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第11話 絶対零度は伝説の魔物をも凍らせる

あらすじにも書いてますが一応。

視点転換はいつもの☆3つとは異なり☆ ☆ ☆ ☆ ☆です。ご了承ください。


「......淳、『作戦』って単語の意味知ってる?」


俺が作戦を伝え終えると、サフシヨ様は怪訝な顔をしてこう聞き返してきた。

・・・うん。まあ、こういう反応になるのも無理はないな。なんせ俺が伝えた作戦は()()()()()なものだからな。


「合理的な作戦だと思うのだがな」俺は説得を続ける。「今の作戦なら、俺と遠すぎも近すぎもしない距離を保って戦いに参加することができる。それに、敵もサフシヨ様が回復要因だとは気づかず油断することだろう」


あと、これをハッキリと言ってしまうのは少々酷な気もするが......お世辞と引き換えにするには一国の聖女の命は重すぎるので、これも言ってしまおう。


「そもそも、俺と魔王やアタミが攻防を繰り広げる中サフシヨ様はそのスピードについて来れるか?あまりこういう事は言いたく無いのだが、今回の戦いではサフシヨ様は攻撃要員ではなく回復専門でいてもらう他無い」


「そこは異論は無いわ。けど......」


尚も頭を抱え込むサフシヨ様。しかし数分の後、サフシヨ様はふうと長いため息を吐き、意を決したようにこう言った。

「やっぱり馬鹿げているとしか思えない。でも、どんなに頑張っても私に代替案を出せる気がしないから仕方ないわ。その作戦でいく」


「ああ。これは魔王との戦いの後まで見据えての作戦だから、よろしく頼むよ」


☆ ☆ ☆


作戦を立てた2日後。

俺はいつものように聖フワジーラ学院へと向かっていた。


学院と言っても聖フワジーラ学院は特殊初心者専用の学院で、かなり変則的な部分が多い。

中でも一番ぶっ飛んでる規則は「聖女サフシヨの了承を得られればいつでも卒業できる」というものだが、あくまで自己申告制なので勝手に卒業させられる事はない。

進級・卒業要件も、「1年、2年、3年次にそれぞれBランク、Aランク、Sランクの魔物を最低10匹ずつ狩れ」というかなり緩いものだ。


ではなぜ「魔王襲来まであと12日」という状況でさえ普通に登校しているのか?

それには、昨日丸一日王立図書館の禁書の棚にある魔王関連の伝承を読み、得た情報が関係している。。

かなりあやふやな伝承だったが、なんとか「魔王の手下は氷結魔法に弱いらしい」という事を把握できたのだ。

そして今日習う魔法こそが、その氷結魔法である。


☆ ☆ ☆


「氷結魔法を使う際は、『物を構成している小さな粒の震えをゆっくりにする』ようなイメージを持つことが大切です」

今教鞭を執っているのは、ユグツフ・フワジーラ講師だ。

財務担当の貴族で文官になるための教育しか受けていないが、氷結魔法だけは才能で魔法師団長クラスの実力に至ったため特別講師として呼ばれたそうだ。


「ユグツフ先生、『小さな粒の震えを止める』イメージじゃダメなんですか?」


今質問をしたのは……ええと、どっちだっただろうか。

秀英紋の双子、アリスとテレスはドッペルゲンガーかってレベルで瓜二つなので未だに見分けがつかない。


「それは無理です。過去に何人もの魔術師がそれを試してみたものの、そのイメージ持ち方では誰一人として、魔法の発動さえままなりませんでした」


・・・まあ、そんな気はした。

「小さな粒の震え」とはおそらく、分子の熱運動のことを指している。

そしてその分子の振動は絶対零度でも完全には停止せず、「零点エネルギー」という最低限のエネルギーを以て振動し続けるのだ。

つまり「小さな粒の震えを止める」というのは、絶対零度よりさらに異常な、決して起こり得ない現象を起こそうという事に他ならないのだ。


魔法のある世界でも量子力学は健在なんだな。

そんなことをしみじみ考えていると、どうやら実践の時間になってしまったようだ。


・・・さて、どうするか。

今の質疑応答で、絶対零度の分子の状態を的確にイメージするのは非常に困難だと知ってしまった。何か良い方法はないだろうか?


「ダメもとではあるが、山なりな波動関数のグラフでもイメージするとどうだろうか?——アブソリュート・ゼロ」


——パリン。

練習台として支給された水入りのコップが弾け飛んだ。水は4℃以下では膨張するので、急速で凍ればこうなるのも無理はない。

しかし、コップの破裂音で教室内の全員の意識がこちらに向いてしまった。


「馬鹿な。ミスリル配合の特殊強化ガラスが氷の膨張ごときで割れるだと?」

唖然とした表情でそう呟いたのはユグツフ先生だ。


「……ってか何あの禍々しい凍り方。凄い勢いで解けてるのに全然氷は小さくなってない」

「というかむしろ、大きくなってる……」

アリスとテレスがそんなことを言うので氷を見てみると……あっ、これ周囲の空気を液化させてるな。

となれば、少なくともマイナス200度台なのは確実だろう。絶対零度の確証は無いが、これなら対魔王戦でも使えそうだな。


「淳、もしかして将来賢者とかなれるんじゃない?」

「っていうか、むしろ今でも賢者と呼ぶに相応しいんじゃ?」

更なるアリスとテレスの発言に、クラス中がうんうんと頷いている。


だが、これだけは言わせてほしい。

「少なくとも俺は、自在に恋人に会えない男を賢者と呼ぶのはどうかと思う」


「「「「「そこかよっ!」」」」」

数人の同級生がずっこけた。


☆ ☆ ☆


午前中で授業が終わると、俺は冒険者ギルドへ赴きとあるSランクの緊急依頼を受けることにした。


依頼の紙と特殊初心者証を受付嬢に見せると、「申し訳ありませんが、こちら伝説の魔物の討伐依頼となりますゆえSランクパーティー10組合同で……あ、いえ学生番号281番さんでしたか。いってらっしゃいませ」と言って送り出された。

まさかサフシヨ様に便宜を図っておいてもらったのがここで役に立つとはな。


この依頼を受けたのは他でもない、今日開発した改良型氷結魔法の実用性を確かめるためだ。

対魔王用を想定する以上、サルファ=ラ=ドンと同格指定のSランクの魔物くらい倒せなくては困る。


やってきたのは、王都のすぐそばにある大きな湾。

依頼内容はクラーケンの討伐だ。変異種の可能性もあるらしい。


サルファ=ラ=ドンと同格の魔物に反応する探知魔法を湾全体にかける。

そうだな。「クラーケン」は、いま結界を張って立っている場所の真下にいる巨大イカと見て間違いないだろう。


カワサキを収納に仕舞い、代わりに方天画戟を出す。

件の氷結魔法は方天画戟に付与(エンチャント)することにした。

ここから海底だと少し距離があるが……この方天画戟、如意棒みたいに伸びたりはしないだろうか。


「伸びろ、方天画戟!」


すると方天画戟は目にも止まらぬ速さで伸び、一瞬の後にクラーケンを突き刺した。

その数秒後、凍った海水が膨張し始めたのか、真下の海が盛り上がり始めた。


「これはいかん。戻れ、方天画戟!」


元の長さに戻った方天画戟に刺さっていたのは巨大な冷凍イカだった。




「確か海産物は、細胞の破壊を防ぎ鮮度を保つためマイナス60度以下で保存すると良かったはず……この魔法、いつか漁師に伝えた方がよさそうだな」


そんな独り言をつぶやきながら向かう先は、依頼主である漁師連合。


依頼完了とするには討伐証明にサインをもらう必要があるのだ。


「失礼します」

漁師連合の建物の玄関ドアをノックすると、小柄な初老の男性が出てきた。


「クラーケンの討伐が完了致しましたので、その旨を伝えに参りました」


「お主が、あの伝説のクラーケンをか?確かSランク冒険者を大量に集めてと依頼したはずじゃったが、たった一人でか?」


「人数に関しては、俺でしたら問題なかったようです。証拠もありますが、この建物には入らないので外にでていらしてくださると助かります」


そう告げると、半信半疑といった表情ではあるものの数人の男が外に出てきた。

そこで俺は収納から、方天画戟に串刺しにしたままのクラーケンを取り出した。


すると……

「……こっ、こやつは!」

「ええ、間違いありませんね。これはクラーケンではなくその変異種」


「「コラーゲン!」」


・・・なるほど、クラーケンの変異種のことをコラーゲンというのか。しかし何が違うのだろう?


「コラーゲンは、狩った後の価値と言えば可食部がクラーケンの数十倍の美肌成分を含んでいるだけだというのに、その危険度・凶暴性はクラーケンの数百倍にもなる恐ろしい奴じゃ」

「歴史上4度しか出現したことが無く、その全てにおいて聖騎士を総動員したにも関わらず討伐成功例は一度だけだというのに……何がどうなったら一人で倒せるのかは分からないが、よく倒してくれたな」


「もしやお主、あの『サルファ=ラ=ドンを一太刀で狩った時空魔法使い』だったりはしまいか?出鱈目な噂話だと決めつけておったが、お主がそうじゃとしたら疑いはせんて……」


「まあ、そうですね」


「「「「な、何だと!?」」」


話していた2人と、今しがた話を聞きつけた漁師連合の組合員が同時に声を上げた。


「しかし良いことを聞かせていただきました。美肌効果抜群の可食部は想い人へのプレゼントとさせていただきますね」

収納魔法なら鮮度が落ちることもないからな。破壊天使リンネルもお喜びになることだろう。


「うーむ、いくら美肌効果があるとはいえコラーゲンなどという物騒なものを彼女さんが嬉しがるとは思えんのだがのう……」


初老の男性はそう言うが、まあ破壊天使なのでそこらへんは大丈夫なんじゃないだろうか。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「より状況を悪化させてしまった……」


魔神は頭を悩ませた。


淳がクラーケン討伐に向かうのを知った魔神は、クラーケンに強化魔法をかけ、コラーゲンに変異させた。

そんなことで淳を殺せるとは思ってはいないものの、「あわよくば」の確率を上げたいと考えたのだ。


しかし、そんな魔神の細工は却って仇となる。

「美肌効果のことを忘れてさえいなければ……不覚……」


魔神は悟った。

魔王・プレート=テクト=ニクスが唯一の残された希望であることを。魔王を魔王たらしめる魔神の加護自体が既に介入を意味するのでこれ以上の細工は不可能だが、せめていい仕事をしてくれるのを願う他ない。


淳がリンネル様呼び出しのため暴挙に出る前に何とか始末しなければと焦る魔神であった。


一応補足しておきますが、「進級・卒業要件が緩い」というのはあながち間違いではありません。

というのも、例えば「特殊初心者10人のパーティーでSランク魔物一匹を討伐した」ケースの場合、進級に関わる成績のカウントの上では全員に1匹分のカウントが入りますので。


あと、今回の話の設定に疑問を持つ方はそうそういないとおもったので本編には盛り込みませんでしたが、不確定性原理に逆らう覚悟で相応の魔力を消費すれば「小さな粒の震えを完全停止」させることは可能です。尤もそれは氷結魔法ではなく消滅魔法となりますが。


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