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鷹の目


フリュウは戻って来てからブレスのことを探し回っていた。その過程で異物であるギフトに目をつけるのは当然だった。ブレスと入れ替わりになる形で入ってきた【貴不死人】の秘蔵っ子など怪しさしかないのだから。


「え……なにこれ。すごく怖い」


ギフトをしばらく見たフリュウの感想である。


「周りにいるメンバーは変わってないけど、みんなの凄みが段違いだ。え、なに、ギフトはやっぱりブレス君なのか……?」


『うふふふ……すっかりこじれてるわね。あれを解くのは骨が折れるわよー』


『うっさい、お兄ちゃんにできないことなんてないんだから。ババアは黙って見てなさい』


「またそんなこと言って……そうは言ってもこれは厳しいぞ……」


一番べったりだったカームは何かの確信を持ってギフトを狙っている。


理解ある友人だったムケンは母のような慈愛と沼のような情念が混同するよく分からないものになった。


露骨にアプローチをしていたララシィは認めないだけで多大なるダメージを背負って潰れかけ、タラスの存在で繋ぎ止めている状態。


ハネとメガはもともと怪しげなことをやろうとしていたがそこにギャルゥが加わってなにかをしようとしている。


「もう何が何やら……」


ブレスを中心として割とスムーズにに進んでいた関係は今、ギフトを中心にして歪みながら絡んでいる。


「そもそもギフトもよく分からないんだ、人格の変更は分かる。そんなの大なり小なり人はやる。でもなあ「私」と「俺」でそんなに変わるものか?あれじゃあまるで中に二人いるみたいだ」


『私たちみたいに?」


『ぐぬぬ、私もお兄ちゃんの身体に入りたかったよー』


内側からの声はフリュウにとって珍しいものでも異常なことでもない、そういう風になってしまったのだから受け入れるというだけの話である。


「一緒……?」


『お兄ちゃんあのね、あのギフトっていう人のことだけど。あの人が「私」って言ってるときはなんだか親近感が湧くんだよね。どういうことなんだろう?』


「今の蒼空と近いってことか……いやそんなことあるわけ」


フリュウの中にいる3人目である蒼空は厳密にはフリュウと同化しているわけではない、フリュウの扱う【恋人】という形として今は存在している。これと同じということはつまり「私」としてある時のギフトは本来のギフトではなく【恋人】である可能性があるということだ。


もちろん喋る【恋人】など例外中の例外であるフリュウしか持っていない。喋るとしたらこれは【恐怖】に他ならないということである。


「いやいやいや……でもな……待てよ……確かブレス君の【恋人】は感情豊かだったような気もするし……喋れてもおかしくないのか……?」


フリュウの脳裏によぎるのは言葉がなくともその表情で周囲への牽制を行っていたグレイスの顔である。目は口程に物を言うではないがあの表情ができるのならば喋ったとしてもおかしくはない。そもそもブレスはフリュウに負けず劣らずの例外でもあった。


故に仲間になれると思っていた。一度離れてもまた友人になれるのだと。理解し理解されるのだと。いずれは自分の秘密を打ち明けることも考えていた。


あのブレスならそれさえも包み込んでくれるとわかっていたから。


「たしかグレイスって呼ばれてたはずだ……でもそれだけじゃ弱いな」


『それじゃあ他の情報も組み合わせてみましょう』


姉であるつむじもといゲイルが翼を操作したときのみ使用可能な能力がある。それは羽毛で振動を拾うことによる盗聴、風の流れを読むことによる見えない場所の把握、極めつけは両目を封じる代わりに翼の周囲の情報を可視化するという荒業などがそれにあたる。こと情報収集においてこれほど役に立つ能力もない、羽一枚侵入すればそれで事足りるのだ。


しかし例外が一つ、風が吹き荒れていたララシィとの現場では満足な情報が得られていなかった。風が翼を散らしてしまったのである。


「作り物の身体に埋め込まれた【恋人】か、身体を改造するにしたってあれは精巧すぎるけど……こっちの技術も侮れないもんなあ」


『ふーんだ。あんなのちょっとバラせば作れるようになるしー』


「どこに嫉妬してるんだ……」



ギフトの身体が人工であることはメガの発言から確定した。ただの機人ならいざ知らず人工肢体の権威の娘の査定である。とりあえず信じるには十分すぎる要因であった。


「蒼空から見てあれは違和感ない?」


『ん?あれって球のこと?』


「そう、胸に埋まってたあれは本当に【恋人】だったのかなって」


『ああ、それなら一発で分かるよ。あれは【恋人】じゃない。どちらかといえばあれはコントローラー、制御用の外付けっぽい』


『そんなことよく分かるわねえ、お姉ちゃんは何も感じなかったわ』


『ふん、これだからバ・バ・アは……』


『翼もそうだけど蒼空ちゃんもとびっきり優秀だからお姉ちゃん鼻が高いわ、本当に同じ遺伝子から産まれたのかしら。今は身体が無くなっちゃったけど世界一可愛いかったのよねえ、今も抱っこしてなでなでしてあげたいのに……残念だわ」


心の底から言っているであろう声音である。これには流石に蒼空もほだされた。


『いつか身体が手に入ったら……させてあげなくもないけど……ね』


『蒼空ちゃんがデレた……!?』


『なに意外そうに言ってんだババア!!』


「うるさい……」


自分の中で二人が喧嘩を始めると考え事もまともにできないほどの喧騒に包まれる、しかもそれは他の人には分からないのだからタチが悪い。独り言の達人のようにしか他からは見えないのである。


「整理しなきゃな」


蒼空の言葉が正しければあの球は【恋人】ではなくただの制御装置である。つまりギフトはなにかを制御する必要がある、もしくは誰かから制限をかけられている可能性がある。


「制限……一体なにを……?」


ブレスが消えたことと関係しているのであれば、正体の隠蔽に関わることだと考えられる。それは自分で話すことの禁止なのか、それ以外の行動、思考の制限なのか、それとも。


「ルールを破った瞬間になにかが起こる類のものか……そういうセンサーなのか?」


消えなければならなかったのなら、今戻ってくることはできないということである、それを破られそうになった時は緊急避難として何かを起こすことで無かったことにする。


ありえない話ではない。


【貴不死人】ならばそれくらいする。あの映像を見たフリュウはそう確信していた。


「じゃあ……無理にギフトの正体を暴けば」


最悪のシナリオをフリュウは想像する。さまざまな証拠や根拠からギフトを追い詰めて正体を暴く。その瞬間に光り輝く球。そして現れた【貴不死人】によってもたらされる圧倒的な暴力による蹂躙。次々と消されていく仲間たちとそれに気づきもしない周囲。


残るのは破壊の跡と立ち尽くすギフトのみ。


「……それは駄目だろう。あまりにも報われない。バッドエンド一直線だ……どうすれば良いかな……」


『簡単だよお兄ちゃん、誰もそんなことができないようにお兄ちゃんが潰して回れば良いんだよ』


「えー、そんなことしたらあの子達敵に回すよ。それは避けたいな、死ぬから」


『それならムケンちゃんを頼ったら良いわ、あの子なら協力してくれるはずよ。多分ね』


「……マジで?」


『大マジよ、一回話してみたら良いわ。大丈夫一人相手ならなんとでもなるから」


「……はぁ、やるしかないか……」


フリュウは翼をはためかせた。









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