十話目ざます
修学旅行最終日、午前。〜寺周辺で観光とショッピング。
〜寺の前の坂には沢山の人がいた。半分程が学生服を着ている。
坂の両脇には観光客向けのお店が並ぶ。その中の一つ、雑貨が大量に置かれた店の中に心達六人と慰夢、そして犯人である国柳聡美はいた。
聡美の傍には、慰夢と杪の二人がいる。他の四人は店内を見てまわっている。
「率直に聞く。何で、うちの下着を取ったんや?」
聡美は目の前に置かれた油取り紙を手に取りながら答える。
「なんとなく、じゃあ納得しないんでしょうね」
その言葉に二人は頷く。
それを見て、聡美は油取り紙を元の場所に戻し、笑顔のまま考える。
「そうね。例えば、こんなのはどうかしら。たまたま私の指が認証されちゃったの。折角だから中に入ってみたら、高価に売れてそれでいて大騒ぎになることもない物を見つけたの。つまり女性下着。どこぞで売れば高く買い取ってくれるのよ」
「お金に困ってたのです?」
慰夢は明らかに嘘と分かる聡美の言葉にまともに聞き返す。
聡美は目を細める。
「ええ、大分ね。両親とは別居してるから」
「そうです」
慰夢は悲しそうに顔を下に向ける。
「同情なんて、しないで」
「盗人に同情なんかできるかい」
さっきまで黙っていた杪はそう言うと離れていった。
二人になり、先に慰夢が口を開く。
「それで、本当の理由は何なんです?」
聡美は溜め息を一つ吐く。
「慰夢は本当の事を知っているんでしょ。聞かなくても」
「私が考え得る事実は沢山あるのです。あくまで聡美さんが脅迫されていただろうです、と思うくらいです」
「私が性同一性障害だ、というのは」
「分かっていましたですが、勿論秘密にしてあるです。ただ、脅されるのには他にも様々な理由があるですよです」
そこで一旦慰夢は言葉を区切る。
「ただ、もしそれが理由だった場合は、今回の件はかなりの精神的ショックを受けたのではないか、と思ったです。だから私も慎重に行動したです」
聡美はただじっと考え込んでいた。
慰夢はそんな聡美をただじっと見ていた。
「この事は、誰にも言わないかしら」
「はいです」
「私ね、小学生の頃」
「ストップです」
聡美は意を決して自分の過去を話そうとしたのだが、それを慰夢がすかさず止める。
「聡美さんの過去は話さなくて大丈夫です。ちゃんと自分で向き合うです」
そう言うと、慰夢は首を五度程傾けにっこりと微笑んだ。
つられて笑った聡美を見て慰夢は店を出ていった。
残された聡美は店の外に出て慰夢を目で追っていたが、見えなくなると店内に目を向けた。
中では杪達が楽しそうに小物を眺めている。
私もそろそろ自分の班に戻らないとな。
そう考えながら聡美も雑踏にまみれていった。




