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第3話 ただの火魔法でAランク冒険者がこんがり焼けてしまった

3日後の朝、俺は少し気落ちしながらギルドに向かった。


「以前の自分と同じ最弱紋持ちなら『奴隷契約っぽさ』の忌避感以上に強さを求めるのではないか」と考えたのだが、そもそも冒険者登録をしている最弱紋持ちに一人として会わなかったのだ。


ならばと冒険者以外に商談を持ちかけてはみたものの、こちらはこちらで『強さ』に価値を見出していないので誰も乗り気にならなかった。


もういっそのこと「奴隷を買って彫っちまえばもともと奴隷なんだし忌避感もヘチマもないだろう」とまで思い、奴隷商の前まで足を運んでみたりもした。

しかしここで「彫りたいのは職人としてのやりがいを求めていたからだった」という初心を思い出し、客でもないヤツに彫ってもなとアホらしくなって今朝に至る。


「こうなったら、人知を超えた成果を挙げまくってやるんだ。そうすれは俺に刺青を依頼する冒険者や騎士が出てきてくれるはずだ」

3日間で俺は、動機は風変りながらもすっかり強者としての感性を身につけていた。


◇ ◇ ◇


ギルドに入ると、冒険者登録の時の受付嬢(ギルドの係員の正式な役職名が「受付嬢」であることは昨日知った)が出迎えてくれた。


「『魔神紋』を広めるために東奔西走していらっしゃる噂は耳に入っております」と、受付嬢は笑顔を崩さずに言う。余計なお世話だ。


「しかし、乗り気でない者まで懸命に説得するなんて...... あれほどの力があれば英雄としての名声さえもほしいままでしょうに、それを独占なさろうとは考えないのですね」


「俺が欲しているのは本職たる刺青の注文であって、英雄としての名声ではありませんからね。 ......最も、本職の集客の為にまずは英雄として活躍しなければならないみたいですが」

受付嬢の疑問を愚問だと評しつつ、俺は皮肉を口にした。


直後、ギルドのベルが鳴り響いた。どうやら魔法教室開催の合図のようだ。

受付嬢に別れを告げ、ギルド併設の訓練場に向かう。


訓練場には、7人の受講者らしき人と1人の指導者らしき人がいた。


「1、2、3......8。全員揃ったな」指導者らしき人が話し始めた。「それじゃあこれから魔法教室を始める。俺はAランク冒険者のヤオジムだ。今回の講師を務める。よろしく。」


指導者がAランク冒険者と知って受講者たちがざわつき始めたが、ヤオジムはそれを手を上げて制する。


「まずは全員、自己紹介だ。来た順に言っていけ。」


ヤオジムの指示で一人また一人と自己紹介が進む。そしてとうとう、俺の番がやってきた。


「俺は淳です。元は最弱紋でしたが、刺青を彫って紋章を改変し、強くなりました。よろしくお願いします」


俺の自己紹介に、ヤオジムは顔を顰めて言った。

「お前が例の特殊初心者、淳か。しかし何だって元は最弱紋だった事を明かすんだ?冒険者ならば本来、弱かった自分のことなど語らんもんだがな」


「自分の活動を通して、冒険者に憧れる最弱紋の希望の星になりたいからです。」

答えながら、自分は偽善者だな、と思った。「最弱紋の希望の星」など最も集客しやすい者達に向けたキャッチコピーに過ぎないのだから。


「変わった奴もいるもんだ。まあそれならそれで好きにすればいいがな。では早速・・・」


自己紹介の後は特に前置きもなく、核心である魔法の説明に入った。火、水、土、結界、回復魔法の詠唱と、詠唱時の意識の置き方、そして身体強化について簡素だが分かりやすい説明がなされた。


1時間ほどの説明の後、実践に移ることになった。

ヤオジムの「杖などの補助具を持っている人は用意しておけ」という指示で、3人ほどが荷物袋から杖を取り出した。

それに倣い、俺も収納から方天画戟を取り出す。


すると、ヤオジムが急に青ざめて懇願してきた。

「説明が悪かった!そいつはしまってくれ、ギルドが吹っ飛んじまう!」


どうやら方天画戟は補助具としては認められないようだ。

仕方がないので、再び収納に納めた。



ヤオジムの指示に従い、ヤオジムが張った結界に向かって受講者たちが順番に魔法を放って

いく。

何人目かの受講者の魔法で、パリンと結界が割れる音がした。


「さすがは秀英紋だな。初心者のうちから三重結界の表層を割るとは。期待してるぞ」

その受講者にヤオジムは声をかける。


結界を割った秀英紋(4つの中で最強と言われる紋章)の受講者はといえば、満足そうなヤオジムとは対照的に悔しそうだった。

周囲の人たちが「やっぱ秀英紋は違うな」「すげえ、ヤオジムさんの結界を初めて使う魔法で壊しちまうのか!」と讃える声も耳に入っていないようだ。


「次、淳」


俺の名前が呼ばれると、受講者たちが一斉に期待の眼差しを向けてきた。

そして・・・「あれが例の特殊初心者か」「結界を何層割るか賭けようぜ」と、賭けの対象にされてしまった。


淡々と結界を張り直すヤオジムも、賭けを止めさせる気はなさそうだ。


まあいいかと思い、詠唱する。

「ファイアースフィア」


すると──詠唱と共に出現したのは、太陽の模型かとさえ思えるような禍々しい炎の球だった。


「まずい!」

言うやいなや、ヤオジムは炎球を避けようと走り出す。


それを見て事態の深刻さに気づいた俺は、身体強化をフルに使って炎球の後側に回り込み、結界を張って自分の魔法を受け止めた。


数十秒の拮抗の後。俺は何とか自分の魔法を凌ぎ切った。

ふと目をやると、ヤオジムが全身に火傷を負って虫の息になってしまっている。

炎球の半径よりは大きく避けていたように見えたが......炎球は本物の太陽よろしくプロミネンスを放出しまくっていたので、それにやられたか。


「ちょっと......この賭けは不謹慎だったから、無かったことにしようぜ」

賭けに勝ったはずの奴が自ら賭けを無効にしている辺り、ヤオジムの重篤さが窺える。

誰もがヤオジムの死を確信しているようだ。


・・・ところが、だ。


「ヒール」


俺が回復魔法をかけてやると、ヤオジムは何事も無かったかのように全快したのだ。

誰よりも、魔法を受けた本人であるヤオジムが1番驚いている。


「お前......今のは聖女のフルパワーヒールでも辛うじて一命を取り留めるのがやっとの怪我だぞ?何故ヒールで全回復できてしまうのだ!」


「さあ......自分の魔法同士なんで、威力も似たようなもんなんじゃないですかね?」


この言葉には、その場の誰一人として賛同も反対もできないようだった。


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