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翌日、鬼道丸は月季と一緒にあの女のことについていろいろ話し合った。
だが、本当に鬼道丸には他にできることがなかった。
次の日になっても、何の考えも浮かばない。
鬼道丸は一条戻橋の下でぐずぐずしていたが、やがて月季が哀れむように言った。
「約束の三日目だ。とにかく、今わかっていることを報告してくるしかあるまい。まあ、あの男を逆上させて斬られぬよう、せいぜいがんばることだな」
無責任な月季の言葉に、鬼道丸はますます意気消沈しながら、それでも月季の言う通り何とか橘次に会いに出かけた。
橘次のいる小少将の君の実家は、一条戻橋からほど近い東洞院大路沿いにある。
古い由緒ある屋敷らしいが、築地の崩れが目立つ侘しい佇まいだ。
あの小少将の君は大そう身分の高い人だと言うが、暮し向きにはあまり恵まれていないらしい。
橘次の住まいは、門のすぐ脇にある随身所(注)だった。
門番の爺にことわって、随身所の中を怖々覗くと、鞘を払った太刀を握った橘次がこちらに目を向ける。
もう一方の手に懐紙を握っているところを見ると、橘次は単に太刀の手入れをしているだけのようだったが、鬼道丸はもう怖気づいてしまった。
そのまま妻戸の前でもじもじしている鬼道丸に、橘次は恐ろしい形相で怒鳴りつけた。
「遅い! こんなに時間がかかったからには、病を治す方法を見つけたんだな」
「それが……わからないんです」
「何だと。お前、それで済むと思っているのか」
橘次は太刀を握ったまま立ち上がると、鬼道丸に詰め寄ってきた。
鬼道丸はその手から逃れようと身もだえしながら、それでも必死になって言った。
「だって、わからないんだもの。俺だって一生懸命やったんだ。女の人の霊がいる場所までは突き止めた。でも、それ以上何もわからない」
「馬鹿野郎! 例のお方はな、ますます病がひどくなって今にも息絶えようとしておられる。姫君はもうご心痛のあまりお身体の具合まで悪くなって、今は御所から下がってこの屋敷の奥で伏せっておいでだ。それでも、お前の報告を今か今かとお待ちになっているというのに。そんな報告をして姫君の具合がこれ以上悪くなったらどうする」
橘次の顔はひどく青ざめていた。
本気で小少将の君のことを心配しているらしい。
その思いが高じてしまったのか、橘次は鬼道丸の胸倉を掴み上げ、鬼道丸を激しく突き飛ばした。
*注「随身所」=弓矢を持って高位の貴族に仕え、屋敷の警備や外出の供をする随身の控え室。