第41話 試合開始
前日祭の翌日。
試合会場は、メインイベントを前に今にも白熱しそうな静寂に包まれていた。
そんな中。
「それでは只今をもちまして、今年の学院対抗戦の開会を宣言します!」
会場内にアナウンスが響いた。
ついに、この日がやって来たんだ。
時空魔法を使い、破壊天使の紋章を完成させる実験を行える日が。
俺が感慨に浸る中、アナウンスはルール説明へと突入する。
「試合は、聖フワジーラ学院、タイラーノ魔法学院、ミットナーモ近接学院、エノコ弓術学院から各4名、計16名によるバトルロイヤル方式となります! 制限時間は1時間です!」
……そうなのか。
このタイミングで初めてその事を知る選手は俺くらいだろうが、まあ仕方ないな。
なんせ破壊天使の紋章のことで頭がいっぱいだったのだから。
しかしまあ、内情を知っている身としては作戦を立てやすい、有難いルールであると言えよう。
選手全員が使徒かそれ以上の実力を持つ聖フワジーラ学院にとって、ミットナーモとエノコは敵ではない。
問題となるのはタイラーノ学院だが、奴らのもとに集まっている使徒は融合して1人になってるって話だからな。
最悪のケースでも、タイラーノの他の3人を蹴散らし、時間切れの人数判定で勝利すれば良いって事になる。
……破壊天使の紋章が完成しないなど、考えたくもないがな。
「それでは選手全員、試合場に上がって来てください!」
各学院の選手のために4つ用意された階段から、それぞれの学院の選手が試合場に上がる。
鑑定……は、やめておくか。
融合使徒にマークをつけたら、その他の状況に対する意識が散漫になりかねないだろうからな。
俺は階段を登り終えると、魔法を使って自身を透明化させた。
基本的に、聖フワジーラ学院の先輩が窮地に陥る状況は無いはずだ。
傍観しているうちに他学院同士が消耗してくれたら、それに越したことは無い。
融合使徒がいきなり先輩たちを襲ったら話は別だが……何となく、融合使徒も最初は様子見してくる気がする。
「では選手全員が試合場に揃いましたので、開始の合図を鳴らしたいと思います!」
アナウンスの直後、放送席の人は手から轟音を鳴らした。
……いや、それ特殊魔法じゃなくていいだろ。鐘とかでさ。
会場はと言えば、一気に歓声が湧き出した。
最早誰が誰を応援しているのかさっぱり分からない。
そんな中、はっきり聞こえる声量で詠唱している選手たちの気迫は並のものではないってとこか。
試合場の隅で他の学院同士の熱戦を見ていると、1つ分かってきたことがあった。
それは各学院の特性だ。
タイラーノの選手は、魔法学院というだけあって多彩な魔法での攻防を繰り出している。
それと、身体強化の使い方が上手いのだろうということが見て取れる。身体の動きがとにかくしなやかなのだ。
ミットナーモは、近接学院というのは「近接武器を専門的に学ぶ学院」ということなのだろうな。
剣や棒、槍、矛などを上手に使いこなしている。
対してエノコは遠距離の武器、とりわけ弓だな。
ルール上不利なようでいて、長距離武器の欠点を上手く補う陣形を組んでいてこれまた美しい。
そういえば、この試合武器の使用OKなんだな。今更だが。
……カワサキをリモート運転させてでもみるか?
「バイクだけに、ブンブン」
勢いよく走り出すカワサキ。
鮮やかにドリフトをしたかと思うと、その回転の威力を使ってエノコの選手を1人、場外へと吹っ飛ばした。
「おおっとこれは前代未聞! 何と、選手の中にテイマーがいるようです!」
放送席から、実況の人がそんな事を言った。
おい、カワサキは従魔じゃねーぞ。バイクっつっても分からんだろうから仕方はないが。
俺はカワサキにあたかもタイラーノ学院の生徒を守ってでもいるかのように振舞わせ、ミットナーモとエノコの選手を凪ぎ払わせていく。
こうすれば、ミットナーモとエノコの選手は「タイラーノが脅威だ」と判断し、攻撃がタイラーノの選手に一極集中することだろう。
願わくば、融合使徒以外で全員相打ちとかになってくれれば状況がすっきりするのだがな。
先輩たちも完全に様子見に徹しているし、1番美味しい状況にいるのは確実に我ら聖フワジーラ学院だな。
……そう思っていたのだが。
「おい、あの乗り物はフワジーラのだろ」
タイラーノの連中に、カワサキの正体がバレてしまった。
この回を持ちまして連載が100000文字を越えました!
ここまで継続できたのも読者の方々のおかげです、ありがとうございます。




