渡り鳥(レイヴン・コーリング)Ⅱ 4
南の洞窟に向かう途中、掲示板に依頼されていたものが途中にあることが分かり、リュカに許可をもらい、二つの依頼をこなしていくことにした。
「川で遊んでいたら急に引きずり込まれたんです」
そう言って川に怯えながら震えていた子供にその川まで案内してもらい、その場所にいくと、あっさりと犯人が見つかった。
子供好き(ヘンタイ)さんの仕業で、透明化の能力を使って、水に引きずり込み、後を楽しんでいたゲスだった。リュカの能力で犯人を特定し、およその場所を指定して、フィーリアの〈百発百中〉で攻撃したら、犯人を見つけてしまったというわけだ。
犯人はやたらと言い訳をしていたが、すごくどうでもよかったので、警備隊に引き渡し、子供の親から報酬をもらい、その場所を後にした。
もうひとつは酒場で大暴れしている迷惑な客を追い出すというもので、リクルたちでは到底かなわず、おっさんが大活躍するという場面となった。
おっさんの位能力〈怪力圧力〉で相手を重力で押し殺すという驚異的な技を見せつけ、相手を屈服させてしまうほどだった。
相手と少し酒で相談後、相手はこの酒場の娘の失恋からの嫌がらせだったことを知り、おっさんが〈怪力圧力〉で脅威の指圧でコテンパンに懲らしめてから警備隊に引き渡した。
酒場の娘を含む両親が喜び、報酬とともにこの辺で一番うまい酒をもらい、この場所を後にした。
「いやー、儲かりもんだよ」
おっさんは上機嫌だ。もっぱら能力も使ったのは数年ぶりだという。
「意外な特技があったもんだ」
皮肉たっぷりにリクルが言った。
「俺に対していやがらせか?」
「別に、空耳じゃない?」
プイっと知らん顔をした。
ここに来てから、リクルはどうもおっさんを敵視しているようだ。
年齢は十以上は離れている。仕事柄、信頼を大切にしていた関係でもある。
リクルがここまでおっさんを嫌がる理由が見つからない、フィーリアはその空気を破り、リクルに話しかけた。
「おっさんが好きなのですか」
「耳をそぐぞ!」
「怖いことを言わないでください」
鞘を握り、中指をたて、フィーリアを脅した。
否定を超えた拒否だ。
一気に萎縮した。
「おっさん、気にするなよ。俺からしても気が合いそうに見えるぜ」
「おっそうか!?」
おっさんの前に剣を抜こうとするリクルが睨みつけた。
ビクっと互いに震わせ、おっさんが両手を前に「おちつけ、俺を落とそうとしても無理な難易度だ」とテヘペロと片目を瞑り、下ベロを出した。
ふざけ半分だったが、リクルにはそう映らなかった。
「〈空間……〉」
「だああーー!? ちょっと待っていいい! ごめん、ふざけてごめんなさい! ほら、リュカ君も謝って!!」
「ええーなんでぼくも!?」
「いいから、その腕を落とされたくなければ、な」
「ぼくに振りかけられても…えーすみませんでした」
「ほら、謝ったから俺も許された」
「勝手に許すか! ボケ!」
剣を抜き、おっさんの首筋に光があるものを差し向けられた。剣だ。あと数センチ程度で喉をぶった切られそうな距離だ。
「か、あ、ごめん。もうしません」
リクルがため息したのち、剣を仕舞い込んだ。
「冗談通じないな」
とリュカがおっさんにヒソヒソ話をもちかけた。
おっさんは無言で、リクルをこれ以上怒らせるのはよくないと心から近い、リュカに「もう、やめよう」とこの話を打ち切った。
南の洞窟についた。
光が入ってこない薄暗い洞窟だった。人工的に作られたものではなく自然で作られたようだ。人が手入れした後がない。
地面はさすがに人が入った形跡がある。普通に歩けるよう舗装されていた。
「ここで間違いはないか?」
「はい、ここです。この先にいます。ぼくの〈道案内の天使〉がそう言っています」
リュカはこの先にいると洞窟の中へと指をさしていた。
〈道案内の天使〉は、天使のぬいぐるみの姿をしたものが道案内してくれる。触れた物、知った者の行先を把握し、その退路を導いてくれる。
また、危機に瀕したときは、解決策を出してくれるなど、なにかとお世話好きで優しい。まさに天使である。
「リクル、気づいているか」
「ああ、敵の気配だ。それも雑魚だが、数が多すぎる。広い空間での戦闘はなるべく避けよう」
「前来たときは、ここまで敵の気配はなかったのに…」
「ということは、なにかがこの先にいるということだ。フィーリア、もしなにかあったら援護を頼む」
「わかりました」
おっさんを前にして一行は洞窟の中へと進んだ。
洞窟のなかはまるで冬のように寒く、息が白くなる。
ときせつ風が吹いているようで、そのたびに体温が奪われる。
「寒いですね」
「長時間は不向きだ。さっさと終わらせよう」
「リュカ、大丈夫か?」
おっさんが心配そうにリュカを見つめた。
リュカは平気だと答えたが、やっぱり不安げに目を左右に動かしていた。
洞窟のなかは入口と比べると人工物がけっこう転がっていた。
誰かがここを生活空間にするためであろか、タンスや食器、机、本棚などあらゆる家財が残されていた。
埃と蜘蛛の巣が張ってあることから、長くて数か月は手入れされていない。
「思ったほど人の痕跡があるな」
奥へ進めば進むほど、人の痕跡が増えていく。まるで、誰かが住んでいた痕跡を残したかのような跡だ。
「リクルさん」
「どうした?」
「リュカさんが…」
リュカが苦しそうに胸を押さえていた。
「リュカ!」
おっさんが飛んできた。苦しそうに息を乱しているリュカを抱きかかえ、肩を乗せた。
「しっかりしろ!」
リュカは息を乱している。なにか嫌なことを思い出したかのような。思い出したくもないものを思い出したかのような片手を胸に片手を頭をつかんでいた。
「リュカ! おっさん、早くこの場所から出るぞ!」
「――それは止めた方がいいよ」
不意に声が聞こえた。
入口の方から。
「その子は、高熱だ」
「高熱は病と訴えている」
出てきたのは少年と少女だった。
姿は鏡で映したかのようなそっくりで、遠い世界で言えば双子だ。
紺色の瞳をもち、青紫色の耳程度まで伸ばした髪をしている。
「マール」
「モール」
と二人は紹介した。
見た目はそっくりだ。声のトーンが違うだけで、見分けるのは難しいほどだ。
「マールは干渉者。ここを見張り、封印を干渉する」
「モールは監視者。外を見張り、封印を監視する」
二人合わせてと交え、片手を広げようとした矢先、モールがずっこけた。
尻餅をつき、マールが「もう、ちゃんと見てよ」とぷんすか機嫌を損ねていた。
「ごめん」
マールが立ち上がり、再び同じダンスをした。今度はちゃんとできたようで、「「はい!」」と声を上げた。
拍手しなくてはいけないと思い、拍手した。
「その子、とても苦しそうだね。この奥に医務室があるから連れて行ってあげる」
モールがおっさんの手を引っ張る。
「ちょっと待ってくれ、君たちは何者なんだ?」
モールとマールは互いに顔を見合わせ、「この人、聞いていないよ」「私たちの名前以外記憶していないみたい」とヒソヒソ話していた。
「聞こえているよ」
シラを切らしたのか、双子にそう言うと双子はびっくり仰天した。
「今の聞こえた?」
「聞こえたよね、やば」
「君たちは何者なんだ? それにどうしてここにいる? ここはよくない気配がある。敵に見つからずどうやって暮らしているんだ」
リクルがいくつか質問をした。
「いっぺんに質問するなよ」
「まあまあ、お互い質疑する形でいいかな。君たちは何の用できたの?」
マールが質疑で返した。
「……リュカの兄がここにいるって聞いたから、迎えに来た。君たちはどうして、ここにいるんだ?」
「気づいたら、ここにいたんだ。答えになっていないけど、私たちは誰かに転移されたようなの。」
転移? もしかしたら、転移能力者がこの子たちをここに呼び寄せたのか。何のためなのか見当はつかないが、双子がさっき言っていた『干渉者』、『監視者』となにか関係があるのかもしれない。
「その兄ってなんていう名前?」
「ファルシっていうんだ。姿は見当もつかないが、リュカが兄のように慕っていると聞いたんだ。ちなみに装飾屋を営んでいるが、一年前に行方不明なんだ」
「その人なら、知っているよ」
「本当…なの、か?」
息苦しそうにリュカが事実なのかと疑っている。
「本当だよ、それよりも早く医務室へ! 手遅れになる前に!」
「リュカがなにか危険な病に侵されているのか?」
モールがおっさんを引っ張る。「手遅れになる! はやく!!」と強く引っ張る。
「その子は、この場所じゃよくないよ! 早く光がある場所へ」
マールがリクルたちを説得する。
光? たしかに、リュカをこのままにしておくのはよくない。
なにかあるのかもしれないが、リュカを助けるためだ。リュカがいないとこの際、人探しに苦労するからあ。
「わかった」
「ついてきて!」
双子の後を追う。
数十分走ったところに医務室的なところがあった。
急いで準備に取り掛かる。
「なんだよー、うるさいな」
「あっ ファルシ! 急患だよ」
「えっ…リュカ!?」
「急いで! 光が必要だよ!」
おっさんからリュカを引き離し、ベットに寝かせる。
ファルシという男がリュカを診る。
「そこの三人に頼みたいことがある。いまから、位能力で治療するから、外で暴れている魔物たちを退治してくれないか! もちろん報酬ははずむ」
よくわからないまま、リクルたちはとりあえず承諾した。
医務室から出て来た道を戻ると途中に大きな空洞があった。
先ほどまでなかった空間だ。隠し扉的なものだろう。人工的に掘られた後がある。
その中に、明らかに異質なものがいることを察した。
「魔物ですね」
フィーリアが告げると同時に、魔物たちはリクルたちをめがげて襲ってきた。




