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【貴不死人】式学習


「久しぶり。他の【貴不死人】はどうだった?」


一巡し校長の元へと戻ってきたブレスはどこか変わったように思えた。まとう雰囲気が危うげでふわふわしたものから地に足がついた。そんな感じだった。


「どのパパもママも僕の為に色々教えてくれたよ!!」


双星の最大限の調整によってたどたどしかった言葉もしっかりと発音できるようになっていた。


「そうか……楽しかった?」


「うん!!」


慈しみであふれていた校長の顔が曇る。


「楽しかったか……」


「どうしたの?」


「これから私の担当なわけだが、ブレスに楽しい思いはさせてやれないかもしれないんだ」


「そんな事ないよ!!プリママがしてくれる事ならなんでも楽しいよ!!」


「本当に?」


「本当に!!」


「私を嫌わないか?」


「うん!!」


「そうか……それは良かった」


校長の表情が豹変する。厳しさと一欠片の嗜虐性を含んだ顔だった。


「え?」


校長が指を弾く。


すると机と紙。そしてインクとペンが出現した。


「えっと……プリママ?」


「先生だ、今からはお前のママなどではない。先生と呼べ!!」


「はい先生!!」


「双星から聞いているぞ、お前の吸収スピードは群を抜いていると。しかしそれも一時的なものだろうということも聞いた。だから今私はお前にあらゆる知を与える」


「はい!!」


「良い返事だ。よし、まずは文字だ。文字がどういうものか知っているか?」


「知りません!!」


「だろうな、基礎の基礎から叩き込んでやろう」


「お願いします!!」


どこからともなく取り出した眼鏡をかけて校長は笑った。


「お前はどこまで至れるかな」


数時間後。【貴不死人】達が一斉にブレスの異常を感知した。


匠はこっそりと飲み込ませたナノマシンによる警報で。


剛はブレスの気の乱れを感知して。


太陽はブレスの匂いの希薄化によって。


双星は付着させていた影からの報告によって。


ブレスに何かが起きた事を察知した。


【貴不死人】の行動は迅速だった。


跳躍、飛翔、影渡り、空間連結装置、それぞれの最速でもって校長の屋敷へと到達した。


「うぐぐ……どうしてこうなった」


「ままぁ!!ままぁ!!」


そこで【貴不死人】達が目にしたのは酷く憔悴した様子の校長とツヤツヤしたブレスが居た。倒れた校長をブレスが泣きながら揺すっていた。


「余は吸収力が高いと言ったはずだが」


「妾も念押ししました」


「いや……待て。吸収力って飲み込みの早さじゃないのか……なんで精気を吸われるんだ」


「違う、吸収力は文字通り吸収する力だ。おそらく【恋人】の回復を行うために無意識に発動しているんだろう」


「そういうことは……早く言え……」


「そんなことより補給はいいのか?死ぬぞ?」


「まっかせてよ!!材料はなんかもってきちゃったし調理は剛がやるよ」


なぜか肉の塊を持っていた太陽が剛を指差した。


「おい待てこら!!オレはやるなんて言ってねえ!!」


「ストパパ……プリママを助けて……僕じゃ助けられない……から」


涙と鼻水でグズグズになったブレスの懇願は剛には拒否できない。


「くっ……わあったよ。やりゃあいいんだろやりゃあ!!肉もってこい、エルフの秘薬しこたまぶち込んで焼いてやる!!」


「じゃあ僕は応急処置しとく」


匠が工具を振るい点滴パックを作り上げていく。


「中身か、僕のでもいいんだけど……。ブレスちゃん、ちょっと来て」


「なあに?」


「腕出して」


「はい」


ブレスの腕にスタンプのようなものを押す。特にそれ以外のことはせずにスタンプをそのまま点滴の袋の中へ入れた。


「見てなブレスちゃん。今から復元が始まるよ」


見る間にスタンプから赤い液体が溢れ出し点滴に袋を満たしていく。


「うわぁ!?」


「驚いたろう?これは一滴の水分から同じものを半永久的に創り出すんだよ。今はブレスちゃんの血液だね」


「これをどうするの?」


「飲ませるのさ。僕たち【貴不死人】は命の燃費がすごくいい代わりに他の生命を取り込まなきゃいけないんだけど。血とかが一番効率がいいんだよね。普段は食事だけでなんとかなるんだけど早く回復したいならこっちのほうがいいんだ」


匠は点滴パックの先を校長の口へと突っ込む。


「もがががが!?」


「肺に入れないようにね?やらないとは思うけど誤飲性肺炎なんかになると大変だよ?」


「がっ!?」


校長の目がかっと見開かれる。すると瞬く間に点滴の中身は空になった。


「なんだこれ……!こんな物飲んだことない。霊薬エリクサーよりも美味しいし効果も段違いだ」


「え?そんなに?」


「一体何を飲ませた?」


「ブレスちゃんの血」


「ぶほぉっ!?」


校長が噴き出す。


「ぶ、ぶぶ、ブレスの血だと!?なんてもの飲ませてくれるんだ!!」


すっと目隠しされた人形が出現する。


「あわわ魔眼をしまって!?緊急避難だよ!!それにそこまでの効果があるだなんて知らなかったし!!」


と言いつつもその手にはいつでも振るえるように万能工具が握られていた。


「すまない。取り乱した……」


「分かってもらえればいいよ」


そこへ焼いた肉を持ってきた剛が戻ってくる。


「なんだよ、元気じゃねえか。オレが料理する意味あったのかよ。一体どんな魔法使ったんだ、教えろよ」


「いやね、ブレスちゃんの血を飲ませたら全快しちゃって「おい……誰のなんだって?」


「え?ブレスちゃんの……血」


肉をテーブルにゆっくりと置きながら剛がにこやかに振り向いた。


そしてその残像を残しながら剛は匠の胸ぐらを掴んでいた。


「どうしてそんなに怒ってるの……!?」


「あいつの血はダメだ、あんなもんを知ったらオレ達はおかしくなるぞ」


「へ?剛も飲んだことあるの?」


「そんなことぁどうでもいい。もうやめとけ、あいつの血は麻薬みてえなもんだ」


「いや、そこまででもない。好みの酒と同じくらいだと思うが、薬にしては飛びぬけて美味いがそれだけだ」


「そんなわけあるか!?あいつの血を含んだだけでオレは意識が飛びかけたんだぞ!?」


慌てる剛だが他の【貴不死人】はあ~という顔をしている。


「教えてやるのが情けというものか……。お前は男で【貴不死人】になって女になったタイプだからな。ドラゴニュートの女には高確率で吸血癖がある。というか性癖だな。お前は修行修行で女とまぐわう事もなかっただろうから知らんのだろうが」


「せ、性癖だと!?じゃあなにか?オレはブレスの血で発情してたってのか!?」


「よく分かってるじゃないか、生殖能力をなくしてもそういう事象は起こるのか。興味深いな、匠まだ血は精製できそうか?」


「ん?あとコップ一杯分くらいかな?」


「よし、作れ。余は剛を拘束する」


「妾もやります」


「待てこらあ!!」


剛が本気で抵抗する構えを見せたがその時にはもう遅かった。今まで静かにしていた太陽がその体を押さえていた。


「しゃいにんぐうううううう!!!てめえこら覚えてろよ!!」


「へへへ、面白そうだから乗っかっちゃった☆」


「でかした太陽。それでは口を開けさせよう」


影が巻き付き身動きがさらに取れなくなった口元に精製されたブレスの血液が運ばれてきた。


「やめろ!!やめろおおおおおおおお!!!」


その後ヘロヘロになった剛を散々いじった後今のブレスとの付き合い方を確認し【貴不死人】達は解散した。去り際に剛が「ぶっ殺してやる」と仄暗い瞳で呟いた後、【貴不死人】たちへの闇討ちを敢行しもれなく全員が一発ずつ殴られたが手加減は心得ていたらしく大きなタンコブ程度で済んだ。


そしてブレスは一連の騒ぎを見て自分の血が大変なことを起こしてしまったと人知れずへこんでいた。







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