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遭難


「蟲人は飛べるな?空から戻る道を探すのが早い」


ギフトの提案にハネは首を振る


「……今飛んだら撃ち落とされる、国境に近いから飛べない……それに飛んだら失格」


「やっぱりか……来た道も分からないしな」


本来であれば来た道がわかるように印をつけるなりの道しるべを残すのが定石であるが、蟲の知らせの過信によりそれをすっかり失念していたのである。


「あの……匂いで戻れるかもしれません」


「本当か!!」


「ひぃ……!?大きい声を出さないでくださいぃ……」


怯えるギャルゥ、体調が少しましになったとはいえ精神の磨耗は治らない。神経が過敏になっていた。


だがそれ故に匂いを追うことができていた。


「……すまない」


「えっと……こっち……あれ?獣の……匂い」


「自分の匂いじゃないのか?」


呆れたようにギフトが言うがギャルゥの顔は真剣そのものであった。


「違います、これは熊です!!」


背後で何か大きなものが立ち上がる気配。すぐさまギフト達は振り返る


「……でかいな」


熊は元から大きくなる可能性のある獣ではある、だがそれでも大人二人分くらいまでが限界である。貴種であればその限りではないが、こんな場所に貴種がいるはずもない、であればこの小山のような熊はなんなのであろうか。


「突然変異か……?」


「……食べ応えがある」


ハネが地面をえぐり飛ばしながら跳躍、一足で熊の面前へと躍り出た。


「グァアアアアアアアアアアアア!!!」


突然現れた長髪お化けに熊も威嚇を行う、しかし威嚇を行うということは無防備に口を開けて声を発していると言うことである。


「……さよなら」


近くの木を踏み台にしてハネは口内へと飛び込む、一切の躊躇のないその動きは熊に追うことはできなかった。そして口内で舌を蹴りハネの体が上へと撃ち出される。


「ゴァッ!?」


柔らかい体内がハネの勢いに耐えられるはずもなく上顎を突き抜けて頭までハネの体が貫通する。


熊は白目を剥きその場に倒れる、即死であった。


「……さあ、食べよう?」


全身を血と唾液と脳漿で汚したハネが帰還した、ひどい姿でひどい匂いである。とてもこのままの姿で食事をする気にはなれない。


「ゲホッ……ゲホッ……まずは体を洗いましょう……お願いします」


鼻も敏感になっているギャルゥは涙目である。


「まずは水浴び……話はそれからだ」


若干引きながらギフトも賛成する、しかしハネはなぜ水浴びをしなければいけないのか分からない。


そんなの食べた後でいいと言わんばかりである。


「……どうして?」


「「どうしてもだ(です)!!」」


幸いギフトによって小川が見つかったためにハネの惨状はすぐに元に戻った。


「驚いたな……汚れたのは表面だけか」


「……だから後でもよかったのに」


ハネの髪は光沢を失わず汚れをほとんど受け付けていなかったために水で流すだけでほぼ手入れが終わり、その髪に守られたからであろうか服や身体にも汚れはほとんどなかったのだ。


恐るべき轟来族は汚れに対しても強いのだった。


「さて……こんなでかい熊はどうしたらいいか」


「……任せて」


ハネの手に漆黒の糸が現れる。目にも留まらぬ手さばきによって熊は逆さ吊りになった。


「……解体もできる……何か気をつけることはある……?」


「血はとっておいてくれ、こいつの食事だ」


ギャルゥを指差す。


そのことでハネは少しだけ不機嫌になった。


「こいつじゃない……ギャルゥ」


「名前なんてどうでも……よくはないな。分かったギャルゥと呼ぼう、お前は何と?」


「ハネ」


「分かった、じゃあ頼むぞハネ」


「……任された」


漆黒の糸で編まれた盆に血を溜めながら解体が進行していく。的確に関節を外し肉に変えていく様はもはや職人芸の域である


「……すごいとは知っていたがこんなこともできたのか……」


思わず感嘆の言葉が口をついて出た。


すぐに大量の肉が目の前に積まれていくことになるがやはりその量が尋常ではない、とても3人では食べきれない量になってしまった。


「分かってはいたが……大量だな……」


「……大丈夫、全部食べられる」


ハネがぐっとサムズアップをする。


「しかし、なかなか良い肉なんじゃないか。美味そうだ」


ギフトが舌なめずりをする、美貌ゆえにそんな仕草も色っぽく見えてしまう。


「……そのまま食べると他の種はお腹を壊す……火を起こすから少し待って」


「そう……ですね。獣人でも蟲人でもドラゴニュートでもないようですし……?」


ここでハネとギャルゥは顔を見合わせた。


【貴不死人】の推薦という特異性と「俺」と「私」の二面性に気をとられていたがそれ以上の異常性がギフトにはあった。


種族不明。


耳も尻尾も翼もない、角も爪も触覚もない。


だがそんな異常を【赤玉】組は何の違和感もなく受け入れていた。


それはなぜか。ブレスもまた同様であったからだ、種族不明だが不思議な魅力があった。そんなことをどうでも良いことと思わせる人物だった。


二人の頭に同じ考えがよぎる。


「ギャルゥ……」


「……違うよ、あれは違う人だよ。ブレス君はもう死んだんだから」


「……そう」


確認するためにハネが肉を見て楽しそうなギフトへと近づいていく。


「あむ……はむ……美味いな……んむ」


「っ!?」


ギフトはなにかを食べていた、いや、ここで食べられるものなど一つしかない。


生の肉である。


「ん?ああ……つまみ食いをしてた」


驚いて固まっているハネを見てギフトが笑った。


大輪の花が咲くような笑顔だった。血がその唇につくことで紅を差したかのごとく色づいていた。


ハネの心臓が跳ねる。


似ている。


ふとした瞬間に見せる艶やかさも同じ。


「新鮮な肉はそのままで食べるのが一番美味いんだって聞いたことがあったんだが……本当だな!」


知っている。


あの時も同じことを言っていた。


「……」


確認しなければならない。


そう思った時ハネの行動はすでに完了していた。


「うおっ!?なんだ?」


ギフトへと詰め寄り顔をを最大限に近づける、ギフトの司会はハネの複眼で埋め尽くされた。


確認するのは瞳


どこまでも深く、底の見えなかった漆黒の。


「怒ったか……?」


動揺するギフトの金の瞳が揺れる。そこにあったのはただ光る大きな金色。


全てを飲み込む黒ではない。


「……(本当に勘違い……ん……何か……ある……?)」


じっと見つめられ続ける心当たりがないギフトは戸惑いながらもされるがままであった。経験上、この状態の女性に刃向かうことで良いことが一つもなかったがゆえに。


「なに……これ……」


ハネの複眼が捉えたのは瞳の上を走る極小の粒であった、それは絶えず瞳に何かをしているようであったが分かるのはそこまでだった。


「そろそろ放してもらえるか……?」


これ以上の発見をすることはできないと判断してハネはギフトを解放した。


「……ごめんなさい、寄生されてたら危ないから」


「寄生……熊から人に寄生するものなんてあったかな?」


「……なにがあるか分からない、だから少しは気をつけて」


「それもそうか……不注意だった。次からは気をつける」


「分かればいい」


ハネがくるりと後ろを向く、何とか乗り切ったが内心焦りまくりであった。誰が「死んだ友達かもしれないから確認してた」などと言えるだろうか。どう転んでも悪いことにしかならない。


「……ギフトは何かを隠してる、もしくは隠さなきゃいけない何かがある……」


すれ違いざまにギャルゥにそう告げた。














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