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英雄


どこでもないどこか


【貴不死人】と【黄金】組の面々が顔を合わせていた。



顔を合わせていたのは少し前までで、今は【黄金】組は全員に地に倒れ虫の息であった。


「んでよ、なんでこいつらにオレ達は目の敵にされてんだよ。なんかしたか?」


血で汚れた拳を拭きながら剛は言う、本当に心当たりがないようである。


「この中に記録の管理者がいるだろう?そいつから聞いたんだろうな。余達が世界を脅かす存在とでもいったのだろうな」


「ぶははははっ!!!それで同級生みんななぎ倒してからオレ達を倒しに来たってか?かっこいいねえ、正義の味方じゃねえか!!」


「……何を笑う……【終焉】は倒さなければ……それに……ブレス……を……お前達は……!」


息も絶え絶えの状態でハジメが睨み付けていた。その目には復讐の炎と使命感の光が灯る。たとえ力及ばずとも諦めずに食らいつくという気概がありありと伝わる、その瞳をするものに【貴不死人】は見覚えがあった。


『ははははははははははははははははははははははははははははは!!!!』


こらえきれないといった様子で【貴不死人】が笑う。非常に愉快そうな声と裏腹にその場の空気は冷え切っていく。


「そうか……お前達は英雄ヒーローなのだな。久しぶりに見る……」


校長がゆっくりと近づいてくる。


「そんな瞳をした者を幾度となく見た。だがそれらは皆、死体ものになったよ」


近くにかがみハジメの顎を持ち上げる、人間離れした美貌が冷たく笑った。


「英雄はもういらないんだ、世界がそう言った。結果を見ろ、英雄おまえたちは負けて死に。【貴不死人わたしたち】は生きて力を持った。これが答えだ」


「おいおい、そんな風にいってやるなよ。オレは好きだったぜあいつら、何度やっても立ち上がってきて言うんだ「負けるものか、私たちは屈しない」ってなあ。それは全部叩きつぶしたけどよ」


「僕は嫌いだよ、だって僕の発明とか技術とか壊そうとしてくるんだもん。だから逆に素体にしちゃったんだけど。素体は良い材料になったなあ」


「あんな奴らの相手をするだけ無駄だ、あんなものは夏場の雑草のようなものだ。抜いても抜いても生えてくるのだ。だから余は根元から駆除した訳だが」


「ええ、滑稽でしたね。帰る場所を失った英雄に何ができましょう。いとも容易く、くずおれてしまいましたね」


「うーん、なんというか運が悪い人たちだよね。【貴不死人わたしたち】がいなければそれこそ世界を救うことだってできただろうにね。ほんとに間が悪いよ、だからまあ諦めて死んで貰ったんだけどさ」


かつてを回想して語る【貴不死人】の顔は懐かしむようであり悲しむようであり、楽しそうでもあった。


「……この……ばけ……もの……が……!」


「ハジメ・カミイズミ、お前はあの家の出だから警戒していた。余の目は正しかったな?」


祖に剣神をいただくカミイズミの家はかつて英雄を多く排出する名家だった、それは【貴不死人】が台頭するまでの話である。


「まったく、何のために記録の管理を行っているんだか分からないじゃないか。そうだろうジュハ・レコード、今回は英雄の卵のおいたと言うことで咎めはしないが今度情報を漏洩しようものなら消してしまうぞ?」


「……そんな……ことは……覚悟の……うえ……」


「ああ、違う違う。君じゃない、君の家族だよ。幸いエルフの人口は安定しているから一族一つ消えたところで大きな変化はない。また新しいレコード一族を見繕うのは手間だがね」


「っ……悪魔……!!」


「それも聞き飽きた、なんとでも言うが良い。初めて言われた呼び名ならご褒美でもあげようじゃないか」


事実である。レコード一族は全員を合わせてもエルフの人口の1%にも満たない。周囲との関係も薄いため消えたところでさした影響はない。


「嘆かわしいなぁ……どうして【貴不死人】のことを倒そうだなんて思いつくんだろう。機人として興味のつきない題材のはずだけどなあ……マッド・ヴィクター君はそうは思わないのかな?」


「ひはは……俺様は狂ってるが……世界の歯車を狂わせるものに夢中になれるなんて……壊れてるぜ……あんた」


「お褒めにあずかり光栄だねえ、ところでマッド君は自分のご先祖の話って知ってるかな?」


「どうでも……いい」


「そう言わないでよ、君のご先祖は英雄でねえ。フラン・ヴィクターって言うんだけど僕の最初で最後のお嫁さんだったんだ」


「……!?」


「これから先は教えてあげない、強くなったらおいでよ。そしたら全部教えてあげる」


どこまでも小馬鹿にしたような匠の言であるがマッドはその言葉を看過できない。フラン・ヴィクターは伝説の機人である、その遺産・技術には計り知れない価値がある。


機人の中にはそれを探し求めて一生を使いきる者も多い。


「あなたは……蜂ですか。大人しく蜜を集めていれば良いものを、どうして牙をむくのです?今の【貴不死人】を滅ぼす理由なんてないでしょうに」


「……うらぎり……の……恥を……しりなさい……」


「あははははは!!月並みですねえ。良いですか、蟲は自らが焼かれると知ってなおかがり火に飛び込むものなのですよ。私は喜んでこの身を焼かれたのです、あの人が妾のものになるのなら妾があの人のものになれるならどんな悪逆も非道も行いましょう。それが【愛】というものです、あなたはそれを知っているはずですが?」


「く……」


ホウは何も言い返す事ができなかった、自らの内にかがり火に飛び込む心があったが故に。


「何で来ちゃったのレオーマちゃん。別に恨みも理由もないでしょ?」


「仲間……が……こまってたら……助けなきゃ……」


「良い子~!!でもね」


太陽の瞳がすっと細くなる、捕食者としての顔が表に出てきていた。


「守るものはよく考えて、守り切れるものなんて両手に入る広さのものだけなんだからね」


「むずかしい……わからない……よ」


「そっか~、でもまあ分かるときが来るよ」


それぞれが言葉を交わした後に校長が思い出したように言った。


「そういえばハジメは私がブレスを殺したと思っているようだ」


「そう……だ……が……石化させて……殺した……!!」


「それは勘違いだ。お前を英雄だと見込んで頼みがある」


「だれ……が……【終焉】の……たのみ……なんて」


「ブレスを蘇らせて欲しい」


ハジメの表情が無くなった、嘘と断ずることは容易だがそれが本当であるならば断れるはずもない。英雄として外れた力を持ってしまったハジメにとっては数少ない友達なのだから。


「嘘だと思うならそれでもいい、だがブレスが一刻も早く戻ってくるにはお前の尽力が欠かせない」


「なに……を……いっている」


「簡単なことだよ、お前が英雄として活躍してくれればいいだけだ。そうすればお前に世界の目がむくだろう。今ブレスは戻ってこられない【恐怖】使いと認定されかねないからな」


【恐怖】使い


それは国際指名手配に近い、賞金首と言っても良いだろう。つまりは世界に仇なす者として命を狙われるということだ。そうなってしまえばブレスに幸せな生涯は絶対にやってこない、それだけは【貴不死人】としてというか親として絶対に避けねばならない。


「授業参観で【恐怖】を出現させたブレスを過去にするほどに目立てばいい。疑り深い奴でも忘れてしまうほどにだ」


【恐怖】は一歩間違えば世界を滅ぼしかねない要因である、故に自我を持った【恐怖】を出現させたブレスは確実にマークされている。処刑の映像をはなから信じていない者も少なからず存在しているのだ。そのような者どもからブレスの記憶が抜け落ちるほどにハジメが活躍したならば、ブレスは戻ってくることができる。


【貴不死人】の力は絶大であるが絶対ではない。


大きく動くためにはいくつかの制約が存在する、ゆえに全てを力尽くで解決することはできないのだ。


「【貴不死人】はこれ以上動けない、頼んだぞ」


「……く……そ……」


「ではな、英雄」


【黄金】と【貴不死人】の初めての邂逅はここで終わりとなった。



















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