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非日常に振り回される、在り来たりな日々の冒険譚 番外編  作者: SUNA
番外1 在りし日々の冒険譚
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番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・1 ~冒険? いいえ、観光です~

何故か始めてしまった番外編。


少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。


 番外1 人生初のVRMMOの始まりの日・1 ~冒険? いいえ、観光です~


 自分は今、年甲斐もなくはしゃいでいるのだと思う。何せ人生初のVRゲームのゲーム機を前にしているのだから。


 ゲーム業界の最大手と言われる『プライデ・ジュエ』が構想から11年という歳月をかけ万を期して送り出した『ディファルジートVRMMORPG』。


 自分の高校時代に初めて出会ったのがプライデのゲームで、そこから結構な種類を楽しませてもらったが、まさかダメ元で応募した懸賞で当選するとは。多分、一生の運を使い切ったんじゃないかとも思っているが、何にせよ、今は目の前に届いたゲーム機を前に、喜びを抑えきれない。


 “当選は商品の発送をもって”ではなく、当選連絡がゲーム機が届く前にちゃんと来たのは‟遊ぶための時間を確保しろよ”とのメッセージだと勝手に受け取った自分は、わざわざ有給までとって今日からの3日は存分に遊び尽くすつもりで準備も万端にした。


 とはいっても、当然の事に節度のあるいい年をしたおっさんが、寝食忘れてのめり込む訳には行かないし、今後のプレイできる時間を考えても、ほどほどに自分のペースでやって行ければいいとは思っている。


 では早速、周辺機器をセッティングして、愛着は自然と湧くものを根底にキャラメイクも適当に、そこまで目立たないのが好みなのでいままでのMMORPGと同じような地味目な雰囲気に仕上げ、名前は他のMMORPGと知り合いから同一だとは思われないような新しい名前が良いかな、『クラヒ』なんてどうだろう。


  初期ステータスとスキル振りも済ませ、いざ!


『ヨウコソ、…ジッ…ジジッ……ディファルジートへ! クラヒ様のこれかに幸多からん事を。存分にこの世界をお楽しみください!』


 ん? アナウンスが流れたが微妙にノイズが入ったような……気のせいか? 


 次の瞬間にはまばゆい光に包まれて景色は一変し、自分は初めてのVRMMOの世界への一歩を踏み出した。


  ◇ ◇ ◇


 ざわざわと活気づく人の気配、音、匂い、そして肌に感じられる空気、ゆっくりと目を開け飛び込む光景に息を飲む。


 VRであると分かっていても、信じられないようなリアルな感触に暫く動けずに呆けてしまったが、それにしても流石にゲーム配信初日だけはある、見渡す限りプレイヤーと思われる人人人。最初のログインは“始まりの街”とも呼ばれる人族の暮らす街『ヴァスリン』の中央噴水広場、誰もがこの場に現れる事を思えば仕方がないが、よくサーバーダウンにならずに済んでいるよな。


 取りあえず、今は何処もプレイヤーがいっぱいなのは予想が付くので、下手な施設やフィールドは後回しにして、街の観光でもしようか。


 ステータス画面のMAPを呼び出し表示すれば、今いる街の大まかな輪郭と主要施設と思われるマーカーのみ。


 マーカーは今自分の居る場所の周りに集中しているので、少し外れて西の辺りから散策してみよう。


 自分の意思通りに動き出した手足、視線を巡らせば目だけでも首を動かすのも思い通りで違和感は全くない事にも感動しながら、以前何処かの映像か写真で見た事のあるようなヨーロッパの国の昔ながらの街並みを彷彿とさせる石造りの建物や街路を、溢れる人の間をすり抜けながら歩き出した。


 歩き出せば徐々に人も減りはするが、プレイヤーと思われる人は、余りの人ごみに仕方なく避難しましたと言った雰囲気をありありと感じさせ、自分の様に観光をする気はなさそうだ。


 折角のゲーム配信初日を考えれば、少しでもそういったクエストなどに関わりたい気持ちも分からなくはないが、あの状態ではな。


 自分は事前情報や攻略サイトなどはあまり頼らずに、実地で冒険をする派。攻略を急ぐ気もないので、必要最低限だろう情報だけ確認はしたけど、どの地区に何があるよとかのこの街の詳しい情報は知らない。逆にそれを調べながら歩くのを楽しみにして、今回ものんびりと行くとしよう。


  ◇ ◇ ◇


 そのまま特に意図せず適当に歩いて来たが、西区は住人の居住区だろうか? これといった目立った施設の様なものは見られなくなり、住居と思われる建物と、所々に商店のようなものが。


 すれ違う人も先ほどの雰囲気とはずいぶん異なり、一種の日常、生活感を感じさせることから住人が主になっている様子だ。そしてデフォですか? すれ違う住人の皆様揃って美形というか、整った顔が多いです。


 雰囲気の違いか単純に見かけない顔だからか、顔の造形でとは思いたくないが、何となく視線を集めている様子で、微妙に落ち着きません。


 そんな視線から逃れるように一軒の店に入れば、並んでいるのは野菜や果物といった食材に見える物、そこまで違和感がない物から明らかにファンタジーな外見の物まで色々あり、現実で言うところの八百屋なのかな。


 初期の手持ちに幾らかお金も在った筈なので、アイテムボックスを確認すれば『所持金:1000(デイル)(銀貨×9・青銅貨×9・銅貨×10)』の表示が。


「今日は、行き成りで済みませんが、そのまま食べられる果物? ってありますか?」


 それと無く周囲から視線は感じていたが、話し掛けられなかったのでこちらから店の主人(これまた美形)と思われる30から40代を思わせる男性に声を掛けてみた。


 うん、声を掛けてみたんだけど……誰の声? いや、自分か。


 まぁ、年齢も20代半ばにしたし、余りにおっさんの声では違和感かもしれないが、聞きなれない声に自分で驚いたよ。声の設定までしっかり見ていなかったが、何処かにあったのか、それとも骨格からの自動設定か、何にしても、今更作り直す気は無いから慣れるしかないけど。


「あー、っと今日は、いらっしゃい。君は……来訪者さんか。そうだね、君たちでは初めて見る物も多いのかな? そのまま食べる果物なら、これなんてどうだい? 朝採れたてのての『モンゴ』だよ? 一個3Dだ」


 店主が指したのは、ピンクっぽい丸っこい物。イマイチ物価は分からないが、ぼったくりという線は無いだろう。


「ならば、それを3個下さい」


「ありがとう、じゃぁこれね。痛みやすいから気を付けな」


 お金を念じればそのまま硬貨が一枚出てきたのでそれを手渡し、袋に入れて貰った『モンゴ』を受け取る。


「はいお釣り。これからもご贔屓にってことで、一個おまけしといたよ」


 渡したの青っぽい硬貨で、戻って来たのは先より一回り小さい銅色が1枚。そう言えばこの世界は硬貨が主流だっけ? 生活魔法で収納系(アイテムボックス)は街の人でも使えるらしいけど、現実だったら重くなりそうだな。


 それにても、おまけって……いいのか? でも、これも縁だと言うなら、店の主人の言うようにまた来て買い物をすれ良いし、折角の好意には甘えておこう。


「えっと、ありがとうございます。では、また来ま――」


「兄ちゃん、因みにこの店のおまけは初回限定だから、次は期待すんなよ?」


「そうそう。その辺はけち臭いのよね?」


「ってなことでおっちゃん、おれもモンゴ5個くれや、袋には10個でな」


「なに言ってんだ、こっちだって商売。それに倍じゃおまけどころじゃねぇだろうが、10個なら30Dだ」


「それより兄ちゃん、こっちはどうだ? 果物もなら『ラモンジ』もうめぇぞ?」


 様子を伺っていた他の街の人がわらわらと寄っ来たんだけど……すっごいリアルな反応だな。


 これでもAI(データ)っていうのなら、本当にすごいしか言えないんだけど。中身に運営の人やエキストラで雇った現実の人が入ってるって言われても、むしろ納得しそうだ。


「あー、おまけは期待はしますが無ければ無いで。店主の言うように商売ですからね? それと折角勧めて頂いたのですが、済みません。まだこちらに来たばかりで色々他も見てみたいので、また次の機会に」


 そんな自分の返答に、一瞬キョトンとした街の人たちはすぐに相好を崩す。


「おまけ、期待はするんだな? 兄ちゃんは真面目なのか何なのか」


「あら、正直で良いじゃない。期待するぐらいはタダよ?」


「次の機会か、残念だが……そうだな、ならここはオレが奢ってやろう」


「え? ちょっと、待っ――」


「他か、見たいもんがあるなら良ければ案内するぞ?」


「有り難いですが、落ち――」


「お勧めなら『ストレープ』もですよ? 折角なら食べてみてください、絶対に気に入ります」


「うぇ? こんなに――」


「ならこっちもどうだ? 果物じゃないが、そのまま食べれるし加工も出来る『マトマ』だ」


「ふぇ――!?!?」


 次から次へと話掛けられ、幾つか袋を手渡され、嬉しい反面親切を通り越してやしませんか?


「おいおい、その辺にしとけよ? 兄ちゃんも困ってるぞ?」


 見かねた店の主人が街人を抑えてくれて、漸く一息。


「皆さん、色々親切に本当にありがとうございます。これは少し頂きすぎだとは思うんですが……今回は遠慮なく、またの機会に何かでお返ししますね。それと、案内は大丈夫です。特に何を見たいということではなくて、単純に街並みを見て回りたいだけなので。また何か知りたい事が出来た時に、声を掛けさせていただきますので、その時はお願いします」


 正直、本当に貰いすぎなんだけど、返すにもどれを誰に渡されたのか分からないし、単純に気遣いが嬉しいのはある。


「そうか、特に何って秀でた街並みではないと思うが、初めてなら違うのか」


「お礼なんていいから、また来たら、いつでも声ぐらい掛けてくれればいいからね」


「おう、特に見るもんも無いとは思うが、ゆっくりしていきな」


「他の地区の案内も出来るから、必要な時はいつでも声を掛けてくれよ?」


 集まっていた人たちも少しずつ引けて、店も数人の客を残して最初と同じ様子に。


「店主、騒がせたようで済みませんでした」


「はは、みんなちゃんと代金は払っていったから、困ったってことでもないさ、逆に売り上げも伸びたんじゃないか? こっちこそ街のモンが物珍しさに集まったみたいで、悪かったな」


「そんな、みんな良い人たちで、貰いすぎな気はしますが……声を掛けて頂けたのは単純に嬉しかったです。ではそろそろ失礼しますね」


 貰った果物や野菜は、いつまでもそのままでも邪魔になるのでアイテムボックスに仕舞って、店主に暇の挨拶を。


「他の来訪者をそんなには知らねぇが、兄ちゃんは少し変わってるな。良ければ、2軒隣の食事処が小さいが宿もやってるから泊るとこに困った時は覗いてみな『銀の葡萄亭』って処だ」


 MAPには特にそんなマーカーは無かったが、この八百屋も特に何の表記も無かった。


 主要施設以外の店などは自分で調べないといけないパターンなら、これは嬉しい情報だ。


「ありがとうございます、助かります。では、そこを拠点に暫く街を見て回りますね」


 もう一度頭を下げて、店を出て言われたように見れば確かに向かって左手側の2軒隣が食事処の様ではある、外観からは宿とは気付けないな。


 金額にも依るが、確かこの街の宿泊施設は何処もそれ程は高くなく、1泊100Dくらいか。それでも現実での1日に1回は最低でも泊ることも考えれば今の所持金では決して安いと言う事もない。


 主要施設が集まっていた辺りの道具屋ではテントなども売り出されていたが、まだフィールドに出る気は無いし、まぁ、どうにもお金に困ったら考えよう。


 そんなことを考えながら食事処の扉を潜れば、すぐ右手にカウンターと左手に幾つかのテーブル席が。


「いらっしゃいませ『銀の葡萄亭』へようこそ。お食事ですが? お泊りですか?」


 あれ? カウンターにいた女性の方に見覚えが。先ほど八百屋さんで声を掛けてくれた中に居たような。菫色の髪を三つ編みにした可愛い感じのお姉さん。


「えっと、泊りで。何日か使える1人部屋ってありますか?」


「はい、1週間のご利用が可能な部屋に空きはありますよ? 通常素泊まりで一泊80Dですが、1週間の継続ご利用は250Dと割安にはなっております。お食事をご希望でしたらお泊りのお客様にはこちらの札をお渡しておりますので、食事処で見せれば割引料金でのご提供もあります」


 『D.V.R(こちら)』での1週間は現実での約丸2日か。その都度部屋を取った方が安いには安いのかもしれないが、何かあって戻ってくるのに部屋をキープしてあった方が便利かもしれないし、いざ泊まろうとしたときに空いている確証もない。


「では1週間でその部屋をお願いします」


「ありがとうございます、代金は先払いとなります。それと、こちらに記入をお願いしますね」


 言われた通り硬貨を7枚でちょうどで渡し、指された紙を見れば名前と職業欄、所属ギルドなどの欄があったのだが。


「すみません、まだ来たばかりで身分証は発行していませんが、この欄は?」


「でしたら空欄のままで構いません。緊急時に参考にさせて頂く程度で、活用されたことも少ないですから」


 緊急って事は、街がモンスターに襲われたり怪我人や病人が出た時に対応できるかどうかって事か。まぁ空欄で良いのならそうしておこう。


「はい、ありがとうございます。ではこちらが部屋の鍵と食事処の割引札です、そちらの階段を上がって頂いた2階の207号室をお使い下さい。宿を出られる際は必ず此方に寄って鍵をお預け下さいね」


 部屋は取ったが、実際に預ける荷物もないし、まだ始め(ログインし)て1時間弱。部屋の様子は戻った時の楽しみにして、このまま観光に出ようかな。

 

「まだ時間も早いので、もう少し街の様子を見てきます」


「そうですね、実際に色々見て頂いた方が分かり易いでしょうし、勿論構いませんよ。ただ……」


 今受け取った鍵をそのまま渡せば、受付の女性は笑顔で受け取ってはくれたんだけど……急に真剣な顔つきになるので、自然とこちらも居住まいを正す、何か重要な注意点でもあるのか?


「街の警備も強化されて治安はそこまで悪くはない筈ですが、そう言った目を掻い潜る不届き者が全く居ない訳でもありませんので、何か異変を感じたら大きな声で助けを求めて下さいね? 絶対ですよ!」


 そんな忠告を頂いて、少しばかり肩透かしな気分に。……不届き者って、強盗の類か? それって、街を歩いてるだけで遭遇するの? これVRの世界っていうかゲームですよね? 


 まぁ、早々そんな場面には遭遇はしないだろうが、せっかくの好意、ここは素直に頷いておこう。


「はい、分かりました。変な人に遭遇したら大声で助けを、ですね。では行ってきます」


「絶対ですよ! 行ってらっしゃいませ」


 今度こそ笑顔で見送られ、自分は『銀の葡萄亭』を後にしたのだ。 


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