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鬼道丸の様子が変わったのに気づいて、月季は鬼道丸に尋ねた。
「何か見えたか」
「ああ、女の人が見える。すごく綺麗な人だ。俺の方へ手を差し伸べて、泣きながら何か言っているよ。俺に訴えたいことがあるみたいだ」
「何と言っているのだ」
「俺にはわからない」
「どうして」
「俺にはその力がないんだよ」
「何だって」
「俺には死人の姿が見えるだけなんだ。音を聞く力はないんだよ」
「何だ、それではものの役にも立たぬ!」
月季はあきれ果てたように言い放った。
鬼道丸はちょっとむっとしたようにぼそぼそ言う。
「悪かったな。でも、俺にわかるのはこれだけだ。とにかく、あの橘次って男のところに行ってくるよ。何かわかったら報告しろって言ってたしね。そうすれば銭がもらえるし、何とか親方のところへ戻れる」
そう言って、鬼道丸は腰を上げ、堀川の堤を昇って去っていった。
だが、それから一刻も経たないうちにすごすごと戻ってきた。
左の頬が腫れ、唇の端が切れて血が滲んでいる。
その鬼道丸の姿を見た月季は、平然とした口調で言った。
「無事に戻ってきたか。殴られただけで済んで何よりだ」
「何だよ。どうなるかわかっていたのなら、止めてくれよ」
「そういうものか? まあ、お前のことなどどうでも良い。あの男は何と言っていた?」
「たったそれっぽちのことを言うために、わざわざ俺の前に顔を出したのか。今すぐここで斬られたくなかったら、とっとと帰って調べ直せ、って」
「やっぱりな。それで、銭はどうなった」
「顔を洗って出直して来いって、殴られた。でも、俺に見えるのは本当にこれだけなんだもの。これ以上俺にどうしろって言うんだよ」
鬼道丸は肩を落として俯いた。
さすがの月季も鬼道丸が哀れになったのか、いつもよりちょっと優しい口調で言った。
「仕方がない。わたしが少し力を貸してやろう」
突然、月季は鬼道丸の手を握ってきた。
あの赤い瞳がまたふわりと燃えたようだ。
すると、鬼道丸の頭に浮かんでいる映像が、急に鮮明になったのである。
今まで靄の向こうにあるようにぼんやりとしていた辺りの風景が、くっきりとした形を見せ始める。
これは……。