七話目よ
修学旅行中日、夜。夕食時。
K市の紅葉を存分に満喫した生徒達は、昨日と同じ席に座って夕食を摂っている。
心達の中に慰夢の姿はまだ無かった。
「何をやっているのでしょうか、青梅慰夢さんは」
「秘密です」
玲が不機嫌気味に呟くと、どこからか慰夢の声が聞こえてきた。
玲が後ろを振り向いたが、慰夢はいなかった。周りを見回しても見当たらず首を傾げる。
「どうしたの?」
心が心配そうに声をかけた。
「あ、ええ。今、慰夢さんの声が聞こえまして」
「慰夢ちゃん?」
心も周りを見回すが慰夢は見当たらない。
「ここです」
またどこからか声が聞こえてきた。
心はゆっくりと椅子を立ち上がりしゃがみこむ。そしてテーブルの下を覗き込んだ。
「いた」
「おはようです」
心の呟きに慰夢は答えた。
ごそごそとしゃがみこんだままテーブルの下から出てきた慰夢は、空いている席に座った。
膝の上には昨日と同じノートパソコンがある。
「杪さん、食事中にすみませんです」
「はあ」
「昨日の事なのですが、洋服に関してはすぐにでも取り戻せるです。犯人も確定しましたですから教えてあげられますですが、どうするです?」
慰夢に尋ねられた杪は少しだけ考えてから答えた。
「今は返してもらえれば充分や。考えてみると、犯人が分かった所で感傷的になるだけやし。せやけど、明日〜寺に行った時に会わせてくれんか。一言言いたい」
「分かったです」
「私は知りてーな」
そう言ったのは美久だった。
慰夢は美久と杪を七回ずつ交互に見た後、こう言った。
「ヒントだけ、かなです。一つは、昨日の私と秋見の会話。もう一つは、犯人が三上さんのグループにいる事です」
三上香美佳が班長をやっているグループには、他に井田峰治、前橋源、大阪千賀、国柳聡美の四人がいる。
窃盗をする人はこのグループには、勿論学内にもだが、いそうになかった。そのため美久や乃野の犯人予想は、井田君か前橋君の二人には絞れたものの、なかなか一人に決まらなかったという。




