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到達への道筋


「……本当に食ったな」


大量の熊肉は瞬く間にハネの体の中に収まっていった、小さな体のどこにそんなスペースがあるのか分からないほどである。


肉と同じように大量にあった血もまたギャルゥに飲み干されていた。しかしこちらは少し顔色が悪い。


「うっぷ……多かったです……」


熊がいた痕跡は匂いと毛皮だけである。


「保存する気はないのか……」


呆れ顔のギフトであるがそもそも塩もなければスパイスもないのでまともに保存できるような加工はできない。それでも数日だけ保つような物は作れるが肉がなくなってしまってはそれもできない。


「食後のところ悪いが、元の場所に案内してくれるか?」


血の飲み過ぎでフラフラしているギャルゥはここで首を振った。


横に。


「……案内できるんだよな」


「……(ぷるぷると首を振る)」


ギフトが内容を理解するまで


3


2


1


「どういうことだ!!」


「ひぃ……!?怒らないでくださいぃ……臭いが混ざっちゃって分からないんです……ごめんなさい」


熊、血、臓物、後から出現した匂いは強く濃い。加えて大量の栄養の接種によって過敏になっていた感覚は沈静化されていた。つまりギャルゥにも帰り道は分からなくなってしまったということである。


「……落ち着いて、叫んでも帰り道は分からない」


「お前が原因だろうがぁ!!」


原因の張本人がなだめるもそれは逆効果だった。


「すぅ……はぁ……」


深呼吸一つで落ち着きを取り戻す、たしかに怒鳴ろうと泣き叫ぼうと帰り道は分からないことに変わりはないのだ。


「……手段は二つある。一つは闇雲に走って出れる幸運に賭ける、もう一つは森をなぎ倒して道を探す。二つ目はしないほうがいい、貴種の怒りを買えば生きて帰れる保証はない。どうする?」


ギフトの提案に二人は首をかしげる


「あのう、跳んで辺りを見渡せばどっちになにがあるか分かるので戻れますよ?」


「飛んだら落とされるって言ったろう?」


「……それは羽根で飛んだらという話、足で跳ぶ分には大丈夫」


「とぶ違いってわけか……なるほどな……」


ギフトが深く頷く。


そしてかっと目を見開き両手を勢いよく広げた。


「そういうことは早く言え!!」


魂の叫びだった。もっとも最初の時点で口下手な二人に当たったのが運の尽きである。


「……分かってると思ってた」


「うん、きっと全部分かってるんだと……」


ハネとギャルゥが以外という風に顔を見合わせた、全てを見通す風な態度でいることの弊害がここに現れていた。


「いいか……俺はお前らのことは知らない。だからなにができるのかも、なにを思っているのかも分からない。だから言葉にしてくれないと分からない。言わないでも分かるような奴との付き合いでもあったのか知らないが俺は分からないんだ。頼むから言ってくれ」


言わないでも分かる奴、このフレーズは否が応でも何も言わなくても心を見通すように接してきた人物を思い出させる。だが、それ以上にギャルゥが眉をひそめさせる言葉がさっきのギフトの言葉の中にあった。


「お前らのことは知らない」


たしかにギフトはそう言った


「(知らない……?だったらあの時の言葉は……)」


ハネが熊を解体する時のことだ。


「……すごいとは知っていたがこんなこともできたのか……」


こう言っていたのをギャルゥの耳は捉えていた、明らかな矛盾がそこにはあった。本当に知らないのならばそんな言葉は出てこない。


「(聞いてみようか……だけど……知らないと言われたらそこで終わりだし……いや……詮索はやめよう……ブレス君はもう戻ってこないんだから……私が守れなかったせいで……)」


開きかけた蓋に封をする、希望を抱いてしまえば裏切られた際の傷はより深く、鋭く、心を抉り砕いてしまうのだから。


「で?誰が跳ぶ?」


顔を見合わせてから二人が同時にギフトを指す。


「……どのくらいのことができるのか教えて」


「お願いします……」


試されている。自分が何者なのか、【貴不死人】の関係者としていかほどのものなのか値踏みされている。

ギフトはそう理解した。


「(お腹一杯でまともに跳べそうもない)」


「(今跳んだら口から血が……)」


実際のところ二人は食後ですぐに動きたくないだけであったが。


「俺か……」


そんなこととは思ってもいないギフトは無駄に気合を入れる。【貴不死人】の名に泥を塗らぬよう全身全霊を賭すことを誓っていた。


「ふっ……はっ……」


念入りに足回りを伸ばして準備をする、なにせ見ているのは蟲人と獣人である。身体能力の高さでは到底及ばない彼女らに力を示すには相応の手段が必要となる。


「(いくよ)」


心の中で合図をする。


自分の力だけでは足りないならば他の力を借りればいいのである。つまりそれは【恋人】に他ならない。


「はぁっ!!」


地を揺らすほどの踏み込みとそれを全て上に向けた反発でギフトの体は空中へと撃ち出された。


「(よし、これくらい行けば周りは見える)」


上がりながら周囲を見渡して現在位置と目的地点を確認する。どちらに向かえばいいかをしっかりと目視した後にギフトは問題を発見した。


「あれ?着地は……」


跳ぶ分には問題はなかった、問題は張り切りすぎて跳んだ頂点から地上へ戻る際の衝撃である。相殺できれば問題はない、相殺しきれない時はどうなるか。


ギフトの想像力によってその惨状がリアルに再生された、へし折れる足、衝撃にひっくり返る内臓、痛みで切れる意識、そして、慌てて飛び出した【恋人】。


それだけは避けなければならない。


最悪怪我はしても【恋人】が出なければ問題はない、とはいえ心配性な彼女ならば骨が折れただけでも出てくる可能性が拭えないために実質無傷での着地が求められることとなる。


「となると……」


刻一刻と地面が近づいてくる、猶予は思ったほどないと判断したギフトは落下速度と地面との距離を木が近づいてくる速度から計算する。ざっと見て残り5カウントほどで地面に到達するとギフトは答えを出した。


5


「大丈夫だ……足が触れた瞬間に使えばいい……」


4


「上手くいく……いけるはずだ」


3


「……あれ?早いぞ?」


自由落下による加速を度外視していたギフトの計算は1カウントほど遅かったのだ。つまり次のカウントは一つ早まる。


1


「待て待て待て!?」


うろたえながらも着地のための準備を行う。発動の準備を整えた。




「うおおおおおおお!!!?」


雄叫びとともに着地は成功した、落ちる際の衝撃を見事に相殺していたのである。


「よしっ!方向はあっちだ!!」


着地に成功したこともあり思わずぐっとガッツポーズをとるギフト。


「……無理させてごめんなさい」


「あの……私たちが跳べばよかったですね」


それを迎えたのは生暖かい視線だった、なぜならば全身全霊の一跳びだったギフトに対してハネとギャルゥはこれくらいの芸当ならば素の身体能力で難なくできるのである。


「……っ」


それに気づいたギフトは顔を真っ赤にして俯いた。


「……べつに……俺でもできるし……実際できたし……一緒だし……」


ボソボソと言いながら拗ねるギフトは非常に可愛らしい、美しいという印象を持つ見た目とは裏腹に非常に子供っぽい振る舞いであった。


『(かわいい)』


二人の心の声が一致していた。












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