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第36話 新たな仮説と災厄の予感

ルシオラを燃やし尽くした炎がいよいよ消えるという頃、俺は透明になる魔法を解除し、アラレジストに声をかけた。


「お疲れさん」


「……え゛ぇー? いつからいたんですか?」


「最初からですよ」


「何だ、そうだったんですか。それなら早く言っててくれれ……あ……」


言いながら、アラレジストは顔を手で覆って俯いた。

何に思い至ったかは大体察しがつく。


「安心してください。ヤウォニッカさんには、毒霧で自爆しかけた件は伏せ、輝かしかった部分だけ伝えておきますよ」


「あ、それマジでカットしといてくださいね? 約束ですよ?」


図星だったようだな。

もっとも、実際は武勇伝のみ聞かせて見栄を張るより、そういう失敗談も含めて話した方が女の子との距離は縮めやすいんだがな。

こういう心理テクニックのことを、「自己開示」とか呼んだりする。


まあそれは、いつか本人の口から言えばいいことだろう。


「とりあえずは帰りますよ。ギルドにも魔王の討伐も報告しなければなりませんし」


「そうですね……て、ああっ! 魔王、焼き尽くしちゃったんで討伐を証明できるものが残ってません!」


途端にあたふたしだすアラレジスト。


だが心配はない。

こうなる事を踏まえて、ルシオラの指を1本、どさくさに紛れて軌道変化式電磁加速砲(カーブレールガン)で切り落としておいたのだ。


毒の自爆の件あたりから「こいつ、やらかしかねない」と思っていたからな。


「討伐証明部位、残ってましたよ」


そう言って、アラレジストにルシオラの指を渡した。


「はあ〜ぁ。良かった……。」

アラレジストは大きくため息を吐き、表情を綻ばせた。そして、


「しかし、これで『魔王を倒した』って信じてもらえるんっすかね?」


と聞いてきた。


「多分、大丈夫です。聖女様に言伝して、例のアーティファクトを起動してもらいますから」



俺がこうも自信満々に答えられるのには理由がある。

王立図書館で、国宝の一つに「魔王識別のアーティファクト」なるものがあると書いてある本があったのだ。


読んだときは眉唾物としか思っていなかったが、原理の予想がついてからは実在を信じるようになった。

加護を与えられたものには、加護を与えた者の魔力が宿る。おそらく、そのアーティファクトは魔神の魔力の特徴を検出するものなのだろう。


アラレジストの家の前に転移する。

アラレジストもまずは一休憩したいだろうし、何よりこんな夜遅くだとギルドの業務時間外だろうからな。


「バイクだけに、ブンブン」


カワサキに乗り、俺も自分の店に向かう。


その道中で、俺はルシオラとの戦いを振り返ることにした。


──ストロボのように自身を点滅させ、沢山の残像を作る戦法。

魔法を目の錯覚を起こすために使うというのも、なかなか賢いやり方のようだったな。


……ん? 待てよ?


魔法で、目の錯覚か。


・・・これだ。


これこそが、破壊天使の紋章を完成させる最後の手順に違いない!


そうだ。目の錯覚といえば、その代表格と言えるのはパラパラ漫画だ。

あれだって、ちょっとずつ違った静止画を高速で切り替え続けることであたかも動いているように錯覚させているのだ。


それを応用すれば良いのだ。魔法で。


元となる静止画は、これまでに1か月ほどかけて彫り揃えてきた。

後は、それを高速で切り替えるのみだ。


……問題があるとすれば、高速での切り替えには時空魔法を避けることができないって点だな。


先程パラパラ漫画を例に挙げはしたが、まさか「左手の表皮を何重にもしてパラパラめくる」なんてことをする訳には行かない。


やるとすれば「左手の甲の時間状態を、それぞれの紋章の1コマを彫った日時に瞬間だけ合わせる」というのを連続して行う他ない。


時空魔法の使用はやめてくれと魔神には頼まれているが……今回の使用法は、ただ無鉄砲に破壊天使リンネルの掟を破り、意識を向けさせるのとは訳が違う。


試してみても良いんじゃないかって気がするが……迷うところだな。


ま、今は夜だ。

こういう大事な決断を、深夜テンションで行うのは望ましくない。


明日以降に、しっかり自分の納得できる決断をするとしよう。


☆ ☆ ☆


「……ぉぃ……ぉぃ……おい、起きてくれ」


……誰だ、人が寝てるのを叩き起こす奴は。

不法侵入者はぶっ飛ばすぞ。


「人の眠りを妨げたのはどこのどいつだ」


「すまない。だが、それくらいの緊急事態なのは確かだ。心して聞いてくれ」


寝ぼけ眼をこすりながら確認すると……なんだ、魔神か。

俺、まだ時空魔法は使ってないぞ?


「急に何ですか」


「とんでもないことをしでかした人間がいるのだ。お主が紋章を改造し、我の使徒の紋章を持つことになった者がおるだろう?」


「それがどうしたんでしょうか」


「そいつらのうち4人が、融合魔法を使用して1人になりおった」


「……はい?」


おい、使徒が融合できるとか初耳だぞ。

まさか、そいつが魔神より強いからって泣きを入れにきたんじゃないだろうな。


「禁忌魔法か何かですか?」


「断じて違う。そもそもあんなことができると知っておったら、淳にあの紋章は教えんわい。我も未だ、何故あんなことが成し得るのか見当もつかんのだ」


……ポンコツかよ。


「で、どうしろと? 俺にそいつの討伐を頼むつもりで来たとかではないですよね?」


こちとら破壊天使の紋章について考察するので忙しいんだ。


「すまないが、できれば頼む。少し千里眼で覗いてみたが、奴は淳のように話が通じる相手では無いのだ。あれをのさばらせておけば……この恒星系は、リンネル様に見限られ、消される運命となるだろう」


それは嫌だな。

初対面を「駄目惑星出身者」というレッテルと共にというのはご勘弁願いたい。


魔神は続ける。

「だが奴は強い。我では手も足も出んほどに。我としても、淳をむざむざ奴の餌食にしてしまう訳にもいかないのでな……いざという時は、時空魔法の使用を許可する。それで勝率が上がるとも限らんにせよ、だ。可能性は低いが、万が一にもリンネル様がお気づきになった場合には、我が責任を持って説明しよう」


「分かりましたよ。機会があれば始末を試みます」


「では、頼む」


そう言って、帰っていく魔神。


……4人か。

おそらくだが、この件にはタイラーノ学院が絡んでいる可能性が高いな。


俺の顧客たちは使徒同士で融合できるなんて知らないはずだし、やりたいとも思わないはずだ。

何者かが手引きしなければ、そんな事は起きない。


まあいずれにせよ、3日後になれば分かることだ。

タイラーノ学院の選手のうち3人が並みの秀英紋レベルだったとしたら、残りの1人は融合使徒だということになる。


まずは、ルールがある舞台で敵の情報を引き出すとするか。


……ん、待てよ。

魔神の奴、俺が負けそうな時は時空魔法を使っていいとか言ってたよな。

これ、どさくさに紛れて破壊天使の紋章の再現を試みる良い機会なんじゃないか?


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