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「その男は何と言ったのだ」


「急に真っ青になって、その男はぼつぼつと話してくれた。何でも、その男は東国に広い領地を持つ武士なのだが、それらの財産は全て以前仕えていたその土地の豪族のものなんだそうだ」


「自分の主を殺して、その財産を奪ったのか」


「主どころか、それこそ一族郎党、女や子供も容赦なく皆殺しにしたんだそうだよ。一人でも残ると、後で復讐されると困るからな」


「一族全てを根絶やしに。それで、浮かばれぬ死人が怨んで、その男に付いて回っているのか」


「そう。自分たちが根絶やしにされたことを怨んで、同じことをこの男にしようとしていたんだ。つまり、子供が育たなければ、この男には子孫ができない。奪ったものも、誰にも受け継がせられない。男が死ねば、男も結局全てを失うってわけさ」


鬼道丸は腕組みしながら、深刻な顔で月季に言った。


「死人の念ってのも、実に恐ろしいものなんだ。その念だけでも、人を傷つけたり殺したりできる場合もある。その想いが強かったり、数が多かったりすればね。だから、死人がいている人には、えらい坊主の所にでも行って、ねんごろにその死人を弔うように教える。そうすれば、だいたいは上手くいくよ」


「そうか。では、あの病の人も」


「それはわからない。名前も教えてもらえないくらいだ。会わせてもらえないから、死人がついていたって見えやしない。ここにいたってしょうがないんだ。一体、俺にどうしろって言うんだよ」


月季はしばらくじっと前を見つめながら、何かを考えているようだった。そして、やがておもむろにつぶやいた。


「いや、見る方法はある。お前にその力があれば」


「え、どういうことだ」


月季は急に鬼道丸の方を振り向き、詰問するような口調で言った。


「お前、その病の人にゆかりの品を、何か持っていないか? あの姫君から、何か受け取っていたようだが」


「まあ、無くはないけど」


「それを出してみよ」


「え、やだよ。これは俺の物だ」


鬼道丸は思わず自分の胸元へ手を当てた。


だが、月季は鬼道丸に構わず、その懐に無理矢理手を突っ込んで、姫君から貰った扇を引っ張り出してしまった。


そして、慌てて取り戻そうとする鬼道丸をぴしゃりとその扇で打ち据えると、両手でぱっと開いてみる。


その扇には、清らかな川面を桜の花びらが散り流れていく文様が描かれていた。


ふうわりと漂うかんばしい香の薫り。


優美な図柄の雰囲気からして女物だろうか。


だが、裏を返すと、そこには力強い達筆で歌のようなものが書いてあった。


鬼道丸には読めないが、その堂々とした文字はどうも男のもののような気もする。

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