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「いけません。そのお身体では無理です」


橘次は小少将の君をさえぎった。


しかし、小少将の君は橘次の袖にすがりつくようにして言う。


「でも、橘次。こうしている間にも、あの方が亡くなってしまうかも知れない。わたくしはそれが恐ろしくてならないのです。あの方がいなくなったら、わたくしは生きてはいけない。この国だってどんなことになるか」


「しかし」


「お願い、橘次。わたくしを行かせて」


小少将の君の瞳には淡い白珠のような涙が浮かんでいる。


橘次は苦痛に眉をゆがめ、その涙から顔を背けるようにしてようやく言った。


「わかりました。でも、私もお供いたします。鬼道丸、今すぐそこへ案内しろ」


小少将の君を乗せた牛車を先導して、橘次の馬が鳥辺野へ向かう。


もちろん鬼道丸は徒歩だ。


馬の足が速いので、鬼道丸は鳥辺野までの長い道のり中ずっと、ぜいぜい言いながら小走りでついていかなければならなかった。


やがて、目当ての塚が見えてきた。


鬼道丸がそれを指差すと、橘次は馬を下りて牛車に近づき、小少将の君を中から抱き降ろした。


そして、小少将の君の着ていた花菖蒲の袿でしっかりと小少将の君の身体をくるみこみ、風にも当てぬようにとでもいった感じで支えながら、鬼道丸の後へ続いて行く。


塚の前には、この間と同じように、あの美しい女が立っていた。


女には鬼道丸の後ろの二人も見えるのだろう。


美しい目を見開いて、じっと小少将の君を見つめている。


だが、小少将の君には、女の姿は見えないようだ。


女が目の前に立っているのにも関わらず、まるで気づかずに辺りを見回している。


そして、しばらく塚の周りを注意深くうかがっていたのだが……やがて、塚の上にそびえている立派な石の宝塔を見て、何かを感じたらしい。


「あ、あれはもしかしたら……」


小少将の君がそうつぶやく間もなく、塚の前の女の霊から、急に炎のようなものが放たれ、小少将の君の身体に飛び込んだ。


小少将の君はふいに意識を失い、橘次の腕の中へくず折れる。


鬼道丸は慌てて女の霊に飛び掛ろうとしたが、あの女の霊の姿は塚の前からすっかりき消えていた。

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