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風見鶏島と謎の箱の秘密

 気が利いたのかおっさんは「温泉巡りしよう」と提案した。

 金は誰が出すの? とリクルが訊くと、おっさんは気前よく「俺が出す。最初のうちはな」と申した。最初のうち? つまり、最初の一泊は受け持つが、あとは自分たちで払えという。

 気前がいいのかケチなのかをさておき、リクルたちはもっとも観光巡りで有名な〈風見鶏〉へ向かった。


 風見鶏大陸。

 大陸全体でひとつの街となっている。国と違い、王がいるのではなく、各地の警備隊で賄っている。争いごとが起これば、警備隊が駆け付け、問題事を解決する。

 この街は、ひとことで街というよりも箱庭の壁を裂いた街づくりというイメージだ。


「風見鶏…聞いたことがありますわ。たしか…王がおらず、代わりに町のみんなで守っているという」

「その通りだよ。フィーリア」

 人差し指をたて、おっさんはにこやかだ。

「この大陸全体が街なんだ。国境も峠もない、すべてが歓迎されている。まさに、箱庭を切り崩した天庭といった感じだね」

 おっさんとフィーリアが楽しそうに笑っている。

 ぷくーと頬を膨らましリクルだけが不機嫌そうに睨んでいた。


 フィーリアは確かにエルフだ。珍しい民で、外へお出かけすることはほとんどない種族だ。おっさんは人間であり、物珍しいとともに美人でやさしくてかわいいから話しかけているだけ。

 ああ、いやだいやだ。一定の歳を超えると、若い子好きになるのかしら。


「……なんだよ、その眼つきは」

 おっさんとフィーリアを追い越し、

「知らなーい」

 と不機嫌そうに言った。


「そんなに不機嫌そうにしなくてもいいぞ」

 と帽子ごとわしゃわしゃと手でもんだ。

 頭をなでられた。嫌な気分だ。

 頬を赤くして、武器を抜いてオッサンにつきつけた。

「子供と見ないでくれる!」

「ちょっちょ…!? お待ちをお嬢様」

「お嬢様はよしなさい!」

「リクル、武器を下ろして、リクルを混ぜてあげるから」

「いらん!!」


 おっさんに武器を振りかけながら走った。それを止めようとするフィーリアと困った表情で逃げ回るおっさん。三人の構図は以前の悲しみと寂しさと失態はとうになくなっていた。


 風見鶏大陸の港区に降り、三人は最初の宿屋である『わんぱく』を目指した。

 値段は安く、最高のおもてなししてくれるという人気がある宿屋だ。

 いつも予約いっぱいで、おっさんが半年前に予約してようやく泊まることができたという。

「俺のおごりだ。ゆっくりしていけ」

 おおらかに自信満々にそう告げた。両手を広げている。俺のおごりだ。金のことは心配するなと。仕事上では頼りにならない男だったが、今では頼りになる男に見えるのが不思議だ。

「とはいいつつ、なんで…三人一緒なんだ!?」

 普通、女と男と分けるはず。それが、どういう理屈で一緒になるんだ? おかしいだろ、このオッサンの頭はすでにさび付いて劣化しているのかもしれない。

「寂しいと思ってな、俺の胸に飛び込んで来い!」

「ふざけるなーーー!!!」


 その日、布団一枚でベランダに放り出されたおっさんは「恨むぞ」とブツブツ言っていたが、「自業自得です」「最低です」「恥を知りなさい」「その古い考え方はトイレに流しなさい」と永遠にリクルから攻められていた。

 フィーリアはリクルを止めず、ただ見ていることでしかできなかった。


 翌朝、朝食を先に済ましていた。

 おっさんはガチブルに震え、「寒かったぞ。風邪を引いたら恨むからな」とおっさんはフィーリアに抱き付き、胸をガチに触れやがった。

 さすがのフィーリアもキレた。


「えー…すみませんでした。いや、大変胸が躍っていたので、つい、やりすぎました。今後からはお二人を遠くから見守りますのでどうか、捨てないでください」

 おっさんを馬車に縛り付け、命乞いをしていた。

 いまにも馬車が動けば、地面に引きずりだされるのは目に見えている。顔は赤く膨らみ、素性が別人のようだった。

 フィーリアのフライパンで殴られたのだ。止めることはできなかった。いや、やっちまえと止めなかった。

「敵に回してはっきりしましたね」

「これにこりたら、二度としないでね」

「はい、二度としません!」


 縄をほどき、おっさんを開放した。


 少し、街をぶらついた。

 街といっても畑が続いている。丘を越えても建物がポツンとあるだけでそこまで建物が密集していない。テントを広げたように、畑や森が建物の間に入る形で孤立している。

 全体が街というだけあって、なるほどなと感心した。


「それでさぁ…」

 今後の予定の話をしているとき、悲鳴が聞こえた。

 すぐ隣の道だ。人通りが少なく、日当たりが悪い。路地裏だ。

 その先で悲鳴が聞こえた。

「あっリクル!」

 とっさに走った。

 悲鳴が聞こえた。助けなくちゃという思いに駆られた。

 角を曲がると血まみれになった死体と一人の男が震えながら怯えていた。

 しきりに「助けてくれ」と何度も唸っていた。


「大丈夫か? これは…いったい…」

 当たりは血まみれだ。袋の中身が散乱している。衣類から食料と、夜逃げの最中だったようだ(昼間だが)。二人の死体はいま、斬られたばかりだ。血はまだ流れている。死体からわずかに熱がまだある。

「リクル!」

 おっさんたちが後を追いかけてきた。

 惨状を見つめ、おっさんたちが唾を飲み込んだ。


「ひでぇありさまだ。何があったんだ!」

 リクルは震えている男により寄った。

「大丈夫だ。話してくれ。なにがあった」

 男は震えながら人差し指をある場所へ向けていた。

 男はなにも語ることなく、その場で息を引取った。

 地面へぱたりと落ち、男から声が聞こえなくなった。ショック死だ。

 なにか恐ろしいものを見たのだろうか、男はなにを語りたかったのかわからないままになってしまった。

「あちらに何がある?」

 フィーリアがその箱に近づき、拾い上げた。

 唯一血まみれから逃れた箱は汚れ一つなくきれいだった。

 傷はなく、大切に保管されていたのだろう。

「カギが、かかっていませんが…どこから開けるのでしょうか?」

 フィーリアが箱を調べている。

 鍵穴はなく、開ける隙間もない。


「とりあえず、ここから出よう」

 バサバサと空から音が聞こえた。

 空を見上げると白い十字架のマークを服につけ、灰色のローブに銀色のガードを上からかぶせるようにして降りてきた。

「彼らが警備隊だ」

 おっさんが告げた。

 彼らが警備隊。民間警察だ。


 死体を見つめ、調べる。

 警備隊の視線から、箱を隠すようにしてリクルが異能力で箱を先ほどの馬車に隠した。

 一瞬のことだ。彼らは異能力を使ったことも知らないだろう。


 警備隊のひとりがこちらに近づいてきた。

「ここに箱がなかったか? 鍵がない箱だ」

 箱? こいつらの持ち物を知っている。

 何者だろうか。いや、この惨状となにか関係しているようだ。

 リクルはシラを切った。

「見ていないです。私たちが来たときにはこのような状況で、ましてや箱を見つけてどうするんですか?」

 警備の人の眉毛がかすかに動いた。

 なにかを知っている。隠している。


「わかった。もういい、箱を知らないんだな」

「箱って、あそこの木箱や宝箱のことじゃないのか?」

 指を向けた。地面に転がるようにして木箱と宝箱があった。中身は空っぽだ。落ちた衝撃でばらけてしまったようだ。


「おい、こっちを手伝ってくれ」

 警備の人と別れ、路地裏を出た。

 再び異能力で箱を取り戻し、その場から早々に立ち去った。


「なんで隠すんだ? あいつら、あの箱に興味を持っていたな」

「もしかして…」

 フィーリアは察したようだ。

「そうだ。あいつら箱のことを知っていた。惨状を見ても驚かなかった。つまり、ああなることを初めから知っていた。この箱が男が何かを伝えようとしていた。」

 おっさんはなるほどなと腕を組んだ。

「つまり、あいつらは男らを殺し、その箱を奪おうとしていた。」

「その可能性もある。だが、なんのために殺したのだろうか。この箱にそんなに価値があるのか? 調べる価値がある」


 リクルはもう一つの能力を箱にかけた。


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