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接触


「戻ってきたか……」


ギフト達は元いた場所へと戻ることに成功していた。しかし、これはスタート地点に戻ってきたというだけであり今からが本番なのである。


「今から行って間に合うか……?」


刻限までが余裕があるとはいえない、平易な道のりとはいえ距離はそれなりにあるのだ。


「……大丈夫、走ればすぐ」


「はい、そこまで焦ることもないです」


二人がこともなげに言うが今のギフトはあまりいいコンディションではない。


「(時間差で衝撃が……足が痺れてきてるな)」


悟られないように振舞っていたが全力で走ることなどとてもできない状態だった。もっとも全力で走ったとしても二人に追いつくことはできないのだが。


「お困りですかぁ?」


ぬるりと唐突に現れた黒い影が粘着質な声で語りかけた。


先ほどまで影も形も気配も匂いもなかったはずの空間にいつのまにか男が立っていた。


「……誰だ」


戦闘ができるように身構えつつ男を見る、濡れたような質感の髪で顔の半分を隠しているためその視線を計ることはできない。


「(でかいな身長は俺の倍はある、尻尾は……ないからドラゴニュートじゃない、角もない、耳も尖っていない、触覚もない……機人か)」


「あららぁ、これは失礼いたしました。ですがもう名前は捨ててしまいましたのでぇ。私のことはシャドウとでもお呼びくださいなぁ」


黒い影改めシャドウは針金のような体を折り曲げて礼をする、貴人に対してするような恭しいものだった。


「何の用だ……」


「いえいえ、お困りのようでしたのでぇ。力添えをさせていただきたく思いましてぇ」


シャドウの口が歪に歪む、おそらく笑っているのだろうがぎこちなさすぎて引きつっている。


「そんなものはいらない、そもそもこれは自らの力でやれというものだ」


「そうですよねえ、力を隠してるのはもったいないですよぉ?」


不自然な動きで近づいた耳元でシャドウがささやく。


「御身にはとびっきりの【恐怖】が宿っていますでしょうに」


「……っ!?」


おもいがけない言葉にギフトの体が硬直する


「ではではでは、我らの居城に御招待」


シャドウがギフトの腕をつかもうと手を伸ばす。


「……させない」


「っ!!」


手をもぐような軌道でハネが腕を振るう、一瞬の間をおいてギャルゥは足への攻撃を開始していた。


「うーむ、漆黒と双暴虐を敵にするのは避けたいですからぁ殺しはしませんがぁ」


男の体が煙のように変化する、攻撃を躱すと同時にハネとギャルゥの首を煙が締め上げた


「すこぉしうるさいので、黙っていてくれます?」


「ーーーー!!」


ハネが締められるのにも構わずに攻撃を続けようともがく


「あ、こっちのは轟来族でしたねえ。じゃあもっと念入りに締めなければいけません」


煙の縛りがより一層きつくなる、ハネの動きが鈍っていくがそれでも諦める様子はない。


「っぁああああああ!!!」


手薄なったところでギャルゥの咆哮が響く


「うるさいって言ったでしょう、聞き分けのない獣には躾が必要ですねぇ」


鞭のような形の煙が出現する。しかし、それが振るわれることはなかった。


咆哮はシャドウの気を引くと同時にギフトの覚醒も促していたのである。


「身体変化……なんにせよ未知数すぎる。相手なんてしていられない。実体を失っているのならそれが弱点だ」


轟音


「思った通りだな」


ギフトの拳によってシャドウの胴体部分にあった煙は散らされてしまっていた。ハネとギャルゥの拘束が緩む。


「バレちゃいましたかぁ……まあべつに良いんですけどねえ」


シャドウの体積が爆発的に増え始める、消しても追いつかないほどに膨張している。


「さてぇ、どうしますぅ?大人しくご自分の意思でついてきてくださるのならぁ。これ以上お友達を傷つけたりはしませんがぁ?」


ギリギリとハネとギャルゥの首が締め付けられていく。意識が落ちない範囲で調整しているのだろう、苦しそうにもがいている様は見るに耐えない。


「なんだ……そんなことか」


ギフトが臨戦態勢を解く


「……(また私は……置いていかれる……残される……今度も……)」


ギャルゥがじたばたと暴れるも朦朧とし始めた状態ではまともな抵抗などできようもない。


「大丈夫、安心して。君たちはこれ以上傷つけさせないから」


柔らかい笑顔だ、


今までのどこか緊張感のある作り物めいた美しい笑顔ではない。


心からの笑顔だった。


「……っ(ブレス君)」


ギフトが完全にブレスと重なる、顔が変わろうと、姿が変わろうと、その在り方は変わらない。


希望が封をこじ開ける。


「行けばいいんだろう、どこへ行くんだ?」


「ご自身からこちらへどうぞ」


シャドウの煙が黒い水たまりめいた塊を地面の上に作り出す。どこかにつながる穴になっているようだ。


「その前に二人を解放してくれ、そうじゃなけりゃここへは行けない」


「んぅ?そう言って連れて逃げるつもりじゃないでしょうねえ?」


「そんなことしたら今度こそ二人を殺すだろう、だから俺はお前に逆らえない」


ギフトがお見通しだと鼻で笑う。シャドウは新たに生み出した煙の手で顔を覆った。


「ふひっ、ご明察ですねえ。それが分かっているならば無駄なことはしますまい、解放しましょう」


ギャルゥとハネの拘束が解かれた。


「俺は……な?」


瞬間


「ガァアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


「……容赦なし」


ギャルゥの体を覆うように【恋人】のドームが出現しハネの手には糸があった。


「まあったく、近頃の子供は往生際が悪いですねぇ。【恋人】を使っても一緒ですよ」


獣のような形になっているギャルゥの【恋人】はシャドウに食らいつこうと顎を開けて迫っていく。


「学びませんねえ、当たらないんですよそんなものは」


煙のようにゆらゆらと揺蕩うシャドウにはギャルゥの顎は通じない。だが、そもそもギャルゥの【恋人】は攻撃するようなものではない。


住居型、それは中に収納するのが本領である。


「かかった……!!」


本命は下。


地面に同化して隠れていた大口がシャドウを丸呑みにする。


「こんなものすぐに壊して」


「容赦しないと言った……」


すぐさまハネが外側から糸で巻いて固める。密着するようにギャルゥの【恋人】のサイズも縮んでいた。


「何をしても無駄ですよ、攻撃に意味はないんですから」


「……言っていればいい」


巻いて、巻いて、巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて巻いて


そして光も通さぬほどに密閉する。


「……お前も生き物なら息をする、同じ苦しみを味わえ」


「なる……ほど……そういう……苦しい……ですね流石に……仕方ありません……」


「……!?」


確かにいたはずのシャドウは糸の中から姿を消した。来た時と同じように何の前触れもなく。


「あっ……」


ギャルゥの足から力が抜ける。無理を通して動いたツケが回ってきていた。


「大丈夫か、信じてはいたがまさか本当に撃退できるとは……」


ギャルゥを抱きとめたギフトの顔が霞む、感覚もどんどん曖昧になっていく。ふわふわとした上の空で浮かんだ言葉をそのまま呟いた。


「ブレス……くん……おか……えり……」


「……俺はギフトだ」


「うふ……ふ……そう……だね」



















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