第4話 【時空魔法】2倍速って良いよね
次の日の朝、魔法教室2日目を受けにギルドに向かいながら、俺は昨日の出来事を思い出していた。
太陽もどきと聖女超えヒールの騒動の後、俺は残り全ての実習を見学させられた。
ヤオジム曰く、「身体強化や結界、回復魔法で手加減の仕方を十分に修得するまではよっぽどの異常事態でなければ攻撃魔法を使わないでくれ」だそうだ。
俺自身も手加減の大切さは理解しているので、今日の講習が終わったら王都行きの日までは負傷した冒険者に回復魔法をかけて回ろう、と心に決めたのだった。
そして、そうこうしているうちにギルドに着いた。
昨日と同じ部屋に入ると、今日は4番乗りだった。
先に来た3人のうち、1人が話しかけてきた。
「昨日の魔法、凄かったですね。秀英紋持ちとして、自分の強さはある程度自信があったんですけど......ものの見事に出鼻を挫かれてしまいましたよ」
どうやら、話しかけてきたのは昨日の結界を1枚破った奴らしい。
「......あ、ああ。ありがとうございます。まあ、威力の加減を掴んだりしないといけないから、課題は山積みですけどね」
そう返すと、秀英紋の青年は「はは、謙虚なんですね」と笑顔を見せた。
そして、耳寄りな情報を教えてくれた。
「もし本気で戦う相手がほしいと思った時は......そうですね。淳さんの実力なら、サルファ=ラ=ドンの討伐も夢じゃないかもしれないですね」
サルファ=ラ=ドンか。そんなに強いのだろうか。
「ただ、サルファ=ラ=ドンは倒すとマズい一面もあるんで、その討伐はあんまりおススメできないんですがねえ」
青年が、不穏な話を付け足した。
サルファ=ラ=ドンを倒すと何がマズいのかを問おうとしたその時、ギルドの鐘が鳴り魔法教室の開始を知らせた。
周りを見渡すと、残りの4人もヤオジムも部屋に揃っていた。
青年に「また後で」とだけ告げ、ヤオジムの話に耳を傾ける。
「今日は、座学だけだ」ヤオジムが言った。「今日お前らに教えるのは特殊魔法と時空魔法だが、特殊魔法は習得が恐ろしく困難だったり開発者本人にしか使えないものだったりするからな。そして時空魔法に至っては伝説上の存在だ」
こうして、座学が始まった。
確かに、特殊魔法はおいそれと実践できるようなものではなかった。
魔王が使ったとされる地殻変動魔法なんて使える気さえしないし、仮にも使えてしまったら惑星規模の被害が出そうだ。従魔契約や奴隷契約は俺にもできそうな気がしたが、こちらは倫理的にあまり使いたくない。
対して、時空魔法はやれば出来そうな印象だった。
何でも、コツは「局所的に時間の流れを変えたり、対象物の特定の時間状態を再現したりするイメージを持つ」ことらしい。
試しに、ヤオジムの時間経過を変えてみる。
おお、講義が2倍速になったぞ。こりゃいいや。
予定外に講義が早く終わったところで、「質問はないか?」とヤオジムが尋ねた。
すると、先程話した秀英紋の青年が手を上げた。
「ヤオジムさん、何故講義を途中から早口で話しだしたんですか?」
質問を受けてしばらくの間「何を言ってるんだコイツは」という顔で青年を見ていたヤオジム。その顔は次第に青ざめてゆき、目線はこちらを向いた。
「あ、淳......お前もしかして、時空魔法を......」
しまった、と俺は思った。もしかしたら、ヤオジムを怒らせてしまったかもしれない。
「その、それはですね、ほら、スピードラーニングですよ。『脳にしっかり負荷がかかるスピードの講義を聞いた方が集中力が上がって、より脳に残りやすい』っていうあれ──」
「「「「そこじゃない!」」」」
数人の受講者とヤオジムのツッコミで俺の弁解は遮られた。
「やれやれ......昨日のアレで淳の才能がとんでもないことは感づかされたが、まさか伝説の時空魔法をも使ってのけるとはな──うぶぇっ!」
ヤオジムがちょうど喋り終わる頃、全身がぞわっとする感じがした。
俺からすれば子ども用のゆるいジェットコースターでの感覚程度のものだったのだが、周囲の人間にはかなりの悪寒が走ったらしく、皆身体をさすっている。
「今のは俺じゃないですよ?僕もちょっと違和感を感じましたし」
「お前には、今の威圧感が『ちょっと違和感を感じた』程度なのか」俺の弁解にヤオジムが答えた。「しかし淳じゃないとしたら、今の吐き気がするほどの威圧感の正体は何なんだ......?」
その問いに答えられる者はいなかった。
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主人公の性格、この世界における魔法概念、その他諸々について読者様が引っかかりそうな箇所に補足を入れております。