渡り鳥 L大陸4
ベラミがまだリーダーになる新人だったころ、同期にジンと名乗る少年と出会った。
「俺、ジン。東北の大陸から来たんだ」
急に馴れ馴れしく拍手を差し出す。
ジンと名乗るその少年は、ベラミにとって初めての友達だった。
「俺さー」
語ることは夢物語ばかり。新しい大陸を発見するや、人々を安全に送ってあげるとか、マモノを倒して英雄になるとか、そんな話ばかり。
聞いている方は嫌々になり、言ってやった。
「夢物語は小説だけにしてくれ。正直、聞く方は迷惑だ」
彼は少し沈黙のうち、「夢は語ることで近づくんだ」と捨て台詞を吐いてどこかへと行ってしまった。
ジンと知り合って数カ月後、同じ渡り鳥に配属となった。
「奇遇だね」
「不遇だよ」
不満げにベラミは答え、嫌々な気分に染まった。
それから、チームで行動し、功績を上げ、いつからか武装渡り鳥に志願し、二人は一組の英雄として知られていった。
ある日、ジンの故郷である北東の大陸で巨大なマモノが出現した。
故郷を救うべく、一目散にジンが故郷へ出向き、遅れてベラミが駆け付けた。
そこで見た光景は、信じられない戦場が広がっていた。
武装渡り鳥隊の多くが死に、それ以上の民間人が死んでいるのを目撃しているジンがひとり建物の最上階で立っていた。
「ジン!」
ベラミは叫び、ジンを呼んだ。
けれど、ジンが振りむくことはなかった。
それが最後の面影となってしまった。
マモノがジンを含む建物を丸呑みしたのだ。ベラミは叫びながらスキルでマモノを撃退するが、残された残骸からすでにジンは耳から先、つまり顔の部分である正面が食われた状態で見つかった。それが本当にジンであったのか嘘であってほしいと心の底から叫ぶ。
そして、雨が降り、ジンの故郷は滅んでしまった。
墓場の前で、初めて涙をこぼした。
英雄とも呼ばれていた二人のうち一人が歯が立たなかったからだ。周囲からは批判的な意見が多く、ベラミは彼らにジンの最後を語りたい一心で黙っていた。ジンの最後がどうなったのか、それはベラミしか知らないし、ジン本人しか知らない。
ベラミは別チームの武装渡り鳥に配属され、リーダーとなって、ジンの過ちを繰り返さないために力をつけることに決心した。
そして、リクルと出会うとき、チームメンバーはマモノに食われ、全滅してしまう。時間稼ぎだと上からの指示に従った結果、こうなってしまった。
許せない、もっとも許せないのは上からの指示を無視し、チームを引き上げなかった自分自身だったということを。このとき、チームでは敵わない相手だとすでに知っていたはず。だが、今のチームならいけると過信してしまった結果、全滅したのだ。
仲間の敵討ちか、リクルと協力して、マモノを撃った。
結果、マモノを倒したと思われた個体は逃げのび、もう一体のマモノとともに大陸を襲い、破壊してしまった。英雄と呼ばれた名が切り刻む。ジンと手を結んだはずの英雄の名は崩れ落ち、上層部からも貢献と信頼は失われ、リクルのもとで働くという移動となってしまった。
リクルと数か月の間、一緒に任務をするようになって、「こいつ、ジンそっくりだ」と思うような節が見え始めた。
最初は違和感だった。
野良なのに、他の野良とは違って任務はちゃんと遂行し、客人には気遣う礼儀が正しい人なのだと思った。そして、奇妙なことに興味を抱くという共通点を見つけてしまう。
「こいつ、あいつとそっくりだ」
ため息を吐き、頭の中で声が聞こえた。
『奇遇だな』
「不遇だな」
ベラミは呟き、ジンと瓜二つに見えるリクルを軽蔑するようになっていった。
――現在。
昔、失くした友の話を終え、ベラミはフィーリアに尋ねた。
「昔話だ。忘れてくれ」
ベラミは立ち上がり、フィーリアに視線を向けて言った。
「このことは、リクルには内緒な。そっくりだから嫌いとか言いたくない」
背伸びして元の場所へ戻ろうと合図を送った。
「くれぐれもな」
フィーリアは静かにうなずき、リクルがいる拠点に向かって歩き出した。
元の場所に戻ると、シンジがうなされている現場に出くわした。
リクルが大急ぎでシンジの額に濡れたタオルを置き、薬がないかカバンの中を探っている最中だった。
「大変!」
フィーリアはとっさに、自分のカバンから薬草を取り出し、道具を使って薬草をすりつぶす。水が足りないことに気付き、フィーリアが声をかける前に、カバンから水を出して準備をしているベラミの姿があった。
「なにがあったの」
リクルは順に説明する。
二人がたち下がった後、何も語らないシンジを少しは話せるようにと思い、偶然見つけた写真をシンジに見せたところ、急に苦しみだし、その場に倒れてしまったという。
そのあと、看病しながら二人を待っていた、と。
リクルは二人に対して特に何も言わなかったが、「無事で何よりだ。手伝ってくれてありがとう」と礼を言い、リクルは静かに座った。
シンジが苦しみだした原因が写真にあるとリクルに貸してもらい、二人でその写真を見つめると、意外な事実が判明する。
「この老人、魔法科研究部所属のオーギド博士だ」
オーギド博士、聞いたことがない名前だ。
ベラミは答える。
「知名度は低いが、魔法と科学を統一して新たな技術を開発しようとしていた人だ。けれど、成果があげられず孫と一緒に行方不明となっていたと聞いたが、まさか…」
シンジを見つめ、ベラミはなにかを悟ったようだ。
「それが事実であれば、上はオーギド博士が最後どうなり、研究の成果を知る孫であるシンジの記憶を取り戻そうとしているのかもしれない」
ベラミは確信突いたような話しをした。
そう言われれば、確かに辻褄はあう。
上層部がなんのために、リクルたちにシンジを託し、そして別件といいながらこの島への情報と許可を出したのか謎だった。ベラミの発言でようやくこの謎は解かれた。
「シンジの記憶次第で、この任務の結果が変わると――」
「そういう風に考えて間違いなしだ」
二人だけで話しを進め、フィーリアは戸惑っていた。
「え、つまり、どういうことなんですか!?」
フィーリアにわかりやすいようにとリクルが話そうとしたとき「俺が代わりに話す。リクルはシンジを頼む」と、リクルに濡れたタオルを手渡し、「まだ食事前だろ、緊急時に対応できるようこれ食べておけ」とフィーリアに上げた同じ非常食を分け与えた。
「ベラミ…先ほどはすまなかった」
少し沈黙のあと、
「俺も悪かった…」
とベラミは頬を赤めていた。
フィーリアに説明を始めた。
ベラミからもらった非常食を口にし、濡れたタオルでシンジを看病した。