番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・2 ~初日から、コレ? 濃すぎです~
番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・2 ~初日から、コレ? 濃すぎです~
宿を後にし、自分は予定通り街を観光がてら散策という名のマッピング。
やはりこの西区は居住区らしく、店も服飾雑貨や日用品、生活魔石店や食材といった日常品が主で、後は食事処に食べ物中心の出店が少し。宿も見かけられなかったが、それに関しては何処かで併設は在ったのかも。
何にしろ住人向けな店が軒を連ね、街の雰囲気は穏やかで、どの人も親切だ。
今は公園の様な広場を見つけたのでそこにあったベンチで休憩中だが、ここに至るまですれ違う街の人の何人かに声を掛けられ、軽く挨拶を交わし、「来訪者さんか? 珍しいね」と続き、一様にその後には「手伝う事は無いかい? 案内するよ?」と聞いてくる程。単純に警戒もされていて、見張りの意味もあったのかもしれないが、最終的に受ける印象はどの人も‟とても親切な人たち”であった。
そんなことを思いながら、少しだけ小腹も空いた気分なのでステータス画面を確認すれば、空腹度と渇水度が少し減っていたのもあり、最初の店で店主に勧められたモンゴを取り出してみる。
そのまま食べられる物で勧められた果物なんだから、齧ればいいんだよな?
恐る恐る齧りつけば、思ったよりも瑞々しく甘みが強い、触感はリンゴの様なシャクシャクとしたもので、味は桃? だからモンゴ……なんてことはないよな、普通に美味しいけど。
公園でのんびり何て、現実でもここ何年も覚えがないな、と果物を齧りながらぼんやりと揺れる木々を見ていたら、不意に一際強い視線を感じる。
見れば近所の住む兄妹だろう3~6歳くらいだろう子供が2人こちらを見ていた、正確には、自分の手に持つ食べかけの果物を、だけど。
今は夕方に向かう時間で、この世界では分からないが現実でならお腹が空く時間だね。貰い物もあるし上げるのは良いんだけど、初対面で理由もなく渡すのは不味いのかな?
なら理由を付ければいいのか。
食べかけは一旦仕舞って、自分は立ち上がって子供たちの前に膝を付く。
「今日は、自分はクラヒ。今日初めてここに来たんだけど、2人は近くの子かな?」
そこはちゃんとお兄ちゃん、妹を庇うように後ろに下げて警戒か単純に声を掛けられると思っていなかった驚きか、頷くに留まった。
「いきなりでゴメンね? さっきも言ったみたいにこの街は初めてで、分からない事も多くて、もし良かったら教えてくれるかな? この辺で余り行かない方がいい場所や危ないって言われてる場所はあったりする?」
何を言われたのかを考えたのか、少し視線を彷徨わせた後ゆっくりと指を指した。
「あっち、なんかダンジョンがあってその近くは“がらのわるいの”がおおいから近づくなって」
指されたのは北西、この街はほぼ四角く街壁が囲む街だから角の方か。それにしてもダンジョン! 街中でもあるんだ? でもガラの悪いのが多いのなら余り有名でもないのかな? 余りそうだと思いたくないが、冒険者=ガラが悪いはないよね?
「そっか、教えてくれてありがとう、助かったよ。これお礼に、良かったら妹と食べて?」
アイテムボックスからモンゴを2個出してお兄ちゃんの前に差し出せば、視線は釘付けっだが直ぐには受け取ってくれない。
「あー、知らない人からもらっちゃダメって言われてる?」
頷くお兄ちゃん、躾が行き届いてるのは喜ばしいが、しまったなぁ。子供の手前特に妹ちゃんはすっごく見てるし、今更引っ込めるのも悪い気はするが、コレを持ち帰ったらこの子たちが叱られるのも申し訳ない。
「なんだい、うちの子に何か用かい?」
そこに救いの声が。見れば、今の自分より少し若く見えるラフな格好にエプロン姿の女性が、うちの子ってことはお母さん? いや、年の離れたお姉さんだな。何にしろ例に漏れず美女ですね。
「済みません、怪しい者ではないつもりだったんですが……自分はクラヒと言います。まだ身分証は発行してないので証明は出来ませんが、今日この街に初めて来たもので色々知らない事も多くて……街の観光がてらこの辺を歩いてまして、偶々目が合ったので、危ないとか、近づくなって言う場所はあるか教えてもらってました。それで、お礼を渡そうかと……」
うん、自分で言って何だけど、弁解の余地もなく十二分に怪しいよね?
「ふふっ、そんなに焦らなくとも別に怪しいとは思っちゃいないさ。態々膝を付いてまで見かけない顔がうちの子に話し掛けてるなってだけで、迷惑を掛けたんじゃないならいいんだが……目が合った、ねぇ? そろそろ夕飯だから呼びに来たぐらいだし、どうせうちの子がクラヒさんの持つ果物でも見てたのかい?」
「母ちゃん!」
「え?」
「ん?」
言い当てられたお兄ちゃんが恥ずかしかったのか、女性を呼んだのは良いんだが……お母さん、でしたか、信じられず咄嗟に聞き返しちゃった。
「あー、てっきりお姉さんだと……いえ、何でもないです。それで……お礼、良かったらこの果物を……」
「ふ、ふふふ、お姉さんねぇ? 私も中々若く見られたのか……にしても、クラヒさんは変わってるねぇ? そんな律儀にお礼だなんて。でもありがとう、気持ちは嬉しいから受け取っておくわ」
「あ、ありがとう!」
「ありあとうましゅ」
何を言っているんだ? って顔をされたので途中で話を変えたけど、笑われてしまった上に、また出たよ“変わってる”って。自分では普通なつもりだけど、こっちだと何か知らずに可笑しなことしてるのかな? まぁ、果物は母親公認で渡せたし、2人から更におれいもいってもらっちゃったから良かったけど。
「いいえ、どういたしまして? 夕食時の忙しい所を、引き留めてしまって済みませんでした。では自分はそろそろ行きますね」
「これはご丁寧に。そうだ、まだ名乗ってなかったね、こちらこそ失礼をした。私はルジアナ、こっちがテリオット、こっちがリリファ、私たちの家はあそこのオレンジがかった扉のだね。日もそろそろ暮れるが、もし、宿が決まってないなら、良ければ来るかい?」
いくら怪しいと思われてなくても、いいのかな? こんなに簡単に家を教えて、その上誘ってくれちゃって。この世界の方が現実より人と人の距離が近いのかな。
「折角ですが、宿は決まっているのでお気持ちだけ」
「そうか、無理には誘わないが、何か困ったことがあるんなら訪ねて来な。クラヒさんならいつでも歓迎するよ」
「ありがとうございます、ではルジアナさん失礼しますね。テリオット君もリリファちゃんも、またね?」
宿はこの西区だし、また何処かで会うかもしれないしね、子供たち二人が手を振ってくれたのでそれに振返して、もう一度頭を下げて自分は北へ足を向ける。
夕暮れも近いし、少しだけダンジョンとやらがある周辺の様子だけ確認して、宿に戻ろう。
行儀は悪いが、食べかけてたモンゴをアイテムボックスから出して齧り付く。甘さの中に仄かな酸味、そのままでも美味しいけど、パイとかにしても美味しそうだよね。
◇ ◇ ◇
あれから少しして、モンゴを食べ終える頃にはテリオット君の教えてくれた“ガラの悪い”雰囲気な場所に着く。あ、因みに、モンゴの種は桃の様なものでした。その辺に捨てるのも憚れて、アイテムボックスの中へ、こういうのって何処かにゴミ箱とかあったりするのかな? 宿に戻ったら確認してみよう。
うん、何処がダンジョンなのかは結局探しきれないが、夕暮れ時もあって余り長居は不要だな。多分スキルがあったら周囲の人の様子とかがもっと分かったのだろうけど、そこはゲーム、何となく居るのは分かるがその辺の感覚がどうにもおかしい。
やっぱり時間をおいて出直した方が良かったかな。すぐに向きを変えて来た道を戻るが、何か変な感じが。
変な人に遭遇したら大声だったよね? 一応初期ステータスは振ってあるし、初期装備に短剣はある。スキルも最初に取れるのは取ってあるし、何とかなるかな。
MAPを確認しながら速足で来た道を戻り、後少しでさっきの公園の様な広場に差し掛かると言うところで。
「――っ!」
横路地から“手”が伸ばされ、咄嗟に短剣を出してそれを弾こうとしたところで更に後ろからも。
え? 複数いるの?
「誰――んぅっー!」
声を、と思った時には遅く、後ろから伸びて来た手に口元を覆われた上に短剣を持つ手も押えられ、そのまま横路地に連れ込まれる。
……あっれー?? これってVRMMOですよね? 普通に最初の街のそれも住宅街で襲われるなんてありなの!? 何か設定がおかしくない!?
◇ ◇ ◇
移動した先は、お誂え向きな袋小路で短剣は取り上げられ、放られました。後ろから自分を押さえる男が1人と目の前のもう2人の、自分より体躯の良い男が計3人ですか。これって初日でしかも始めて数時間で大ピンチ? 宿のお姉さん、忠告を聞き流して済みませんでした。
「これが来訪者か、ずいぶんと無防備なのもいたもんだな」
「あぁ、反応は悪くは無かったが、危機感はなさそうだ」
「さて、余り時間をかけても面倒になるだけだが……連れ込む場所を間違えたか」
ぼそぼそと喋る男たち、一応警戒はしてたんだけど油断があったのは認めるさ。
大きな声を出さないのは多分ここがまだ住宅街の何処かだろうからかな、ならなんとか腕を振りほどければ、助けを呼べる機会もあるのか?
さっきから噛みつこうと狙ってはいるが、押さえる力が強くて口を開くのが難しい。
こんな場所で身ぐるみ剥がされて、デスペナ貰うパターンって最悪だよ。『D.V.R』は確かに盗賊や野盗とかの対人戦も有なのは事前情報で知っていたけど、まさか一歩も街を出ないでもそんなイベントが発生するなんて盲点どころじゃないと思うのは、自分だけか?
「確かに惜しいな、今更だが場所を変えるか?」
「いや、無理だな。この時間から警備のルートが被り始める」
「仕方ない、さっさと済ますか」
きっと刃物を出して、アイテムを全部出せとか脅されるんだよね? でも所持金も1000D未満だし、アイテムは初期装備と数本の回復剤しかないよ? あとはさっきあの八百屋で貰った果物の類くらいかな? だって、結局冒険も何もしてないし、っていうか街の観光ぐらいしかしてないから新しいアイテムの入手とか、お金を稼ぐとか一切やってなかったからね、襲う来訪者を間違えたと悔やむがいい。
そして向かいに立つ男の手が伸ばされマントを剥ぎ取り……シャツを破った???
「――っ!?」
今更ながらに言っておくが、自分は一応初期装備の革鎧は持ってはいたが、今はアイテムボックスの中だ。
元々どこも込み合う事は予想していて、最初からあまり戦闘に携わる気は無かったし、まぁ、運よく空いている場所があったらいいかな? ぐらいで、装備もその時で良いやって思っていたので自分が今着ていたのは、シャツとズボンに、剥ぎ取られたポンチョの様なマント。以上。街を歩くならこれで十分でしょ?
そのシャツを何故だか破られた訳ですが……、初期装備とは言え自分の一張羅に何してんの?
いや、脱がされても困るけど破られるのはもっと困る、だって放られたマントじゃ破られたシャツとか隠せるだけの丈がない。
「――っ! …んぅっ!?」
なんて現実逃避をしている間に冷たい地面の上に押し倒され、男達の手が自分に伸ばされて身体を弄るわけなのだが、あれれ? ……これって、強盗じゃなくて暴漢? 体勢を入れ替える隙とか狙って力は入れてるけど、相手が手慣れてるのか、単純に力が足りないのか、びくともしないんだけど!
「一応抵抗はしてる、か? でも温いなぁ」
「怖くて力が入らねぇんじゃねぇの?」
「おーおー、必死に足掻いちゃって、可愛いじゃねぇか」
力が足りない方ですか! でも可愛いは錯覚だと思うよ!
「…ぅ……んぅっ!」
自分なんかに欲情してるなんて思いたくないけど、雰囲気に酔っているのか男たちの行動はどんどんエスカレートして……ただ弄るだけだった手に加えて、首筋や胸元に落とされる唇と舌まで。
気持ち悪いー!! ざらつく手の感触とか、生暖かい息とか、肌を吸われる痛みや、ヌメル舌が這う感触までも無駄にリアルすぎてヤバイ! 本気で気持ち悪い!
多少の痛みとかはあるのも事前知識としては知っていたけど、こんなリアルな感覚、VRだからって絶対に要らないよ!
「……ぅ……っ…ぅっ」
ぼやける視界から嫌悪感による生理的な涙が眦を濡らしているのさえリアルに感じられ、気分はどん底に。ってか、涙なんて出るの?
「あー泣いちゃった? やっべぇなぁ」
「時間がねぇのが、マジで惜しいよな」
「いいからさっさと進めろ」
こちらの気分とは対照的に、男たちはより興奮した様子でズボンに手を掛けて来る。
「んー!」
させるか!
キィィィイイイ――!!!
そこに突然響いた、何かの鳴き声のような甲高い音。
「なっ!?」「うわっ!」「何だ!?」
そして男達に飛び掛かる白い何か。
そのお陰で自分への拘束は外されたので、すぐさま起き上がり、まずは一番近かった男の顎に下から掌底を。
「っぐ…」
「っチぃ!」
上手く脳が揺れたのか1人目は膝を付いてくれた、だがこちらの反撃に気づいた一人が腕を伸ばして来たのでその腕を逆に取ろうとしたところに、先に男の腕に飛びついた白い……猿?
「なっ!? こいつは――」
何にしろ猿に気を取られてくれた隙に、自分は行動転換で2人目には背後に回って首筋に手刀を。
こっちは綺麗に決まってそのまま落ちた様子なので、最後の1人を見れば、状況に付いていけていないのか、尻もちをついた状態でこちらをみていた。
正気に戻らないうちに距離を詰めて米神の辺りに廻し蹴りを入れれば、綺麗に吹き飛んだ先で伸びてくれました。
最初の男にも一応は首に手刀で意識を落として、と。
でも首に衝撃って、リアルでは危ないらしいよね? 実際に一瞬で気絶とかしないらしいし、逆に下手をすれば気絶で済まない場合もあるとか、これはきっとゲームクオリティだと思っておこう。
それにしても、徒手格闘も自分の戦闘形態に取り入れるつもりではいたが、最初のスキルで良く動けたな。
あ、猿。
思い出して周囲を見ても、既にそれらしい姿が何処にも見つけられないんだけど。自分以外も見えてたから幻ってことは無いし、助けてもらったからお礼がしたかったのに。
何にしろ助かったのは良いのだけれど、この格好はどうしたものか。シャツの前身頃は破れて辛うじて繋がっている程度だし、この上から革鎧を着ても……シャツの破れが隠せないけど無いよりはマシ? 素肌に鎧やマントはどう見ても変態ルックだから避けたいし、こうなったら、汚いけど、あの男たちのどれかの身ぐるみを剥ぐしかないのか?