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【恐怖】と【愛】


ブレスが双星のところへと来るやいなや双星はブレスを担いで研究室へと放り込んだ。


「太陽から聞いたぞ【恐怖】を出現させたそうだな?こんな若く未熟な内に【恐怖】を呼び出す個体などそうはいない」


「妾もこんな事例は初めてです、きっと良い研究結果が出るでしょう」


「あ、あの!!」


「なんだ」「なんでしょう」


「ふぉびあってなんなんですか……しゃいままはおしえてくれなくて、ついぱぱとついままならおしえてくれるって」


「太陽の奴め。説明を余達に丸投げしたな」


「しかし、未知の戸惑いからもう一度【恐怖】を出されても困ります。制圧はともかく機器に影響が出るのは思わしくないですね」


鬼の双星が舌打ちをする。


「分かった。【恐怖】について教えてやろう。だがそれは条件付きだ。余の実験に付き合ってもらうぞ。それでもいいか?」


「うん、ついぱぱがそうのぞむなら」


「引っかかる言い方だな……まあ良い。ではまず基礎段階の【恋人】についてだ。今は出せないと思うがこいつはなんだと思う?」


「……おともだち?」


「 不正解【恋人】は守護霊だ。主人を守る役割を持った寄生精神体と言ってもいい。こいつらは基本的に主人と意思の疎通はできずなおかつ干渉力も特例を除いて然程強くはない」


巻物のようなものを鬼の双星がブレスへと投げ渡した。そこにはさまざまな形をした生き物や人型の絵が書いてある。


「わぁ……!すごい!!」


「ふん、それの本当の価値は分かっていないと思うがな、それは今までに存在を確認した【恋人】の形だ。見たとおり多種多様だ、だがその中にはひとつだけ共通点がある。分かるか?」


「……かわいい?」


「ほう、当たらずとも遠からずといったところだな。【恋人】は主人の最も好む形をとる。例えば匠のやつなどは工具だったがな。魂の好む形といった方がいいかもしれん。お前の【恋人】は珍しくお前自身にそっくりだがそれは同一の存在を求めるということなのかもしれないな」


「どういつ……」


「裏を見てみろ」


言われたとおりブレスは巻物を裏返す。すると今度は恐ろしい姿の化け物達が浮かび上がって来た。


「ひいっ!?」


「怖いか、それは正常な反応だ。それは【恐怖】と呼ばれるものだからな。しかしそれは【恋人】の真の姿といってもいいものだ。【恐怖】は【恋人】のものとは比べものにならない力を持ち、意思の疎通も可能となる。その際に姿を変え主人が嫌う言動や姿をとるのだ」


「じゃあぼくのは……」


「正体不明への不安といったところか、それを知るのは自分自身だけだがな。だが決して【恐怖】は主人への反逆を行おうとしているのではない」


「でもぼくのはしゃいままをこうげきしたときにやめてくれなかったよ」


「それは太陽の奴がお前を風圧で転がしたからだろうな。それを攻撃と認識したお前の【恋人】が圧倒的強者の太陽からお前を守るためにやったことだ。それでお前はその【恋人】になにをした?」


「きらいって……いっちゃった……」


「ああ、そうだな、そう聞いたよ。太陽の奴が心底落ち込んだ顔で止められなかったと言っていたからな相当な拒絶をしたんだろうな。おまえの事を守ろうと、勇敢にも、世界でも指折りの強者である【貴不死人】に立ち向かった親愛なる友人にして無二の家族である【恋人】にお前は否定の言葉と拒絶を進呈したというわけだ」


鬼の双星がにやりと笑う。その顔は心底楽しくて仕方ないという風だ。


「ああ、なんという悲劇なのか。勇気を振り絞って、全霊を賭して立ち向かった報酬が最愛の主人からの否定と拒絶なのだ。なんという裏切りだ、およそ考えられる最大級の絶望がたたき込まれたことだろうなあ?ええ?どう思う?」


「ぼ……ぼくは……そんな……」


ブレスの目からボロボロと涙がこぼれ落ちる、鬼の双星の芝居がかった圧力と事実を再確認したことによる後悔の感情が溢れてしまったのだろう。


「お前にそんな気がなくとも【恋人】にとってはそうなのだ。その結果として何が起きた?」


「……ふぉびあがでてきた?」


「半分正解だ。もう半分は太陽に通じない自らの非力を【恋人】が呪ったことが原因だ。絶望と呪い、そして願いが【恋人】の仮初めの姿を打ち破り【恐怖】を生み出すのだ。事実として【恐怖】の力は太陽を阻害できるくらいには強いのだ、お前は覚えていないことだろうが太陽は【フィリア】まで使って対処したらしいからな、相当切羽詰まっていたんだろうよ、禍兎まがさぎなどここ100年ほど戦闘に使っていなかったというのにな」


「ふぃりあ……?」


「それを知るのは早いな、まあ【恐怖】と正面から向き合うことができるようになるのが最低条件だ。中には【恐怖】に向き合わないままに使役する輩もいるがあまりおすすめしない。【恋人】が【恐怖】になるのは異常事態だ、それを継続するなど自我を自ら削っているのに等しい。さあ、無駄話はここまでだ。実験を始めようじゃないか」


「うん。おしえてくれてありがとうついぱぱ」


涙の跡を残したブレスの笑顔は痛々しかったが、それでも愛らしさをを損なっていなかった。


「流石に【恋人】が入っているだけはあるな。望まれるように振る舞い、好まれるような姿をとるというわけか。その辺りもこれから解明してやろう、ふふ……楽しみだ」


「妾も楽しみです」


「まずは麻酔だ。ぺらぺら喋られてはやりづらい」


蟲の双星が注射器のようなものを手に取りブレスに近づく。


「それはなあに?」


「眠くなるお薬です、大丈夫ですよ。蚊人の針を参考にして匠が作った無痛のものですから。腕をこちらに」


支持に従ってブレスは腕を差し出す。


「良い子ね」


すぐに効果が現れブレスの目が閉じられる。


「効果が出るのが早すぎる……そこまでの劇薬じゃないのに」


「そこもふくめて【恋人】の望まれるように振る舞う性質なんだろう。さあやることは山ほどあるぞ」


双星の屋敷の最奥への道が開かれる、そこは解明という機能に特化した空間である。その名を神への挑戦(エヴィデンス)という。こと真理の追究という点において双星の右に出る者はいないのである。


「ブレスを普通の子供にしてやらねばならん、そうでなくてはならない。ブレスは子を成せず【貴不死人】になった余達の子だ。こんなことは二度は起こらないと言えるだろう。障害となりうることは取り除くのだ。あんな歳で【恐怖】が出るような、他者の望むように生きるような、それを気にもしないような、そんな業を背から降ろしてやらねばならない」


淡々とした口調とは裏腹にその瞳は揺れ、拳は強く握られていた。


「妾はあなた様一緒になれて幸せです。ーーーー様」


名前の部分は奇妙な発音であり意味のある言葉に聞き取れるものではなかった。


「余もそう思っているーーーー」


「それにしても直接お伝えになればいいと思うのですが」


「こんなこと余の口から言えるか、余は子供とのつきあい方を知らぬ。子供の時分など薄汚い政治の中に放り込まれていたからな。だから気にかけてやってくれ。余はブレスの荷を降ろすことに全霊をかけるだけだ」


「分かりました。お手伝いいたします」


双星の長い長い夜が始まった



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