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第6話 倒してはいけない敵を倒してしまった

「さてと、昼飯にするか」

カワサキのエンジンを切って収納にしまい、バイパスに流す魔力を止めて結界を消滅させる。


カワサキを創造してから3日目。救急バイク業務はすっかり板につき、魔力調節も車両の重量にギリギリ耐えられるよう結界の強度を調整できるくらいには慣れてきた。


回復させた冒険者からおひねりをもらうことも多く、それだけで金貨1枚分くらい貯金もできた。昼飯もおひねりで買うとしよう。


「お、淳じゃないか。久しぶりだな」

食堂の中を見回すと、こちらに向かって手を振るヤオジムが目に入った。

せっかくなので、一緒に昼食をとることにする。


「最近ギルドに来てないみたいだが、どう過ごしているんだ?」


「負傷した冒険者に回復魔法をかけて周ってますよ。ギルドに来てないのは、攻撃魔法が使えなくては碌に魔物を狩ることもできないというだけの事情です」


「そういえばそんなことも言った気がするな。しかし、3日前に森の中で大爆発が起きたように見えたんだが、アレはお前じゃなかったのか?」


「アレは......現場の冒険者ではどうにもできない敵だったみたいなので仕方なく加勢したんですよ。あれでも森への被害は最小限に抑えたんですよ?」


こうして、昼食を食べている間ずっとヤオジムと会話していた。

ヤオジムはといえば、この3日間は調査依頼に遠出していたそうだ。ギルドから追加報酬が出たため、今日は若干豪勢な昼食をとることにしたらしい。


「ごちそうさまでした!」

「ごっつぁんです!」


2人揃って店を出ようとしたその時──1人の冒険者が、大慌てといった様子で駆けてきた。

「大変です!西の方からグリフォンが飛んできました!」


「何?グリフォンだと?」

ヤオジムも焦った様子で声をあげる。


「あの......グリフォンってそんなに強いんですか?」

ヤオジムと冒険者の緊迫した雰囲気に気圧されながらも質問をする。


すると、ヤオジムはちょっと複雑そうな表情を浮かべ、

「ああ──淳からしたら大したことない敵な気もするが──少なくとも、死者が出ないよう討伐パーティーを組むとしたら俺と同レベルの冒険者が5人は必要になるな。というわけで、淳が倒してくれると非常に助かるんだが......」

と言った。


そういうことなら、と俺は収納からカワサキを取り出し、西に向かって結界バイパスを展開する。

「行きましょう、これに乗ってください」


カワサキ、初の2人乗りだ。


☆ ☆ ☆


「な、何だこのとんでもないスピードの乗り物は!っていうか、空飛んでんのかこれ?え、結界?」


ヤオジムよ、驚くのも無理はないが、緊急事態にくらいベテラン冒険者の貫禄を見せて欲しいものだぞ。


心の中でツッコミをいれていると、遠くから巨大な鳥が飛んでくるのが見て取れた。

まだまだ距離はあるので、乗客もいることだしエンジンブレーキを中心にゆったりと停止する。


カワサキのエンジンを止めて収納すると、ヤオジムはその場で結界の上にへたり込んだ。


「ヤオジムさん、アレがグリフォンですか?」

巨大な鳥を指差し、俺は質問する。


「ああ。そもそも結界で道路を作るって発想が驚きというか、どんだけ非常識な魔力してんだって感じだが──この高さなら『ハイボルテージペネトレイト』を放っても街に被害は出ないはずだ。存分にやれ」


「ヤオジムさん、ハイボルテージペネトレイトご存知だったのですね」


「ああ、ギルドマスターから聞いたよ。魔神の技なら、まあグリフォンに遅れをとることもないはずだ」


・・・さて、どうするか。

ヤオジムはこう言っているが、正直飛んでくる鳥を見る限り「ハイボルテージペネトレイト」は確実にやり過ぎなんだよな。


そう判断しつつも、一応収納から方天画戟を取り出す。

そして──武器の構造を把握して方天画戟の側面の2枚の刃が取り外し可能なのを確認すると、俺は2枚の刃だけを片手に持って槍部分は収納にしまった。

2枚の刃を、ちょうどグリフォンに当たるような軌道を描くよう投げる。

そう、ブーメランで鳥を狩るのだ。ちょうどアボリジニーのように。


2枚の刃は、いとも容易くグリフォンの首を切り落とし、手元に帰ったきた。

コントロールも完璧だったな、と思いつつ刃を収納にしまう。


「ヤオジムさん、終わりました。帰りましょう」


こう言って振り返ると──ヤオジムは、今にも目玉が飛び出しそうなくらいに目を見開いて首が飛んだグリフォンを凝視していた。


「今......何が起き......?」


・・・あー、魔法を使わなかったら使わなかったでこの反応になるのか。

まあいいや、と思いながら収納からカワサキを取り出す。


「危機は去りました。帰りますよ。......"バイクだけに、ブンブン"」


カワサキのエンジンを起動し、元来た方面へバイクを向けたその時。ヤオジムが俺を引き留めた。


「いや、グリフォンだぞ?貴重な素材だ、是非ギルドに持っていくべきだ。それに......非常に言いにくい事なんだが、今のやつ、もしかしたら倒してしまったのはまずかったかもしれないんだ。それも確認したい」


「何ですか、まさかグリフォンが誰かの従魔かなんかだったとでも?」


「その......まあ、ある意味そうともいうかもしれないと言うか......」


おい、それは大問題だぞ。

時空魔法で蘇生できるかもしれないとはいえ、他人の従魔かもしれないやつを倒してしまうとは。

流石に事情が事情なので、カワサキを走らせグリフォンの元に向かうことにした。


☆ ☆ ☆


「......やっぱりだ......」

ヤオジムはこの世の終わりのような顔をして巨鳥を眺めている。


「本当に従魔のグリフォンだったのですか?とりあえず、時空魔法で蘇生、というか生きてた時間まで巻き戻せるかやってみますのでちょっと退いてください」


「いや、その必要はない!そもそも、この状況ならば倒してしまったのが従魔だとしても正当防衛となり、罪に問われる事はない。むしろ罪に問われるのは従魔を制御できなかったテイマーの方だ」


なら来る必要無かったんじゃないか、と俺が首を傾げていると、ヤオジムは続ける。

「と言うか、淳が倒したのはグリフォンじゃない。コイツは──サルファ=ラ=ドンだ」


・・・


・・・


......え?サルファ=ラ=ドン?こいつが?

明らかに瞬殺だったぞ、誰だ「討伐も夢じゃない」とかいかにも強敵っぽい事を言った奴は。


そういえばそのサルファ=ラ=ドンの討伐を俺に勧めた秀英紋の青年だが、確か「倒すとマズい」的な事を言っていたよな。


「そう言えば、前に『サルファ=ラ=ドンは倒すとマズいことになる』と聞いたことがあります。よろしければ、何がマズいのかお教え願いますか?」


俺が尋ねると、ヤオジムは大きなため息をついてこう答えた。

「サルファ=ラ=ドンはな、3人の魔王妃・ハコネ、アタミ、ユフインがそれぞれ1体ずつ従えている従魔だ。見た目は慌てていると見間違えるくらいグリフォンと酷似しているが、その強さはグリフォンの比じゃない。そして問題は──」


ここでヤオジムは一呼吸置き、改めてその深刻そうな表情をこちらに向けてこう言った。

「──倒してしまうと、魔王妃が直接報復に来る」


・・・うーん、いまいち何が問題なのかがよく分からないな。

「・・・直接、ですか?本来なら罪に問われないはずの従魔への正当防衛が、王権の濫用で罪に問われる......とか?」


「んな訳ねえだろう。魔族が人間の法に従う訳があるか。直接ってのは、言葉通り実力行使だ。闘いを挑まれるんだよ」


「あの......再確認しておきたいんですが、今回の件は道徳的には問題ないんですよね?」


「全く問題ない。相手は魔族だし、人間は度々サルファ=ラ=ドンの"お散歩"で甚大な被害を被って来たからな。今回も、淳が討伐してくれなかったら街の3分の1くらいが壊滅していただろう。だが、そんな恩人であるだけに魔王妃と敵対させてしまうのが申し訳ないというか、な」


「その言い方ですと、魔王妃は強いということでしょうか?」


「底知れない強さの持ち主だ。言い伝えによると、水属性攻撃には滅法強いはずのリヴァイアサンを水属性特殊魔法『間欠泉(パルススプリング)』で気絶させてしまったとも言われている。俺は淳の実力を間近に見てきたが、それでもやはり魔王妃に勝てるイメージは沸かねえな......」


☆ ☆ ☆


あの後は、いろいろありがとうございますとだけ告げ、ヤオジムと別れた。

サルファ=ラ=ドンは、素材の採取とかはせずギルドで丁重に弔うそうだ。街全体が魔王妃の敵と見なされないようにするためらしい。


正直、やっぱり魔王妃の強さがピンと来ないんだよな。

ハイボルテージペネトレイトを使った時もギルドマスターが「古竜数匹を纏めて倒せる技」とか言っていたが、この世界に来て日が浅い俺からするとそもそも古竜やリヴァイアサンの強さがピンとこないのだ。


まあドラゴンだし、「天変地異とか起こせそう」くらいのイメージはあるが・・・いかんせん、実感が湧きづらい例えなんだよな。


そもそも、魔"王"と魔"神"の時点で肩書き的には俺の勝ちだしな。


まあ、細かいことは対峙してからでもいいか。

魔王妃の名前は温泉地からとりました。

今後も、魔族関連の名前は温泉とか地学関連の名詞で統一していこうと思ってます。

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