第30話 収納魔法は便利だった
今回話の区切りの都合でちょっと短いです、すみません。
聖フワジーラ学院に次いで俺が向かった先は、王立図書館だ。
思えば、俺は鑑定魔法を覚えたというのに「リンネル神話」を鑑定したことが無かったからな。
まあ、常識的に考えて本は読むものだ。本自体を鑑定しようという発想が出てきづらいのも無理はない。
当然、最初に鑑定するのは破壊天使の紋章だ。
【破壊天使リンネルの紋章】
全宇宙を統べるに事足りる力の起源たる紋章。
この紋章の持ち主は、その気になれば全宇宙を無に帰すことが可能。
この紋章の持ち主は、全宇宙で破壊天使リンネルただ1人である。
そして、世界で唯一の動的紋章でもある。
紋章の動きは周期的で、1周期はきっかり1秒である。◾️
……いやこいつ、宇宙そのものを消滅させられるのかよ。
確かに神話には破壊天使リンネルが銀河を壊滅させる逸話があったが、そんなのは朝飯前って事か。
その点は驚いたが……正直、俺にとって有用だったのは最後の1文くらいだったな。
紋章が無作為に動くか周期的に動くかでは、再現方法の発案の幅が大きく変わるというものだ。
例えば、「紋章の一瞬一瞬の静止した状態を全て絵にする」と言った方法は紋章の動きが周期的だからこそ有効かもしれない案の1つだ。
そして、その静止画1周期分を全て「彫っては消して」を繰り返したら……それで「動く紋章が彫られた」という認識になり、紋章が動き始めるかもしれない。
まあこんなのは今パッと思いついた仮説に過ぎないし、そんなトントン拍子に上手くいくほど簡単な話でもないだろう。
それでも、立ち止まっているよりは手当たり次第考えつく実験を繰り返した方がマシなので、思いついたらやってみる一択だがな。
問題は、正確に模写するには時空魔法で本の時間を止める必要があるという点だな。
時空魔法の使用は、できれば避けたいところだ。
しかし時空魔法を使わないとしたら、この本の制作者とかに本の中の紋章の動きを止める手立てを聞き出すくらいしか打つ手はなさそうだ。
だが、この本には制作者に関する情報が一切載ってない。これは、詰みか?
……
……
……。
悩むこと約10分。
そろそろ思考が逸れようかとしていたその時、俺は1つの可能性を見出した。
収納魔法だ。
収納魔法の中は、基本的に時間が停止している。
例外は、中に収納亜空間の創造者(あるいは同等の管理権限を持つ俺のような人、以下創造者等と言う)が中に入る場合。そういった人間の時間は、この世界と同様に進むようになっている。
そして創造者等が中にいる場合、通常の収納物の時間は「創造者等が触れている物の時間は動き、そうでない物の時間は止まる」という仕組みになっていた。
そう、これを利用して収納空間の中で心置きなく模写すればいいのだ。
早速、本を持って収納の中に入る。
そして本を手放すと──破壊天使の紋章が動きを止めた。
大成功だ。俺はこの小さいようで大きい前進に心を躍らせた。
コピー用紙と文房具を創造(この世界には紙なら羊皮紙、筆記具なら筆ペンくらいしか無いので)し、早速模写に取り掛かる。
とにかく正確さにはこだわった。
破壊天使リンネルの手のサイズと紋章のサイズの比をきっちり計測し、自分が彫る場合を想定した原寸大を計算したりするほどにはな。
1枚の模写が済んだら指先で一瞬ちょこんと本に触れ、ちょっと変化して停止した紋章の模写に再度取り掛かる。
その作業を繰り返すこと約30回。
とりあえず、1周期分の静止画の模写はできたように思う。
まあコマ送りの方法が「指先でタップ」である以上各静止画間の時間間隔がぴったり0.03秒とはなってないだろうが、それでも誤差の少ない出来とは呼べるだろう。
自分としては、満足な仕上がりだ。
作業中は集中していて気にもしなかったが、30回もの模写はかなり精神的に疲れるものだ。
今日はもう帰って寝ようと思いながら、本を返し王立図書館を後にした。




