何か変、なところは無い筈だけど……あぁ、美形2人に挟まれて余りにも浮いていたのか。


「「……はぁ」」


 え? なんでそこで2人してため息つくんだろう?


「さて、天然無自覚君は置いて、宿は見えてきましたね、中まで入りますか?」


「あぁ、挨拶くらいはな。でないと後で五月蠅そうだろう?」


 この話し方から、宿の誰かと知り合いなのかな。さて、受付の方が違う人でありますように、と願ったのがいけなかったかな、扉を潜った先のカウンタ―に居たのは、見送ってくれたお姉さんでした。


「只今戻りました」


「はい、お帰り――っ!?」


 声を掛けた自分に向いた瞬間、すっごい驚いた顔? 


「何があったのですか!? 御召し物が出て行かれた時と違う上に、警備隊1班の班長と一緒だなんて!」


 自分に対して、と言うより後ろの2人に対してか視線は警備隊の方に向いている様子。


「えっと、大した事は……ない? ですよね?」


 あれ? 何か視線が……口以上に心情を語っている? つまり、大したことないのは嘘だろうと。


「詳しくは省くが、暴漢に襲われ本人が撃退、そこまではいいがそれらをどうしようと困っていた所に見回りの私たちが接触。襲われた際に衣服は少しダメにした様子でね、捕らえた暴漢に弁償させるために新しい物はこちらが用意した。それで、暴漢捕縛の褒賞金を渡す話にはなったが、一旦宿に戻りたいとの事で送って来た次第だ。この後2時間後くらいで良いのかな? また迎えに来ることになっている」


「暴漢……服……」


 キルディエさんが簡潔に纏めれば、宿の受付のお姉さんは何を想像したのか顔を真っ青にしている。


「貴女が考える事は分かっている、全面的にこちらの失態なのは誰よりも私が理解しているさ。急いで警備体制の見直しと、()()の対策は指示済だ。ただ、聞いての通り本人曰く“大したことない”らしいから、この件に関しては()()()()()()()()()()()ので、その様に」


 続けられたキルディエさんの言葉にお姉さんは何かを考える素振りではあったが、考えも纏まったのか頷いた。


「分かりました、では警備隊のお二方は一旦宜しいですね? クラヒ様、部屋にはシャワーが備え付けてありますので、その場にあるアメニティはご自由にお使い頂いて構いません。今はゆっくりお休みくださいませ」


 鍵を渡されながらの言葉に、純粋に驚いく。シャワー何てあるんだ? 自分はまだとっていないが、住人の人たちも生活魔法である程度綺麗に出来るらしいから、無いと思ってた。


 ちょこっと部屋への楽しみが増えたが、挨拶はきっちりとしておかないとな。


「はい、ありがとうございます。お二方も、色々ありがとうございます。お手数を掛けて済みませんが、2時間後には行けるようにしておきますので、お願いします」


「うむ、では2時間後にこの場に迎えに来るからな。いいか? 支度が早く済んだからと、勝手に出歩いてくれるなよ?」


 ……えっと? 反応に困るんだけど、単純に擦れ違いを心配して、だよね?


「分かってます、ちゃんとこの場で待たせて頂きます」


「ならば良い。では、私たちは一旦失礼する」


「また後でね」


 キルディエさんとヒルビズさんを見送って、自分もお姉さんに頭を下げて2階へ。


 建物全体的に古めかしい雰囲気だが、決してみすぼらしい訳ではなく手入れは行き届いていて、どちらかと言うとアンティーク調とでも言えばいいのか、階段の手摺一つとっても繊細な彫刻が施されどことなく高級感が漂っている。


 普通に紹介してもらったし、受付では特に何も言われなかったが、実はすごい宿だったりしたのかな? 警備班の方たちの反応も普通ではなかったような。まぁ、どんな宿であっても宿を探す手間も省けたし、思ったより安くで泊れるので文句がないどころか、ラッキーでしかない。


 周囲の調度品を眺めながら進み、直ぐに目的の207号室までは辿り着けた。


 ドアノブの下にあった鍵穴に渡された鍵を差しいれ回せば、カチャリと音が。そのままドアノブを回し扉を押し開け部屋の中に。


 部屋はここに来るまでに想像した通り落ち着いた雰囲気で、華美になり過ぎない飾り気はない落ち着いたアンティーク調の明るい部屋であった。


 正面には掃き出し窓と小さなテラス、その手前にテーブルセット。部屋の中央は少し空いて洒落たペンダントライトが吊るされている。パーテーションが置かれた右手の奥にはセミダブルくらいのこれまたアンティーク調の天蓋付きのベッドとその脇にはサイドテーブルとナイトライト。左手には扉があり、覗けばシャワールームと、1人部屋にしては想像より広いが、他を知らないのでもしかしたらコレが標準なのか? いや、多分グレードは高い方だと思える。


 テラスに出て見渡せる街の眺望も、現実の自分の安月給では到底泊まれないような綺麗な夜景が広がり、余り使わないSS(スクリーンショット)でつい撮ってしまうほど。何にしろ、ただ寝る(ログアウト)の為だけにしては少し勿体ない部屋なのは確かだ。


 この部屋で寛ぐのも有なのかも知れないが、残念なことにログイン時間も予定よりオーバーしているし、シャワーだけ浴びて現実で昼食と諸々の家事を済まさねば。


 早速シャワールームで、余りにリアルな水の感覚に感動しながらシャワーを浴び終え、ベッドに腰かけ一息。『D.V.R(ゲーム)』を始めて数時間で色々あり過ぎた気がしないでもないが、十二分に楽しんでいる自分がいるのは確かだ。


 そのまま横になり、現実の自分のベッドより数段は寝心地の良いベッドでログアウトした。


  ◇ ◇ ◇


 現実では同じ体制で居た事もあり、思ったより節々が凝っていたが、予定通り昼食と諸々の家事を終え少し早めに再びログイン、あの天蓋付きベッドでクラヒとして目覚め、何となく伸びをして身体を動かす。


 そう言えば宿に戻って早々に部屋に引き上げてしまったので、食事を忘れていた。空腹度も思ったより減っていたので、キルディエさん達が来るまでの時間に食事を済ませてしまうおうか。


 特に身支度もないので、念のためアイテムと所持金の確認だけ済ませ部屋を出て階下へ。


「お早うございます、クラヒ様。お部屋は如何でしたか? ちゃんと休めましたか?」


「お早うございます。はい、とてもいい部屋を有難うございます、余りに寛げすぎて寝過ごすところでした」


 1階に着いたとほぼ同時にカウンターに居たお姉さんに挨拶をされ、返したが、そういえば名前を聞いていなかったな。現実では店員が名札を付けていることが多いが、『D.V.R』ではそうでないみたいだ。


「これは失礼いたしました、私はマヒリエと申します。この宿では出来る限りのサポートを致しますので、何かございましたらいつでもお気軽にお声かけ下さい。カウンターに居ない時は、お手数ですがこのベルを鳴らして頂ければ直ぐに参りますので」


 現実でのホテルのフロント然して変わりはないか、いや、それよりも好待遇? 他のお客は見かけないが、暇って事は無いだろうし、なるべく迷惑は掛けない様には心がけよう。


「ありがとうございます。えっと早速で申し訳ないですが、食事を頂こうとおもってまして」


 かといってシステムを知らないのは困るから、最低限は聞いておかないとね。


「でしたら、席に案内いたしますね、こちらです」


 お姉さん、基、マヒリエさんの案内で幾つかあった内の1つの2人掛けのテーブル席についてメニューを渡される。


「余り種類はありませんが、基本のAセットがパンに日替わりスープ、それに卵料理とサラダとフルーツが付きます。Bセットがもう少しボリュームのある、Aセットに本日の日替わりで肉か魚の料理をお選び頂けるもので、CがBセット同様メインをお選びいただいてのコース料理となっておりまして、その3種類からお選びいただき、お値段はAセットが10D、Bセットが15D、Cが30Dで、札をお持ちのお客様は2割引でのご提供となります」


 種類は無いと言うが、それでも日替わりならある程度は飽きは来なさそうなメニューだよね?


 ただ、自分に関してはそこまで利用は出来ないかな? 『D.V.R』での食事は飽くまで空腹度を満たすもの。


 ここで少しややこしいのが、こちらの食事は当然現実での栄養摂取は出来ないが、脳が食事をした錯覚で現実でも多少の満腹感が得られる場合もあるとか。逆に現実でお腹がいっぱいでも、『D.V.R』での空腹度は充たされないから、どちらでも食事は必要と。


 斯く言う自分の現状は、現実で食事を終えて空腹ではないが空腹度は減っている、と。うん、軽い物にしよう。


「ではAセットでお願いします」


「畏まりました。では少々お待ちください」


 マヒリエさんがメニュー表を受け取って下がるとほぼ同時に、コック服に身を包んだ中々に体格の良い長身の男性がトレーを手に近づいて来る。


「ほい、お待たせ。本日のスープはジャモのポタージュ。パンもお代わりは自由で今日あるのはロールパンと角パンのスライスとバケットのスライス、後は木の実入りと干しブドウ入りのパンかな。塩とオイル、あとはバターとジャムを2種どれでもお好きにどうぞ」


 え、もう来たの? 早くない? テーブルに並べられた料理は……軽い物と思った自分の予想より、多いです。


「ありがとうございます、……えっと? 何かご用でしたか?」


 そして謎なのが、男性が厨房に戻らずに向いに座ったのは何でだ? 


「ん? あぁ気にせずに食べてくれ」


 普通に気になりますが? それ以上は何も答える気は無さそうだし、こうしていても時間は過ぎる訳で、キルディエさんたちを待たせる形になっても申し訳ないし、食べるしかないのかな?


「そうですか……、自分は暫くこの宿でお世話になるクラヒと言います。それじゃぁ、頂きますね」


 気にならない訳ではないが、気にしないと唱えてサラダに手を伸ばせば、……VRって凄いね、何の野菜までかは分からないが瑞々しく新鮮さを感じさせる触感が、そしてフレンチドレッシングの白をそれよりもさらにマイルド? にした感じのドレッシングが美味しい。モンゴを食べた時も確かに思ったが、サラダ1つ取っても表現力は半端ない。


 そのまま手を進め、ふわとろのプレーンオムレツとソーセージ、そして籠に盛られたパンの内のロールパンも現実で言うところのバターの風味と小麦の香りの豊かなふわふわでシンプルながら美味しくて、ジャモはジャガイモが近いかな? スープとの相性もバッチリですか。


「気に入ってもらえた様子で良かったよ」


 あ、忘れてた。そう言えば居たね。


「……はい。とても、美味しいです」


 気にしないとは思ったが、本当に途中から視線も気にせずに食べてしまった。恥ずかしいな。


「へぇ? 成程。ここを――」


「あぁ、食事中だったか」


 男性が何かを言いかけた声に被って、後ろから声を掛けてきたのはキルディエさん? 振り返れば予想通りキルディエさんとヒルビズさんが揃って立っていたが――時間! もうそんなに経っていたのか。


「済みません、お待たせしました? 直ぐに――」


「いや、構わんよ。少し早く来たのはあるし、食事は大切だ」


 立ち上がりかけた自分を制して掛けられた言葉に、頷いて食事に向きなおる。確かに途中で立つのはマナー違反だったかも。


「お言葉に甘えて、頂いちゃいますね」


「勿論、ゆっくり食べてくれ。……にしても、コック長が厨房から出るなんて、今日は槍でも降るのか?」


 続けざま向いに座る男性に向けられたキルディエさんの言葉は表情までは見えないが、何処か挑発的な色が。


「それを言うなら、そっちがだろ? 冷酷冷淡が代名詞の『不感症女帝フリジディティ・エンペレス』、その上『仕事の鬼ワーカホリック・キング』を伴って態々時間を作ってまで一個人の()()ねぇ? 槍が降るどころか天変地異でも起きるんじゃないのか?」


 それに乗るような男性の返す言葉に、あれ? 何かこの場の空気か微妙に重くなった? 


「はいはい、お二人ともその辺で。言いたいことは分かりますが、クラヒ君が居心地が悪そうですよ? ってことで、私はBセットの魚でお願いします」


 流石ヒルビズさん、全然動じ無いどころか勝手に近くの2人席を移動してこっちのテーブルにくっつけて隣に座ったよ! にしても、2人の二つ名がすごいな、どっちも自分のイメージではないけど。


「ヒルビズ、その席を譲れ。貴様があの男の隣に行けばいいだろう?」


「嫌ですよ」


 取り付く島もないってこんな感じかな。キッパリと一言で断ったヒルビズさんに、あれ? 今度はこっちが何か変な空気? と思ったがすぐにそれも霧散して、横を見れば別のテーブルを移動しだしたキルディエさん。自由人ばかりですか? 


「コック長、こんなところで油を売る暇はないぞ? こっちもオーダーだ、Bの肉で」


 左隣にヒルビズさん、右隣にキルディエさん、そして向かいにはコック長と呼ばれた男性。他に席はあったし、態々移動させなくて良さそうなのに、何で自分を囲むように座るんだろう。


「ふふ、クラヒ様はモテモテですか? ですが、あまり遣り過ぎはダメですよ? お待たせしました、Bセットの魚料理と、同じく肉料理です」


「――っ!」


 お、驚いてなんかないよ! 音も気配も感じさせずにいつの間にか両手にトレーを持ったマヒリエさんがキルディエさんの向こうにいらっしゃいましたが、吃驚なんてしてないからね!


 それにしても、“お待たせ”って、唯の決まり文句ですか? って言いたいぐらい注文してすぐに来てますが。さっきもそうだったし、そういう仕様なのかな? そして、マヒリエさんはウェイトレスもするんですね。


「天変地異、起こるんですかね?」


 Bセットの魚料理を受け取ったヒルビズさんがそんな事を零すように言ったが、はて?


「あら、何の事かしら?」


 マヒリエさんがコック長の左隣、キルディエさんの向かいの席に座って首を傾げていらっしゃる。右隣りから「バカが」なんて呟きが聞こえた気がしたけど、気のせいかな? 


 何にしろ両隣のお二人はメインから食べ始め、いつの間にか半分も残っていない、だと? 自分も食べてしまわねば、と籠の木の実入りのパンを一個取った。


 『D.V.R』での初めてのまともな食事が、こんなに落ち付かないものになるなんて想像もしてなかったよ。


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