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第8話 「正直者は馬鹿を見る」ので、馬鹿を見ないようにした

王都での特殊初心者に対する優遇措置は筆舌に尽くしがたいものだった。

宿舎として屋敷の一室が提供されるのだが、これが前世でいうところの3LDKの倍はあるんじゃないかと思うくらいに広い。そして、そこでは朝昼晩の3食が提供されるのだ。


「国の宝庫から1つ武器を持って行って良い」という措置は......正直、魔神の武器を際限なく作り出せる身としてはあまりお得感の無いものだったが、代わりに刺青を彫るための注射針を特注できたのは良かったと思う。

魔王妃にも一応勝ったわけだし、武勲が広まれば本業に戻れる日も近いかもしれないな。


逆に1番嬉しかったのは、王立図書館への自由な出入りが認められたことだ。この許可が出て以来、俺は図書館に篭り切ってリンネル神話に関する情報を読み漁っている。

今は魔神の紋章に甘んじているが、いつかは破壊天使の紋章を手に入れたいからな。

「破壊天使リンネル......いつ見ても美しいお方だ。待ってろよ、必ず俺が迎えに行ってやるからな」


1つ問題があるとすれば・・・下手したら、この生活が今日で終わってしまうことだな。

そう、今までの俺はあくまで「特殊初心者候補」。今日、正式に特殊初心者を決める試験が行われる。そこで不合格になろうもんなら、ここでこの生活とはおさらばってわけだ。


王立図書館から試験場へ向かう道中。カワサキのハンドルを握る手に、自然と力が入った。


☆ ☆ ☆


試験場に集まった特殊初心者は約50人いた。

皆が皆、どこどなく異彩を放っているような気がする。


そんな中、フェルトハットを深めに被った、外ハネのセミロングが特徴的な美女がアナウンスを始めた。


「私がこの国の聖女にして関白、サフシヨ・フワジーラ」

言いながら、収納から青龍偃月刀のような武器を取り出す。

「今回の試験は私が行うわ。試験内容は、私との模擬戦よ。合格条件は、『4秒間負けないこと』。私に戦闘不能にされたり、急所手前で寸止めされたりすることなく4秒が経過すれば、特殊初心者として正式に認められるわ」


計時係の紹介や試験番号の説明など、細かい説明がなされていく。


その説明が全て終わった時のことだった。

「なあんだ、楽勝じゃん」

前方にいたとある特殊初心者の余裕ぶった独り言が、試験場にいた全員の耳に入った。



☆ ☆ ☆


結論から言うと、聖女兼関白のサフシヨは相当な手練れだった。


残りの受験者は自分を含めあと5人なのだが、この時点での合格者はたった12人しかいない。

大半は2秒以内に首筋や目元に青龍偃月刀を突きつけられ、即不合格となってしまった。


中でもアナウンス終了直後に余裕発言をした特殊初心者の試合は酷く、たったの0.1秒で決着がついてしまった。

その時は明らかにサフシヨの動きがほかの受験者相手の時とは違ったことから、おそらくは「試験のための手加減をせず本気でブチのめしに行った」といったところなのだろう。

要するに、「試験官を怒らせるとマズい」ということだ。


「次、試験番号281番!」


・・・とうとう俺の番が来たか。

俺の作戦は既に決まっている。それは、「ルールを最大限に活用して試験に合格する」だ。


「......武器は持ってないの?」

サフシヨが、もっともな疑問を口にした。


「はい、武器は使いません」


「たまにいるのよね、試験のルールをいいことに『4秒間逃げ切ってやろう』と考える受験者が。参考までに言っておくと、その手で合格したのは過去1人だけだけど、いいの?」


「過去がどうであれ、得意な戦法で挑むのが1番勝機があるという思いは変わりませんので」

この発言はサフシヨに本気を出させないための方便に過ぎない。というか正直、そもそもまだ「自分の得意な戦法」なんて分かっていない。


「じゃあ、始めるわよ!」

サフシヨの言葉とともに試合開始のゴングが鳴る。


それと同時に、俺は時空魔法でサフシヨの時間を止めた。


4秒後。

サフシヨは再び動き出し、棒立ち状態の俺の首元に青龍偃月刀の刃を突きつけた。


「はい、不合格」

そう言ってサフシヨは計時係の方をみる。

だが当然、計時係の判定はサフシヨのそれとは正反対だ。


「いえ......一体何が起きたのかは分かりませんが、サフシヨ様は試合開始直後から4秒間一切動きませんでした。勝負がついたのはその後の事なので......その......試験番号281番は、合格です」


「......え?」


驚きのあまり手の力が抜けたのか、カラン、と音がして青龍偃月刀が地面に落ちた。

それから10秒間ほどは誰も一言も発さず、アリ1匹が動く音さえ聞こえそうな静寂が続いた。


「......ええっと、もしよろしかったら、どんな手を使ったのか教えてもらっても大丈夫かしら?」


「この試験の合格条件は、『4秒間負けないこと』。ですので、負けるのを4秒間先延ばしにしました。......時空魔法で」


「......はい?......いやそんな、だって時空魔法って、あの伝説の......?」


「今までの試験の様子を見ていて感じましたが、サフシヨ様の武芸の極まりは並大抵のものではなく、とても才能があるだけの初心者が太刀打ちできる代物ではないと思いました。特に、試験番号224番の試合の時の動きは人間のものとは思えないものでした」


試験番号224番とは、某余裕発言の奴だ。


「俺も一応方天画戟を扱うことはできますが」言いながら、方天画戟を収納から取り出す。「試合形式の試験だから、と愚直にこれで戦っていようもんなら俺は不合格になったかもしれません。」


ここで一息入れ、話の核心に迫る。

サフシヨはと言えば「方天画戟?......何で......私の魔神装備より格上のを......!」とか呟いているが、俺的にはそこは話の本筋じゃない。


「『正直者は馬鹿を見る』。これだけは避けたかったんですよ。汚い勝利には、綺麗な敗北以上の価値があるのです」


俺が演説を終えると、周囲からどっと歓声が上がる。

歓声の大半が「方天画戟ってあの魔神の最上級の槍だよな?」「あれ扱えるとかマジのバケモンじゃん」などと方天画戟関連なのが少し残念だが、中には「綺麗な敗北より汚い勝利!その通りだ!」と共感してくれている人もいるのでプレゼンは一応成功したといえるだろう。


「いやだからそれ説明になってないというか......時空魔法を使えるって時点で常軌を逸してるのよ。......まあとにかく、今回の試験は合格よ。試験番号281番、試合場を降りてよし」

サフシヨの指示に従い試合場を降りたところで、試験が続行された。しかしサフシヨは気が動転しっぱなしだったらしく、残り4人の受験者を全員合格させてしまっていた。


全員の試験が終了すると、サフシヨが再びアナウンスに入る。

「試験を突破した17人のみんな、合格おめでとう。それではこれから──ヒッ!?」

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