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第27話 帰路と伝説の怪獣

「バイクだけに、ブンブン」


ヤウォニッカを筆頭とする魔族たちに見送られ、俺はカワサキでその場を後にした。


王都への方角は魔神に教えてもらったので、後はひたすら一直線に帰るだけである。

カワサキはその気になれば音速以上も出せるバイクなので、数日中に王都に帰れるはずだ。


転移魔法で帰らないのには理由がある。

今回の新魔王選出の一連の流れを体験する中で、色々と考えることができたのだ。

王都に戻れば業務再開で忙しくなるだろうから、その前に思考を整理しておきたい。


そもそも今回の新魔王選定の(俺にとっての)目的は、神の視点で行動する事で神の価値観を身につける事だった。

全ては破壊天使リンネルに会うアイデアを思い付くために。


その成果があったか、と問われれば実に微妙なところである。

せいぜい「自分は本当に魔神より強い、ということが実証された」という副産物があった程度だろう。


今俺の思考を巡っているのは、最後にヤウォニッカが放った一言だ。

──「すみません。私など眼中に無かったのですね」


もう一度、あの時の一連の流れを振り返ってみよう。

俺は魔神との決闘に勝ち、一気に魔族の人気を勝ち取った。

あの時の俺は、さながら芸能人のようだった。


──芸能人。

そう、ここがポイントだ。

俺とヤウォニッカは、「タレントと一般人の関係」にあったのだ。


だからこそ、俺はヤウォニッカの求婚を何でもないかのように断った。

芸能人がサイン会で過激なファンに「結婚してください」と言われても、普通のファンサだけでやり過ごすのと何ら変わりはない。


ここから導かれる懸念点は──今のままじゃ、俺と破壊天使リンネルの関係だってこれと同じ構図になってしまうのではないか、ということだ。


ヤウォニッカの想いは、俺が目の前にいたにも関わらず、そして俺に直接伝えたにも関わらず、俺に届かなかった。

仮に今リンネルに会う方法を見つけたとしても、同じことが起きるリスクが高すぎる。


破壊天使、それは全宇宙の全ての生物から一様に崇められる存在だ。

だからこそ、そこでただ一人彼女を恋愛対象として見る男が現れれば自然と特異な存在として注目される。

そうなればワンチャンある。今まではそう思っていた。


だが、リンネルから見た俺が芸能人から見た一般人みたいなものだとしたら。

その程度の矮小な特異性では、興味を引くことは困難を極めるだろう。


今回の件をポジティブに捉えるとするならば「実際に会う前にこの事に気づけたのは大きな収穫だ」ってところだろうが、そうは言っても解決策が見当たらない。


「……海風に当たりながら考えて尚、この思考のカオス具合か。やれやれ……」


颯爽と走っているうちに、夜が来た。

どうせ危険はないので走り続ければ良いのだろうが、それでも夜は寝たいのが人の(さが)。俺は寝る準備に入ることにした。


登録した方向を指すコンパスを想像し、王都の向きを登録する。

これで、明日方角に迷うことはなくなる。


睡眠は収納の中でとる事にした。

王立図書館で読んで分かったのだが、収納とは神創亜空間、つまり神が創造して人間に貸し出している空間だ。

人間は、魔法でその空間を借りているに過ぎない。


そして通常、収納には制限がかかっているため生物を生きたまま入れることは不可能だ。自分が入る事など尚更だ。

だが、俺には魔神の紋章(マスターキー)がある。

生物も、自身も、思うがままに入場可能。

正に最高のセキュリティ空間だ。



☆ ☆ ☆


翌日。


思考というものの面白いポイントの一つに、「寝ることが何よりも効率的な整理術」というものがある。

この効果は実に凄まじく、俺は今後すべきことをはっきりさせることができた。


というか、ただの原点回帰である。

そう、俺が「破壊天使の紋章」を身につければいいのだ。


俺が転生した当初これを断念したのは、あの頃の俺が前世の常識しか持っていなかったからだ。

だが今の俺は、もう魔法にだいぶ馴染んでいる。

前世の知識と今の世界の知識を総動員すれば、破壊天使の紋章を再現するのも不可能ではないだろう。


それさえ叶えば、俺とリンネルは正真正銘同格の存在。

「芸能人と芸能人」になる。


ここまで来れば、あとは前世の恋愛経験を活かして口説くのみだな。



考えがまとまり、清々しい気分で疾走しているその時だった。


「我ガ海域ニ何用ダ」

巨大な竜のような怪獣が行く手を阻んだ。


「我ガ眠リヲ妨ゲル者ハ何人タリトモ許シハセン」


……バイク、騒音妨害だっただろうか。結構な上空を走っていたし、水中に音は届いていないはずだと思ったがな。

しかし、それにしても某高校バスケ部のエースみたいなことを言う奴だな。


「すまないな、迂回していくよ」


「逃ガスカ!」


……問答無用か。

まあバイクでずっと同じ姿勢だったし、思考もずっとフル回転しっぱなしだったので気分転換に体を動かすのは歓迎ではあるがな。


とりあえず、弱点とかないか鑑定してみるか。


【リヴァイアサン】

海を統べる怪獣。弱点属性は特に無いが、水属性にめっぽう強いことから相対的に言えば「水以外の属性が弱点」とも言えるだろう。

怒らせると3日で大陸を殲滅する程の猛威を奮うこともある。



……短っ。

特に有用な情報は得られなかったな。


……いや、待てよ。リヴァイアサン、どこかで聞き覚えがあるな。


──「言い伝えによると、水属性攻撃には滅法強いはずのリヴァイアサンを水属性特殊魔法『間欠泉(パルススプリング)』で気絶させてしまったとも言われている」


ヤオジムが魔王妃について説明してくれた際、こんな喩えを言っていたな。


これが真実だとしたら。

コイツにとって、間欠泉(パルススプリング)はとんでもないトラウマのはずだ。


「これに見覚えはあるか? 間欠泉(パルススプリング)


リヴァイアサンには当てず、適当な場所に向けて間欠泉(パルススプリング)を放つ。


すると……リヴァイアサンは「スイマセンデシタ!」と言うなり一目散に海の中へ戻って行ってしまった。

あの話、本当だったのか。



再びカワサキを走らせ約1時間、大陸が見えてきた。

懐かしいという程の日数は経っていないだろうが、どこか久しぶりな気がするな。

もうすぐ15000PV突破です。

いつも読んでくださっている皆さんには感謝の気持ちでいっぱいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 手のひらが一瞬でひっくり返ったな
2022/06/03 10:47 退会済み
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