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「鳥辺野だ」
鬼道丸は呟いた。
鬼道丸の親方は、時々死人の弔いや行き倒れの始末のために鳥辺野へ行く。
そんな時、手伝いの人足として鬼道丸を連れて行くことがあるのだ。
あちこちに転がっている髑髏や手足の骨。
賽の河原もかくやと思わせる荒涼とした禍々《まがまが》しい雰囲気。
それはまさしく鳥辺野だ。
月季も鬼道丸の手を握りながら言った。
「なるほど、これが鳥辺野か」
「お前にも見えているのか」
「お前の手を通して、お前の頭の中の絵がわたしの中へ流れ込んでくる」
「そんなことができるのか」
「まあな。それにしても、この塚は何だろう」
「たぶん、人の墓か、火葬した後に土盛りした火葬塚だろう。でも、こんな大きなものはなかなかないよ」
「では、この塚の前の女の人は、身分の高い者か」
「たぶんね。誰だかわからないけど」
「この塚を調べればわかるか」
「さあ、何かの手がかりは見つかるかも」
「では、行ってみよう」
そう言うやいなや、月季は鬼道丸の手を握ったまま立ち上がった。そして、ぐいぐい手を引っ張って堀川の堤を登って行く。
月季の握力は思いのほか強く、鬼道丸は手を離すこともできずに月季に引き擦られて行った。
鳥辺野についたのは、もう夕方近くだった。
辺りは既に薄暗く、真昼間でも薄気味の悪い鳥辺野が、さらにおどろおどろしく見える。
月季はしきりに辺りを見回しながらずんずん進んでいった。
どうやら、鬼道丸から伝わってくる映像を頼りに、あの塚を探しているらしい。
そして、幾つ目かの小高い丘を越えると、急に甲高い声を上げた。
「あ、あの人……」
丘を下ったところの窪地に、一つの塚が見える。
その前には、あの美しい女が立っていた。
今度は鬼道丸の目にもはっきりと見える。
女にも鬼道丸の姿が見えるのだろう。
豪華な紅梅色の袿を羽織った女は、地面の上を滑るように近づいてきて、鬼道丸に何か言った。
だが、頭の中の映像と同じく、鬼道丸にはその言葉を聞くことができない。
女はしばらく鬼道丸に語りかけようと努めていたが、鬼道丸が首を横に振ると、哀しげに口を閉じた。
その美しい瞳から、またほろほろと涙が零れ落ちる。
鬼道丸の手を通して様子を見ていた月季も、諦めたように鬼道丸に言った。
「ここまでだな。とにかく、もうすぐ真っ暗になってしまう。夜になってこんな禍々しい場所にいるのは危ないから、一旦一条戻橋へ帰った方がよい」