第15話 帰るなら大人しく帰れと言ったのに……
「プレー様、ここは一旦引きましょう」
意外にも、ここで撤退を宣言したのはハコネだった。
そしてそれに従うように、魔王も瞬間移動の門を作り出した。魔界にでも帰るのだろうか。
というか、プレート=テクト=ニクス、略してプレーってとこか?
なんつーかプレイボーイみたいな印象が……って、それはある意味でその通りか。
しかしここで撤退とはどういうことだ?
賢明と言えば聞こえは良いが、ここで復讐の手を止めるのはいささか薄情な気がする。
無慈悲にも程があるのでむしろ罠であってほしいとさえ思うくらいだ。
「ハーレムを作ってる奴なんざ、所詮こんなものか」
これは挑発ではない。思ったことがそのまま口から出てしまっただけだ。
「お前なんか勘違いしてないか?俺は復讐を諦める訳ではない。ただ一旦本拠地に戻り、万全の体制を整えて出直してくるだけだ」
そう言ってから、魔王は急にしまったという表情になった。
売り言葉に買い言葉で重要な作戦をバラしてしまい、焦ってでもいるのだろうか。
だが俺はといえば、ぶっちゃけこれ以上の討伐を行う気はあまりない。
アタミを倒した今、俺の強さは庶民たちによく伝わっているはずなのだ。俺に憧れて刺青を彫ろうとする人が出てきても不思議ではないくらいの功績はあげた。
である以上、魔王の撃破はクライマックスのようでいて蛇足でしかない。
心からお引き取り願おう。できれば長寿の魔族特有の時間感覚で、万全の体制を整えるのに数十年かけてくれると嬉しい。
「皮肉な話ではありますが、これからは体力の回復に専念できます。早く帰ってお休みください」
瞬間移動の門の完成を、今か今かと待つハコネがそう言った。
「転移門の完成までは、私が時間稼ぎします」
あの黒い門、正式名称は「転移門」なのか。……転移だと?
なぜ、これについてもっとよく調べようと思わなかったのだろう。これこそが破壊天使リンネルに会う要となるのではないのか?
しかしハコネの奴、今「時間稼ぎ」と言ったな。俺は追撃するつもりなど初めから無いのだが……
「サフシヨ様、魔王妃ハコネはあくまで転移門の完成までの時間稼ぎだけするつもりのようです。せっかくなので、先輩方に貴重な戦闘経験を積ませる機会にしてはいかかでしょう?」
念話を切り、サフシヨ様に訊いた。もうこの場面は放映する必要はないからな。
「冗談じゃないわ。淳にはどう見えてたのか知らないけど、さっきのアタミの攻撃だって毒を抜きにしても全部即死級だったのよ?」
「じゃあ全員に結界を張っておこう」
「……それなら……ありかな。総員、残りの魔王妃に突撃せよ!」
サフシヨ様の号令に従い、この戦いに来ている先輩方全員が攻撃を開始した。
そして……
「サイレント・ヒル」
魔王妃ハコネが一閃。
全ての先輩方が一斉に王都の壁に打ち付けられた。
俺の結界は丈夫なので皆に怪我は無いものの、またもや壁の破損度が上がってしまった。
これは本当に念話放送を切って置いて正解だったな。
しかしまあ、ここまでも全く歯が立たないものなのか。
あとハコネよ、「うわ、こいつら弱すぎ……?」みたいな顔をするのはやめて差しあげろ。
かと言ってここで身体強化を付与するのはなんか違うしなあ……
そんなことをさせては、最悪の場合先輩方が自分の力を過信するようになってしまい、良い経験どころか悪影響を与えてしまいかねない。実に本末転倒だ。
「あなた以外は大したことないようね。せめて腕1本でも持っていかせてもらうわ!」
ハコネが猛然と迫ってくる。
何なんだこいつは?時間稼ぎのつもりじゃなかったのか。
ふと魔王の方に目をやると、転移門が完成したのがめに入った。
「帰るなら、大人しく帰れよな……」
方天画戟を逆さに持ち、刃のついてない方で思いきりハコネを叩きつける。
殴り飛ばされた勢いで、ハコネは転移門に吸い込まれていった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ガフッ」
勢いよく転移門を突っ切ったハコネは、思いきり玉座で身体を打った。
「まさか他の連中があんなにも弱いだなんて思わなかったから、あれならいけるかと思ったら……アタミとあれだけやりあった後であんなに力が残ってるなんて、一体何なのよ!」
魔王編は一旦ここで中断です。
数話挟んで今度こそ決戦になります。




